まず、「ハイフィンガー奏法」そのものについてですが、
これは決して「指を高く上げる奏法」ではありません。
ピアノを弾くときはまず、
脱力状態なら体の横のぶら下がっている腕を
鍵盤のところまで持ち上げることから始めますよね。
その状態で持ち上げるのをやめれば
腕の重さで鍵盤を押し下げて打鍵できますが、
これが「重量奏法」もしくは「重力奏法」と呼ばれる弾き方です。
逆に、腕は持ち上げたままにして指(の付け根)を曲げる力で打鍵するのが、
いわゆる「ハイフィンガー奏法」です。
つまり、ハイフィンガー奏法でも、極めれば指が鍵盤から浮くことはなくなり、
非常に滑らかな動きになるのです。
ただ、人間の手の構造上、1つの指だけを下げようとしても、
ある程度訓練しないと他の指(特に隣)が付いてきてしまいますから、
練習段階でそれぞれの指を「下げている」のか「上げているのか」を
明確に意識するため動きを誇張気味にして弾くことになり、
それが打鍵前に指を振り上げているように見えることから、
「ハイフィンガー」という呼び名がついたのです。
ですので、手の形ではなく、力の使い方を研究してみて下さい。
思い切り指を上げようとして5の指だけが高く上がるのは、
外側に「足枷」になる指がないからで、ごく自然なことですが、
同時に、明らかに不要な力を入れすぎている証拠でもあります。
必要最低限以上の力を入れないことは、演奏上の鉄則。
それを忘れて「形」にこだわってばかりいると、大切な手を壊してしまいますよ。
そもそもこのハイフィンガー奏法、
指を動かす腱や筋肉に負荷が集中するため非常に手を傷めやすく、
ピアノ奏法研究者の間では完全に「悪者扱い」されています。
ただ現実には、鍵盤を押し下げるために使う力は、
腕の落下(=重力)と指を動かす(もしくは曲げる)筋力との割合を
使いたい音色によって色々に変化させるので、例えば
伸びやかで深みのあるまろやかな音(悪く言えば輪郭がボケた音)
なら「重量奏法」寄り、
硬質で張りがあり、輪郭のはっきりした音(悪く言えばヒステリックでキツい音)
なら「ハイフィンガー奏法」寄り、と使い分けていくわけですから、
ハイフィンガー奏法だけを全く悪者にしてしまうのはどうかと思うんですがね。
とは言え、極端にハイフィンガー奏法寄りのタッチは、
指の力がかなり強く、かつ1本1本が相当独立していない限り、
かなり使い辛いのは確かです。
やはり、タッチの特殊効果的なヴァリエーションとして以外の使用は、
あまりおすすめできません。
事実、名ピアニストの大半は「重量奏法」寄りの弾き方に軸足を置いています。
例外はただ1人、人間離れした強靭な指を持ち、
変則的なハイフィンガー奏法とそのヴァリエーションのみで
様々な強弱や音色を弾き分けていた、「ホロヴィッツ」という男です…。