
(否認すると身柄拘束期間が長くなると脅して自白を取った捜査機関)
ウイルス感染したパソコンから犯行予告が送信された、いわゆるPC遠隔操作事件で、警視庁と神奈川、三重、大阪各府県警の合同捜査本部は2013年2月10日、インターネットの掲示板に襲撃予告を書き込んだとして、威力業務妨害の疑いで東京都江東区の会社員(30)を逮捕したということです。
しかし、同容疑者は
「全く事実ではありません」
と容疑を否認しているとのことですから、一連のPC遠隔操作事件の真犯人だと決めつけることは厳に慎まなければなりません。いえ、たとえ否認していなくても。
私は、犯罪報道に関しては、初期報道には反応しないようにしています。なぜなら、誤報が飛び交うし、捜査機関による印象操作が行われることが常で、報道を真に受けるのが危険だからです。
しかし、今回の報道にその日のうちに反応するのは、この事件全体が捜査機関の黒星続きで犯人逮捕に焦っているので、新たなえん罪事件が発生する可能性が高いからです。
一般に、どんな刑事事件でも推定無罪の原則が非常に大切で、たとえ逮捕されたからと言って捜査段階で実名報道するのは厳に慎むべきなのですが、単なる「容疑者」=被疑者=捜査機関に嫌疑をかけられている人なのに、マスメディアが犯人扱いして実名報道しますから、一般市民の方は逮捕されれば真犯人だろうと思い込んでしまうのは無理もありません。
まして、この事件では各都道府県警が4人の方を誤認逮捕し、うち2名の方には自白を強要しました。
PC遠隔操作なりすましウィルス事件は自白強要による冤罪が問題だ
(自白させられ保護処分が言い渡された少年。ほかに否認したまま起訴された無実の人もいる)
まさか無実の人がやってもいないことを自白するわけがないというのが一般人の常識ですが、我々弁護士からすれば、まるで無辜(無実)の方にでっちあげの自白をさせることくらい、捜査機関にとって自由自在なのは常識です。
これまでのえん罪事件も、そのほとんどが自白事件です。そう、プロの捜査官が密室の取調室や長期の身柄拘束期間を使えば、まるで身に覚えがない人に自白させるなどたやすいことです。
横浜の事件で逮捕された少年は、やってもいないのに
「楽しそうな小学生を見て、困らせてやろうと思った」
と動機まで「自白」させられています。
さらに、プロ中のプロであるはずの裁判所でさえ、自白偏重、無実の人が自白するわけがないと思い込んでいるからえん罪事件が起こるのです。
上記の少年事件では、すでに家裁の処分が下りてしまっていて取り消さなければいけなくなりました。そして、逮捕されたご本人はもとより、捜査機関の言うことを半信半疑ながら真に受け、我が子を疑ってしまったと後悔するお父さんのコメントも発表され、法律家として、子を持つ同じ親として、深く考えさせられました。
PC遠隔操作事件 家裁の異例の保護観察取り消し処分にあたり、お父さんがコメントを発表されました
(捜査機関も思い込みでできる補充捜査をしなかった)
警察も検察も、この事件でも無実の人を逮捕し、しかも全くでっちあげの自白を取ってしまったことに強い反省がありません。もう長らく必要性が指摘されている取り調べの全面可視化=全部録音・録画も、彼らの抵抗で実現していないのです。
そんな中、今日、なりすまし事件の容疑者とされる人が逮捕されました。
非常に危険です。これまでのえん罪事件も大事件なのにどうしても犯人が捕まらず、とりあえず都合の良さそうな人を捕まえてでっちあげてしまったものがほとんどです。現在の報道では、逮捕された人がIT関連会社にお勤めであること、同種前科があること、江ノ島で猫に本件関連のデータを付けた防犯カメラの映像から逮捕されたというようなことが言われていますが、それが本当だとしても証拠としては間接的であり、決定的ではありません。
この事件でも、今は逮捕された人が否認していますが、近いうちに「容疑者が自白」という報道がされるかもしれません。しかし、自白調書が取られても、それが真実の自白でない場合があること、全く無実の人でも「自白」することがあることは、今回の一連のPC遠隔操作事件で我々も身に沁みたはずです。
マスコミも全く反省していないようです。絶対にさらなるえん罪事件とならないようにするためには、我々市民の厳重な監視が必要です。
そして、いち早く、取り調べの全面可視化の実現を。
取調べ可視化の重要性 大阪地裁で放火被告事件 無罪判決
取り調べ全面可視化は絶対必要!小沢裁判で調書一部不採用 佐賀国賠で検事の接見交通権侵害で弁護士勝訴
東電OL殺害事件 マイナリさん再審無罪確定 戦後8件目の死刑台・無期懲役からの生還
えん罪事件も他人ごとではないのですから。
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PC遠隔操作、都内の30歳男を逮捕…容疑否認
男性4人が誤認逮捕されたパソコン遠隔操作事件に絡み、警視庁などの合同捜査本部は10日午前、愛知県内の会社のパソコンを遠隔操作して殺人予告の書き込みをしたとして、東京都江東区白河、会社員片山祐輔容疑者(30)を威力業務妨害の疑いで逮捕した。
片山容疑者は容疑を否認している。
一連の事件では、大学生の少年を含む無関係の男性4人が誤認逮捕され、マスコミに犯行声明が送り付けられるなどしている。捜査本部は、これら一連 の事件にも片山容疑者が関与している可能性があるとみて調べを進める。インターネット社会を象徴する劇場型犯罪は、解明に向けて大きく動き出した。
発表によると、片山容疑者は昨年8月9日、愛知県内の会社のパソコンを遠隔操作し、ネット掲示板「2ちゃんねる」に、江東区で開かれる大規模な漫 画イベントでの大量殺人を予告する書き込みをし、主催者側の業務を妨害した疑い。片山容疑者は「まったく事実ではない」と供述しているという。
事件には、匿名化ソフト「Tor」が使われていたことなどから捜査は難航していたが、先月5日、神奈川県・江の島で、首輪に遠隔操作型ウイルスのデータが入った記録媒体を取り付けた猫が見つかり、捜査本部は防犯カメラの映像などから、片山容疑者を割り出した。
PC遠隔操作で30歳の男逮捕 威力業務妨害の疑い
ウイルス感染したパソコンから犯行予告が送信された遠隔操作事件で、警視庁と神奈川、三重、大阪各府県警の合同捜査本部は10日、インターネットの掲示板に襲撃予告を書き込んだとして、威力業務妨害の疑いで東京都江東区、会社員片山祐輔かたやま・ゆうすけ容疑者(30)を逮捕した。「全く事実ではありません」と容疑を否認している。
一連の事件では4人が誤認逮捕され、「真犯人」を名乗る人物から犯行声明が報道機関に送り付けられていた。合同捜査本部は関係先を家宅捜索し、一連の犯行の経緯や動機の解明を進める。
逮捕容疑は昨年8月、ネット掲示板2ちゃんねるに「コミケ(同人誌即売イベント)で大量殺人」などと書き込み、会場の警備を強化させるなど主催者側の業務を妨害した疑い。
事件が発覚した昨年10月以降、真犯人を名乗る人物が報道機関などに犯行声明メールを送り付け、計13件の襲撃予告の詳細に言及。ことし1月には、メールの内容通り、江の島(神奈川県藤沢市)にいた猫の首輪から記憶媒体が見つかった。
記憶媒体の鑑定で、事件に使われた遠隔操作ウイルス「iesys.exe」の設計図に当たるソースコードが確認され、捜査本部は真犯人が取り付け たと断定。現場周辺の防犯カメラ画像の解析で、片山容疑者とみられる男が猫に近づく様子や同容疑者が使ったとみられるバイクが写っていたことが分かった。
片山容疑者は以前、襲撃予告事件で逮捕、起訴されて実刑判決を受けており、記憶媒体には「以前事件に巻き込まれたせいで、無実にもかかわらず、人生の大幅な軌道修正をさせられた」など、犯行動機とみられる書き込みもあった。
遠隔操作事件では昨年7~9月、男性4人が誤認逮捕され、4都府県警が刑事処分を取り消すなどして謝罪。捜査の問題点をまとめた検証結果を公表した。
なりすましメール 逮捕の30歳男、平成17年にも逮捕 大手レコード会社社長らの殺害予告容疑
- 産経新聞
- 2013年02月10日09時48分
遠隔操作ウイルス事件で、警視庁などの合同捜査本部に威力業務妨害容疑で逮捕された東京都江東区に住む片山祐輔容疑者(30)が、平成17年にインターネット掲示板に大手レコード会社社長らの殺害予告を書き込んだとして、脅迫容疑などで逮捕されていたことが10日、捜査関係者への取材で分かった。
同罪などで起訴され、懲役1年6月の実刑判決を受けた。真犯人は神奈川県藤沢市の江の島で見つかった記録媒体に「以前、事件に巻き込まれたせいで、無実にもかかわらず人生の大幅な軌道修正をさせられた」などと残しており、合同捜査本部は警察などへの逆恨みから犯行を計画したとみて詳しい動機を調べる。
捜査関係者によると、片山容疑者はネット掲示板「2ちゃんねる」に仙台市の女児の殺害予告を書き込んだとして、宮城県警に17年10月に脅迫容疑で逮捕。同様に大手レコード会社社長に対しても殺害予告などをしたとして、警視庁に同年11月に再逮捕されるなどしていた。
真犯人は昨年10月に報道機関などに送った犯行声明メールでも、「私の目的」として「『警察・検察を嵌(は)めてやりたかった、醜態を晒(さら)させたかった』という動機が100%です」とつづっており、合同捜査本部が関連を調べている。