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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

東電OL殺害事件 マイナリさん再審無罪確定 戦後8件目の死刑台・無期懲役からの生還

2012年11月07日 | 刑事司法のありかた

(釈放され、故郷ネパールでお母さんに迎えられたマイナリさん)

 

 

 1997年(平成9年)に東京電力の女性社員が殺害された事件の再審裁判で、かつて逆転有罪判決を下した東京高等裁判所は「女性を殺害した犯人はDNA鑑定で新たに明らかになった別の男である可能性が高い」と指摘し、2012年11月17日ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんに無罪を言い渡しました。

 再審請求と再審の過程で、被害者の爪の付着物から別の男のDNAが新たに検出されるなど、検察が隠していた証拠がと明らかになり、10月行われた再審裁判で、再審開始さえ反対していた検察自らが無罪を言い渡すよう求めざるを得ませんでした。

 これで、事件から15年を経て無罪判決は確定しました。警察・検察の予断に満ちた捜査のせいで、真犯人は闇に消えたのです。

東電OL殺人事件 検察「ただちに再審事由にならず」 DNA再鑑定で別の男性の体液・体毛 当然再審!

東電OL殺人事件 検察が証拠隠滅 別人の唾液・皮膚片を証拠開示せず DNA鑑定へ 

東電OL殺害事件 再審前にさらに無罪ダメ押しの新証拠 なぜ証拠隠蔽と冤罪事件は起こったのか

(警察・検察が隠していた証拠が出そろうと、被害者の方の体から出てきたのは、マイナリさんとは別の人物のDNAばかりだった)

 

 

 東京高裁は判決で

「被害者の爪の付着物は犯人から首を絞められた際に引き離そうとしてつかんだときに付いた可能性が考えられる。この付着物の鑑定で新たに明らかになった別の男のDNAはほかの場所でも見つかっていることなどからこの男が女性を殺害した犯人である可能性が高い」

と指摘してマイナリさんに無罪を言い渡しました。当然の判断だと思います。しかし、かつて一審無罪判決を覆して逆転有罪判決でマイナリさんと家族を絶望のどん底に叩き落とした裁判所として、全く謝罪もしないというのは許されません。

 ところで、死刑か無期懲役が確定したあとに再審=裁判のやり直しによって無罪となったのは、戦後発生した事件では、今回で8件目になります。このうち死刑が確定した事件では、1948年(昭和23年)に熊本県で夫婦2人が自宅で殺害された免田事件や、1950年(昭和25年)に香川県で63歳の男性が自宅で殺害され現金を奪われた財田川事件など 4件に対して再審で無罪が言い渡され確定しています。

 また、本件のように無期懲役が確定した事件では、1990年(平成2年)に栃木県で当時4歳の女の子が殺害された足利事件や、1967年(昭和42年)に茨城県で1人暮らしの男性が殺害された布川事件など3件で無罪が言い渡されて確定しています。

 どんな冤罪も取り返しがつかないのですが、特に死刑・無期懲役判決確定の事件で、これだけ再審無罪判決が出ているのは深刻な問題です。足利事件や本件などにより、冤罪事件が昔の話ではなく、現在進行形であることもまざまざと見せつけられました。

 これらの冤罪事件もほとんど全部、無実の人が自白させられています。最近では、ウィルスによるPC遠隔操作なりすまし事件でも、無実の人が二人自白を取られていました。

PC遠隔操作なりすましウィルス事件は自白強要による冤罪が問題だ

PC遠隔操作事件 家裁の異例の保護観察取り消し処分にあたり、お父さんがコメントを発表されました

(再審無罪が確定して喜ぶ足利事件の菅家さん!良かった!!)

 


 来週、無罪判決が出るであろう小沢被告人の政治献金事件でも、捜査機関の強引な捜査が明らかになり、秘書らの供述証拠が証拠として採用さえされませんでした。

取り調べ全面可視化は絶対必要!小沢裁判で調書一部不採用 佐賀国賠で検事の接見交通権侵害で弁護士勝訴 

小沢一郎氏・陸山会事件は不起訴にすべき事件だった。検察審査会の強制起訴は人民裁判であってはならない


 冤罪事件を防ぐためにできる処方箋はもうずいぶん出ています。捜査機関の見込み捜査や自白偏重からの脱却は一朝一夕にできることではなく、不断の努力が必要ですが、取り調べの全面可視化(全部録音・録画)は制度さえ整えればすぐできることです。

 全面可視化されることで、脅迫や利益誘導などによる違法捜査は事前に抑制され、事後的にチェックが容易になります。録音・録画されると取り調べしにくいなどという捜査機関の言い訳は、これまで密室の取調室で弁護人の立ち会いもなく強引な取り調べをしてきた何よりの証拠です。

 イギリスなど取り調べ可視化の先進国では、むしろ被疑者が取り調べ中に暴力を振るわれたなどと嘘の言いがかりをされることが減ったなどと、捜査機関からプラスの評価がされています。

 密室での取り調べがあとから「見える」ようになって、公判での無用の争いも減り、裁判所・裁判員が事件に集中できるようにもなります。是非、取り調べの全面可視化を実現すべきです。

捜査機関が取り調べ全面可視化をいやがる理由

本末転倒!取調べ可視化法案 国会提出見送り?

取調べ可視化の重要性 大阪地裁で放火被告事件 無罪判決

  

 さらに、村木被告人が冤罪をでっちあげられた郵便不正事件など、本件のように強大な権限を持つ捜査機関が自己に不利な証拠を隠蔽・破棄・改ざんする事件も相次いでいます。捜査機関の証拠保管義務の強化と、検察側の手持ち証拠の事前全面開示制度も整備していかなければならないでしょう。

上司 被告人本人 部下 業者全員否定 郵便不正事件

(郵便不正事件で冤罪の憂き目にあった村木さん。無事、復帰されました)

 

 

検察・警察は無駄な抵抗をやめよ。

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(再審開始決定でお喜びになるマイナリさんのお連れ合いと娘さんら)

 

 

毎日新聞 2012年11月07日 12時04分(最終更新 11月07日 13時24分)

マイナリさんが出した自筆のコメント
マイナリさんが出した自筆のコメント

 逆転有罪判決から12年間訴え続けた「無実」が認められた。東京高裁で7日、ネパール国籍のゴビンダ・ プラサド・マイナリさん(46)に無罪が言い渡された東京電力女性社員殺害事件の再審控訴審判決。検察側の有罪主張放棄を経て出された判断に、支援者らは 「ようやく真実が明らかになった」と歓喜の声を上げた。一方で、当時の捜査関係者らは複雑な心境を漏らし、裁判所から謝罪の言葉はなかった。

 ◇裁判所の謝罪なく

 「本件控訴を棄却する」。東京・霞が関の東京高裁で午前10時半に開廷した判決公判の冒頭、小川正持(しょうじ)裁判長は厳しい表情のまま、1審無罪判決に対する検察側控訴を退けた。

 続けて無罪の理由を説明。「再審公判では弁護人だけでなく、検察官も控訴棄却を求めている」と述べると、傍聴席に座ったマイナリさんの支援者、客野(きゃくの)美喜子さん(60)は表情を崩さず、無言のまま小川裁判長を見つめた。

 支援者の多くは裁判を傍聴したが、裁判所正門前にも十数人が待機。判決を聞いた支援者の一人が正門から 「再審無罪」と書かれた垂れ幕を掲げて飛び出してくると、拍手とともに「真実が明らかにされた」との声が上がった。一方、マイナリさんに対する裁判所の謝 罪はなく、閉廷後の傍聴席で「裁判官は謝れ」と叫ぶ人もいた。

 「神様、やっていない」。00年12月、同じ東京高裁で逆転有罪判決を受けたマイナリさんは法廷で怒り の声を上げた。その際、石のように体を固めたという。マイナリさんはネパールに帰国し、姿はなかったが、支援者を通じて「無実のものがけいむしょにいれら れるのは私でさいごにして下さい」との自筆のコメントを出した。【島田信幸、山田奈緒、吉住遊】

 ◇「捜査、間違いなかった」…元警察幹部

 「刑事司法の課題が浮かんだ」。マイナリさんの無罪判決について、事件当時の捜査関係者や元裁判官は後悔や教訓の言葉を口にした。一方で「捜査に間違いはなかった」と言い切る元幹部もいた。

 警視庁の捜査をチェックする側の元検察幹部は後悔の念を募らせている。「(取り調べた)事件関係者がうそをついているかもしれないという視点が欠けていた」

 再審無罪を生んだ最新のDNA型鑑定について、この元幹部は「試料が残っていなければ無罪はなかった」と指摘、試料を適正に保存する重要性を訴えた。

 再審請求審で検察側に証拠開示を提案した元東京高裁部総括判事の門野博・法政大法科大学院教授は「もっと早い段階で鑑定すべき証拠があった」と言う。ルールがない再審請求審での証拠開示のあり方について、「関係機関で開示の運用ルールを協議すべきだ」と提案した。

 捜査を指揮した警視庁の元捜査1課長、平田冨峰さん(70)は鑑定技術の進歩について「素晴らしいこと。今後の事件で捜査に生かせばいい」と評価。一方で「他の証拠も積み重ねて判断しており、当時の捜査に問題はなかった」と言い切った。

 ◇警視庁が20人態勢で再捜査

 警視庁捜査1課は7日、長期の未解決事件(コールドケース)の捜査員を中心とした20人態勢で真犯人の 特定に向けた再捜査を始めた。龍一文(りゅうかずふみ)捜査1課長は「判決を今後の捜査に生かしたい。必要があれば、マイナリさんから話を聴くことも検討 する」と話した。

 ◇解説…冤罪防止に重い教訓

 1審無罪、2審有罪と判断が割れ、裁判のやり直し直前になって検察がマイナリさんの有罪主張を放棄するという異例の展開を見せた東電女性社員殺害事件。再審無罪に帰着した背景には、DNA型鑑定技術の進歩と05年以降の証拠開示制度の整備という事情があるが、教訓は残る。

 高精度のDNA型鑑定が再審無罪に導いたケースとしては「足利事件」が記憶に新しい。だが、逮捕の決め 手だった草創期のDNA型鑑定に明確な誤りが見つかった同事件と異なり、東電事件の捜査段階の鑑定結果に問題はなかった。マイナリさんは取り調べに否認を 貫き、「虚偽自白」も存在しない。それでも刑事司法は約15年間の拘束を許し、被害者遺族の無念を残したという経緯にこそ、今回の無罪が投げかける重さ、 難しさがある。

 捜査公判当時、証拠開示制度は未整備で、裁判官が限られた証拠の中で難しい状況証拠判断を迫られたのは間違いない。一方、DNA型鑑定は発展途上で、最近のように微量な試料を解析できなかった事情も大きい。

 現在、捜査当局は「自白頼み」ではなく、科学捜査を柱とする客観的証拠の収集に力を注ぐ方向に向かいつ つある。今回の再審無罪がその流れに拍車をかけるのは確実だ。だが、「白黒」を簡単に判定できるかに見える科学鑑定は正確な結果であっても、評価を誤れば 別の冤罪(えんざい)を生みかねない。事後チェックを可能とするため試料の長期保存も不可欠だ。

 冤罪を生まず、真犯人を正しく裁くことのできる刑事司法をどう実現するか。法曹三者は改めてこの重い課題に取り組む必要がある。【和田武士】

 

 

マイナリさんが会見“許せない”

11月7日 17時55分 NHK

無罪が確定したマイナリさんは、日本時間の7日午後5時すぎ、ネパールの首都カトマンズで記者会見し、日本語で「真実が最後には勝つという気持ちで頑張りました。きょうの結果が出ると知っていましたが、でも、うれしいです。これからの人生、家族と一緒に幸せに暮らしたい」と述べました。
そのうえで逮捕以来15年間身柄を拘束されたことについて「ぼくとすべてのネパール人に謝って欲しい。許せません」と訴えました。またネパール語での声明で再審の決め手になったDNA鑑定について触れ、「なぜ最初からDNA鑑定をしなかったのか。無実なのに長い間、刑務所にいて苦しい思いをした。証拠を隠して鑑定もせずに一方的に容疑をかけられた。日本の警察や検察は私や家族に謝罪すべきだ」と述べ、警察や検察の捜査を批判するとともに、悔しさをにじませました。


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