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【政策会議日記6】国の会計は複式簿記?(財政制度等審議会)

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1月28日午前に、私も委員として出席した財政制度等審議会財政制度分科会法制・公会計部会が開催されました。毎年1月末を目途に前年度の決算に基づく「国の財務書類」が公表されますが、それに合わせて同部会も開催されます。

そもそも、公会計とは、公共部門の会計のことです。民間企業が、経営状態を明らかにするために、会計基準を設けて財務状況を公表するのと同じように、政府も主権者たる国民に対して、財政状況を公表する必要があります。その際に、どのように有益な情報を提供するかが重要となってきます。

特に、日本の政府債務残高は未曾有の規模に達し、もはやこれ以上節度のない財政赤字の拡大は許されない状況です。これを改善するには、財政を健全化する政策スタンスをとるとともに、政府の予算・決算を国民によりわかりやすく説明することや、予算・決算の内容と各省庁・部局の権限をきちんと関連付けて行政責任を明確にすることも求められます。民間企業では、株主や取引相手に対し、自社の財務状況をわかりやすく説明したり、決算内容如何によっては経営者が責任を取ったりすることは、通常の姿です。その発想を行政に生かして、公会計制度を改善することが必要です。

「国の財務書類」は、国の一般会計や特別会計を全体として捉え、企業会計の考え方及び手法(発生主義、複式簿記)を参考として、資産や負債などのストックの状況、費用や財源などのフローの状況を、一覧できるようにわかりやすく開示するものです。2003年度決算分から作成・公表しています。

確かに、「国の財務書類」には、貸借対照表など企業会計のような開示の仕方をしていますが、企業会計ほどには即時的に財務状況が開示されていません。その原因は何でしょうか。

巷間では、国の会計は、単式簿記という旧態依然とした帳簿の付け方をしていると言われますが、本当でしょうか?

結論から言えば、国の会計は「ほぼ複式簿記」になっています。国の会計は依然として単式簿記、というのは不正確です。

国の会計は複式簿記か?

取引の記録として帳簿のつけ方には、単式簿記と複式簿記があります。単式簿記は、現金の増減を中心に記録を残す方法です。現金の出入りを発生した順に「収入」と「支出」に分けて記録するもので、お小遣い帳がその典型です。複式簿記は、取引をその原因と結果に分けて、それぞれを記録する方法です。原因と結果に分けることで、フローの動きとストックの動きを同時に記録できる利点があります。

そこで、国の会計において、帳簿のつけ方はどうなっているでしょうか。かつては単式簿記でした。しかし今では、予算執行を行う官庁会計システム(ADAMS II)に、予算科目情報等の従来までの入力項目に加え、仕訳区分の入力を追加して、歳入、歳出ともに取引1件ごとに複式簿記の仕訳を行うこととしているのです。その説明は、「国の公会計の現状」(財務省主計局公会計室)(17ページ)にあります。国が各部署で予算執行を行う際には、複式簿記で日々記帳しているのです。これをご存知でない方が、今なお「日本の国の会計は単式簿記でやっている」と誤解しているのです。

ただ、完全な複式簿記にはなっていません。というのも、固定資産の除却や評価替えに関する一部分については、この官庁会計システムとは完全には連動しておらず、別途作業を行っています。これについては、私が財政制度等審議会財政制度分科会法制・公会計部会で委員として質問した際の法制・公会計部会(平成25年1月28日開催)議事録に、事務局からの回答があります。

ちなみに、先に触れた「国の財務書類」が企業会計ほどには即時的に開示されない理由は、国の会計が単式簿記で記帳していて、発生主義・複式簿記的な財務書類を作成するのに時間がかかるからということではありません。それは、会計年度が3月末で終わっても、4~5月の間に未決済の取引を整理する出納整理期間が設けられていて完全に出納が終わるのが5月末になるからなのと、一般会計と特別会計を純計して200兆円を超え、一般企業よりはるかに大きい歳出規模を持っており、これらは全て会計検査院による決算検査を経ることとなっていて、そのために時間を要するからといえます。これらは、単式簿記か複式簿記かに関係のない理由です。

以上をまとめると、国の会計は「ほぼ複式簿記」になっている、ということです。

とはいえ、国会に提出される政府予算案や決算書の記載の仕方は、依然として単式簿記的である、というとその通りです。国会で審議される予算書、決算書の表示の仕方は、戦後ずっと単式簿記的に表示されています。もしそれを改めようということなら、国会で財政法会計法などの改正を行えばよいのですが、まだそうなっていません。日々の記帳が複式簿記になっているのですから、官僚の側が複式簿記に変えることに抵抗しているという訳ではありません。現に、前掲の「国の公会計の現状」(財務省主計局公会計室)にも説明があるように、国会で議決された(単式簿記的な)予算書の項目を複式簿記の勘定科目に組み替えて、各省庁で日々の取引の記帳を行っています。

では、複式簿記を導入すればそれで万全かというと、そうではありません。複式簿記の概念は極めて重要です。しかし、その概念をどのように予算編成や政策評価に生かすかが問われます。その活用については、まだまだ試行錯誤状態です(それは、発生主義・複式簿記を導入している他の先進国でも同様です)。こうした会計基準の高度化を、どう財政規律に生かしてゆくか、今後の取り組みが求められます。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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