日本ユニセフ協会の要請を実現するのは自民・公明党案よりも民主党案ではないか?
主張と支持政党案が噛み合っていない。
以前衆議院のビデオライブラリhttp://www.shugiintv.go.jp/jp/video_lib3.php?deli_id=39900から各発言者の発言要旨をまとめましたが、その中からアグネス・チャン氏の主張についていくつか思ったことを書きます。
アグネス(日本ユニセフ協会)意見
- 現場の話を中心に話す。
- 1998年に日本ユニセフ協会大使になった日の夜、スウェーデン大使館に呼ばれ、「日本は児童ポルノのNo1の輸出大国である、No1の加害国である」と言われてショックだった。
- タイの児童買春の実態を見た。
- カンボジア、フィリピン、モルドバ共和国で児童買春の現場を回った。そこで児童ポルノを規制してくれといわれた。
- 児童買春禁止法などの整備がされ、一定の成果、コンビニから児童ポルノは消えたが、それでも足りないと言われる。
- サイバースペースでひろがり、むしろ悪化している。
- G8の中で単純所持を禁止していないのは日本とロシアだけ。
- 自分はいろんなところで単純所持を禁止していないことを非難されている。
- 児童ポルノ制作の現場、被害者の意見、加害者の話も聞いてほしい。
- 東南アジアで人身売買され、売春させられた子供の話。当時日本人には14歳と言えと言われていたらしい。実際には9歳の子供もいた。
- 4,5歳の子供も売買されている。
- そういう子供たちが売買春の中で写真をとられる。
- 日本人の話。入浴の写真を盗撮され、そのショックでリストカットするようになった少女の話。警察では埒が明かなかった。
- 母の再婚相手に性的虐待され、そのときの写真がインターネットに残っていた被害者の話。
- 児童ポルノの写真は被害者を傷つける凶器だ。
- 加害者の開き直りのコメントを紹介。許せない。
- 日本の法改正は外国から注目されてます。
- 単純所持を禁止するべきだ。
- 外国の政府関係者から褒めてもらえるようにお願いします。
根拠に嘘があってはならない。
まず、2番目のスウェーデン大使館の話、「日本は児童ポルノのNo1の輸出大国である、No1の加害国」というのは、事実に基づいていない誹謗であることは国会の質疑で明らかになりました。社民党の保坂議員が、
と発言しています。これは児童ポルノそのものではなく、インターネットサイトの話ではありますが、第1位のアメリカと日本では二桁も違うのに、輸出大国というのはおかしな話です。このデータが示された2004年は各国にインターネットが普及した時期です。アグネス氏がいちゃもん付けられた1998年はその6年前ですが、たった6年でアメリカは児童ポルノの生産量が100倍以上に増大し、日本を追いこしたのであれば、その間一体何があったのか気になりますし、それだけ各国の児童ポルノ生産量の変動が激しいのなら、1998年の話を持ち出すのは甚だ的外れといわざるを得ないでしょう。
児童買春と児童ポルノを故意に混同させるのは悪質な詭弁
アグネス氏は意見を述べる冒頭で「日本語がなまっている、うまくない」等とエクスキューズしていますが、これは日本語能力とは別問題です。
これは児童ポルノではなく、児童買春の問題であって、それは現行の児童ポルノ法で既に規制されているし、児童買春の現場で児童ポルノの生産がされるというのも、児童ポルノ製造の罪は現行法で違法とされているわけですから、これ以上法規制を何かやる、となったらそれは罰則強化ということになるはずです。
ところが、自民・公明党案は児童買春、児童ポルノ製造の罰則強化をしていません。にもかかわらず、アグネス氏はこのような児童買春の悲惨な現場の話を強く訴えているのに、児童買春に無関心な自民・公明党案が良いと主張しました。全く意味が分かりません。本当に児童を保護したいと考えているのでしょうか?
現行法において、児童買春目的での人身売買は懲役1〜10年です。民主党案はこの上限を15年に引き上げるとしています。
さらに児童買春の罪を適用する場合、民主党案は7年以下の懲役又は500万円以下の罰金と、現行の5年以下の懲役又は300万円以下の罰金という罰則が、より引き上げられます。
自民・公明党案は児童買春について無関心のままです。仮に自民・公明党案で新設される単純所持規制で摘発を行う場合、その罰則は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金でしかありません。どちらがより強い法規制といえるでしょうか。
自民・公明党案は盗撮の規制を行わない。
アグネス氏は日本の盗撮の話についても触れていました。
日本人の話。入浴の写真を盗撮され、そのショックでリストカットするようになった少女の話。警察では埒が明かなかった。
盗撮を明確に規制しているのは民主党案です。自民・公明党案では、3号規定の解釈を拡大する過程で盗撮も規制できるという立場をとっています。自民・公明党案のやり方は独裁政権国家と変わりません。
それに、取締の現場で不用意にその規定を拡大したところで、裁判ではこの拡大解釈をめぐって紛糾することでしょう。現在の司法制度では、盗撮被害者はその裁判過程でさらに過酷な思いをすることでしょう。
>「警察では埒が明かなかった」
この点は重要で、事は児童の保護だけではなく、成人女性のレイプ被害などにも関連します。日本では女性の性犯罪被害に対する警察の捜査が非常にお粗末なのです。日本では性犯罪被害にあった女性の体から証拠物を収集するためのレイプキットといわれる道具一式が、どの病院にも警察にも常備されていません。その上被害者の事情聴取に当たるのも男性警察官で、聴取した警察官の無神経な言葉によってさらに心の傷がえぐられるという現状があります。
しかしこれも捜査の改善を要請する理由にはなっても、単純所持規制を進める理由にはなりません。
日本ユニセフ協会関係者が褒めてもらいたいだけの法改正など要らない。児童保護の強化を。
このようなアグネス氏、正確には日本ユニセフ協会の主張と支持法案の乖離は、かいつまんで言うと
「外国人から我々は(実態に即していない根拠で)日本の児童買春、児童ポルノについて文句を言われる。外国人に褒めてもらうために、児童保護とかはどうでもいいから単純所持規制の形式だけを整えてください。」
という形式至上主義とも言うべき愚挙であると断ぜざるを得ません。
当初私は、日本ユニセフ協会と自民・公明党の間に癒着関係があるのではないかと思っておりましたが、現状の日本ユニセフの役員構成を見る限りではその形跡は見受けられません。(以前、森元総理の名前があったと思ったが・・・)ある程度天下り先としての機能もあるようではありますが。
それにしても、支持する法改正案が児童保護にきわめて不熱心な自民・公明党案ということでは、なくそう、子供ポルノキャンペーンに投ぜられた寄付金が無駄というものです。ちなみに、リンク先のページにある「フィリピンの子どもポルノ・買春・人身売買問題などの現状と対策をまとめた専門家報告書」などへのリンクが切れているのもお粗末です。
日本ユニセフ協会の皆さん、ほんとうに子供を守ろうという気があるんですか?