最新記事

アメリカ社会

「主婦」を自称したがるペイリンの魂胆

家庭を守っていたので汚れた世の中のことなんか知らないわ、という意図のようだが、無理があり過ぎ!

2010年11月19日(金)17時33分
ジェシカ・グロース

どこが主婦? 息子を抱き遊説にサイン会に全米を飛び回るペイリン(09年11月) Rebecca Cook-Reuters

 サラ・ペイリン前アラスカ州知事は先日、彼女を批判したウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙に対し、フェースブックでこう反撃した。「確かに私は今、単なる前州知事でアラスカの主婦だ。でも、私のような平凡な国民だって新聞くらい読める!」。WSJは、ペリリンが「食品価格はこの1年で著しく上がっている」と言うが、それは間違いだと指摘していた(この論争については、おそらくWSJが正しいが、それはとりあえず置いておこう)。

 ペイリンの現在の立場を正しく表現する言葉はたくさんある。テレビのリアリティー番組の人気者、草の根の保守派運動ティーパーティーの実質的なリーダー、扇動家。しかし、主婦――家庭を守り子供の面倒を見ることを第一の仕事にしている女性――という肩書きは、ペイリンにはどうにも当てはまらない。

 だいたいこの2010年に、「主婦(housewife)」という言葉をどう定義できるというのだろう。もはやこの言葉の意味は曖昧で、ぴったり当てはまる人などほとんどいない。ドラマの『デスパレートな妻たち(Desperate Housewives)』やリアリティー番組『リアルな主婦たち(Real Housewives)』に出てくる女性たちの中には、仕事をしている人もいればシングルの人もいる。子供がいる場合はベビーシッターを数人雇っている。

 この言葉が意味を持たなくなっているのは、テレビの世界だけではない。キリスト教福音主義派の作家プリシーラ・シャイラーは今週、「神の主婦たち」と題した記事の中で、一家の長は自分の夫で自分は夫に従っているだけだと主張した。だが実際には、彼女がキャリアを追求する一方で、料理や子供の世話しているのは彼女の夫。シャイラーは何をもって主婦と呼んでいるのだろう。そもそも、主婦なんて存在するのか?

家計簿と国家予算が同じだって?

 ペイリンとその取り巻きたちは、女性が外で働くことに反対しているわけでもないのに、「主婦」という言葉を使いたがる。家族を大事にしているとアピールし、保守的な女性像に似つかわしくない自分たちの野心を隠すためだ。

 さらに、60年代に「主婦」という語を批判したフェミニストらに対する攻撃でもある、とシモンズ大学のスザンヌ・レオナルド助教(フェミニズム論)は指摘する。確かに、家庭の外で大きな成功を収めた女性が自分を「主婦」と呼んでいるのを聞けば、違和感を覚えるのは当然だ。しかし、そんなことは保守的な女性が昔からやってきたこと。保守派の活動家で40年前からこの戦術を実践してきたフィリス・シュラフライ(86)を見ればよく分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、必要に応じて国債を売却すると表明

ワールド

再送-南ア総選挙、与党ANCが過半数割れの公算 開

ワールド

お知らせ=重複記事を削除します

ビジネス

加ブルックフィールド、仏ネオエン買収で合意間近 6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程でクラスター弾搭載可能なATACMS

  • 2

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカで増加中...導入企業が語った「効果と副作用」

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    地球の水不足が深刻化...今世紀末までに世界人口の66…

  • 5

    「天国に一番近い島」で起きた暴動、フランスがニュ…

  • 6

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 10

    ウクライナ、ロシア国境奥深くの石油施設に猛攻 ア…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 8

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中