ふなっしーやAKBも? タイムスリップした浮世絵師が見た平成の流行

平成うろ覚え草紙
『平成うろ覚え草紙』
飛鳥新社
1,500円(税込)
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 1971年、群馬県前橋市の旧家から『うろ覚え草紙』という珍書が発見されたことがあったとか。同書の著者は、江戸時代の浮世絵師・歌川芳細(よしこま)。歴史に詳しい人でも、『うろ覚え草子』や「うたがわよこしま」という名前を耳にしたことがある方は少ないのではないでしょうか。いや、いたら驚きです。

 そもそも『うろ覚え草紙』は、そのナゾの浮世絵師・歌川芳細が平成時代へタイムスリップし、その後、江戸時代に戻ってから、「未来」で目にした平成の風俗を書き残した......といわれる奇書中の奇書。しかも、タイムスリップのショックで記憶は"うろ覚え"ゆえ、荒唐無稽な内容と相まって、幕府からは発禁本の扱いを受けたというトンデモ本です。

 今回、その幻の奇書を再評価すべく、完全現代語訳の上で刊行したのが、本書『平成うろ覚え草紙』です。

 どれくらいトンデモだったか。本書で描かれている平成の事象を、以下に、一部抜粋してご紹介しましょう。

① "三倍返しのこと...平静の世では、正月(新暦では2月)半ばに、女から猪口(ちょこ)を贈られると、ひと月後に、その価値の三倍の物を返礼として贈り返さなければならない風習がある。(中略)そこであくどい婦人はそれを利用し、好意もないのに男に品物を送り付け、返礼を求めるようになった。"

② "大空木(おおうつぎ)生ふること...この大空木の高さは二百丈とされるが、おそらくそれ以上はあろう。(中略)ただし、登るためには、多額の銭を払う必要がある。大空木の根もとには見物客を見込んで店が立ち並び、さながら門前市のごとくである"
※ヒントは二百丈=約606メートルです。 

③ "微温達磨(ぬるだるま)はやること...ある連(れん)が稚拙な達磨を使ったところ、物珍しさで大評判となった。(中略)まるでぬるま湯に浸かっているようであったから、微温達磨と呼ばれるようになった。その後、皆がこの作風を真似るようになったため、同様の稚拙な被り物も、微温達磨と呼ぶようになり、大いにはやることとなったのである"

 どうやら、①はバレンタインデーでの義理チョコ、②は東京スカイツリーとソラマチ、③は「ゆるキャラ」ブームのことを描いていると思われます。

 このほかにも本書では"女芝居四十七士""男の妓楼""見立て弁当"などを紹介。本文を読んでから挿絵を見れば「あぁ~●●のことね」と、現代の何を示しているかがわかる内容となっています。思わず吹き出してしまうようなユーモラスな描写が盛りだくさんですが、一方で、「江戸時代の人から見ると、現代人の文化ってそんな風に見えるのか」という驚きも味わえます。

 さて、「あとがき」でも明かされている通り、本書の内容は完全にフィクションです。それをどう読み、どう楽しむかは読み手にかかっています。ここはひとつ、アタマを柔軟にして、ページをめくってみてはいかがでしょうか。

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