中国、首相会談を拒否 「日本が雰囲気壊した」
【ハノイ=桃井裕理】日中両政府が調整していた菅直人首相と中国の温家宝首相の29日の会談が見送りとなった。菅首相は沖縄県の尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件を機に冷え込んだ両国関係の修復を進めたい考えだったが、中国側は「日本が会談すべき雰囲気を壊した」などと主張し拒否を通告した。反日デモの頻発など中国側の国内事情も背景にあるとみられる。31日までのベトナム訪問期間中の会談実現は難しい情勢だ。
菅首相は29日夕、ハノイ市内のホテルで中国の温首相、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領と会談した。ただ、この後に調整していた菅首相と温首相の会談は行われなかった。
福山哲郎官房副長官は29日夜、ハノイ市内で記者団に「日中韓首脳会談の直前に中国側の事務方から会談ができない旨の連絡があり驚いた。真意を測りかねている」と不快感を示した。日中首相会談が改めて開かれる可能性については「今のところ予定はありません」と語った。福山副長官によると、菅首相は会談延期の報告に「冷静に対応しよう」と指示したという。
中国国営の新華社によると、ハノイを訪れている中国外務省の胡正躍次官補は29日夜、「日本側が中日外相会談の内容で事実でないことを発表し、両国の指導者がハノイで会談すべき雰囲気を破壊した。この結果は日本側がすべての責任を負うべきだ」と述べた。
胡次官補は(1)日本外交当局の責任者が別の国と一緒になって釣魚島(尖閣諸島の中国呼称)問題を大げさにした(2)メディアを通じて中国の主権と領土を侵犯する言論を流した(3)東シナ海問題での原則的な合意を履行する中国側の立場を歪曲(わいきょく)した――と指摘。「釣魚島は古来、中国の固有の領土だ」と語った。
中国外務省の馬朝旭報道局長も29日夜、尖閣諸島が米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約の適用対象になるとしたクリントン米国務長官の発言について「絶対に受け入れられない」との談話を北京で発表した。
中国側の説明に対し、福山副長官は「もし根拠のない報道でキャンセルしたのなら遺憾だ。誤解を解いていく努力はしないといけない」と指摘した。
日本政府高官は29日夜、ハノイでの日中首相会談について「たぶんできないだろう」と述べた。中国の国内事情が原因との見方も示した。11月に横浜で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でも菅首相と胡錦濤国家主席との首脳会談の設定は難しいとの見方がある。
29日にハノイ市内で開かれた日中外相会談では、前原誠司外相と中国の楊潔●(ち)外相が、尖閣諸島の領有権問題で自国の立場を主張。東シナ海ガス田開発問題を巡っては、前原外相がガス田開発に関する条約締結交渉の再開を要請し、楊外相は「必要な環境を整えていきたい」と語った。前原外相は中国側がガス田「白樺」(中国名・春暁)で掘削に向けた動きを見せていることについて詳しい説明を求めたが、楊外相は「これまで説明してきた通りだ」と述べるにとどめた。