今月、全国各地の高等裁判所で判決が下されるのが、昨年の総選挙は憲法違反だと国を相手取って「選挙無効」を請求している1票の格差訴訟だ。
2011年3月に最高裁は1票の格差が2倍を超えた2009年総選挙を「違憲状態」と判断した。だが、野田佳彦・前首相は定数を是正することなく解散した。
そのため北は北海道から南は沖縄まで31選挙区を対象に違憲訴訟が起こされ、さる3月6日には東京高裁、翌7日には札幌高裁が相次いで「憲法違反」の判決を下した。3月中に全国14か所の高裁と高裁支部の判決が出揃い、審理は最高裁に移る。
まさに野田前首相の「近いうち解散」が違憲総選挙だと高裁に断罪されたわけである。
安倍首相も「野田前総理のやったこと」と知らんふりはできない。格差是正を棚上げにして早期解散を迫った自民党も共犯であり、総選挙が違憲となれば、その結果誕生した安倍政権の正当性まで揺るがされるからだ。
東京、札幌の判決では違憲ではあっても、「選挙無効」の請求については棄却された。しかし、今後の高裁判決、さらに最高裁が「選挙無効」を言い渡す可能性がある。
最高裁の竹崎博允・長官をよく知る元裁判官はこう語る。
「竹崎長官は2009年総選挙の格差訴訟で違憲状態という判決を出した際、法廷で『速やかに1人別枠方式(*注)を廃止する必要がある』と異例の付言をして抜本的な定数是正を強く求めてきた人物で、昨年10月には、2010年の参院選も違憲状態と判断した。しかも、国会は最高裁の判決から十分な時間があったのに定数是正を先送りしてきた。高裁で違憲判決が相次いでいるのは司法の判断を軽視する国会への警告です。
安倍政権は“どうせ選挙をなかったことにはできないだろう”とタカをくくっているかもしれないが、最高裁の選挙無効判決があり得るということを覚悟しておくべきです」
【*注】衆議院の小選挙区300議席のうち、47都道府県に1議席ずつを「別枠」として割り当て、残り253議席を人口に比例して配分する方式。人口の少ない地方に比例配分より多めに議席を配分し、過疎地の国民の意見も国政に反映させることが目的だったが、各選挙区に見合った議席数が割り当てられず、1票の格差が拡大したという指摘がある。
※週刊ポスト2013年3月22日号