「恋愛レストランの達人」
馬場康夫ホイチョイプロダクションズ代表に聞く vol.1
なぜデートは老舗より新しいレストランにすべきなのか
内藤:「グルメ設計塾」では、日本のグルメ界のプロにお越しいただき、「グルメ設計」のヒントになる教えを請おうと思っています。その第1回ゲストは、レストラン通であり、情報サイト「恋のキメワザ食堂」を運営するホイチョイプロダクションズ代表の馬場康夫さんにお願いしました。
映画「私をスキーに連れて行って」の監督やマンガ「気まぐれコンセプト」など流行の仕掛け人として知られる馬場さんですが、そのデビュー作は、『見栄講座―ミーハーのための戦略と展開―』です。
この本は、テニス、スキー、軽井沢、バー、ワイン・・・といった当時流行していたライフスタイルで如何に見栄を張るかを描いたマニュアル本の元祖のような存在。
半分はパロディなんですが、真面目に読んで実践する人が続出したりして、著者の馬場さんの洗練された文章と圧倒的な情報量に私もすっかり魅了されてしまいました。
もう30年近く前の大学時代、大学生協で買ったのを覚えています。
私の大学生活のバイブルを書かれた憧れの馬場さんにお会いできるということで、かなり興奮しています! という訳で、早速ですが、当時購入した本を持ってきましたので是非サインをお願いします! (笑)
馬場:すごくキレイに保存してますね~!! ぼくもこんなキレイな状態のもの、持ってないですよ(笑)。
内藤:多分もう1000回以上、大切に保存しながら読んでいます。文章を覚えているくらい(笑)。馬場さんが、この本を書かれたきっかけは何だったのでしょうか?
馬場:大学時代、『ユーモア・スケッチ傑作展』(早川書房刊/浅倉久志訳)というアメリカの翻訳書を読んだのですが、それがものすごくおもしろかった。生真面目な文体で馬鹿馬鹿しい話が展開する、洗練されたエッセイなんです。
たとえば「スキーはできないけれども、どうやったら上手に見えるか?」ということを、あたかも凄く意味のあることのようにことこまかく説いていたんです。当時のアメリカの書籍や雑誌は、こんな洒落た本や特集がいっぱいありました。大学時代、そんなものばかり読んでいたので、いつか自分もこんな感じの本を書きたいなと思っていたんです。
見栄講座以前の世界、見栄講座以降の世界
内藤:『見栄講座』を初めて読んだのは大学一年のときです。衝撃的でしたね。この本が出版されて以降、「ポパイ」(1976年創刊)でも、いかにして女の子にモテるかという特集が増えはじめました。
それを読んで紹介されているレストランに行ってみたりして、「へ~こんなお店、本当にあるんだ・・・」と感心していたんですよ。本や雑誌が女の子にモテるための情報を発信し始めた時代だったんですね。
馬場:それ以前の「ポパイ」は、アメリカ西海岸のスタイルをまじめに紹介していましたからね。こうやったら女性にモテる、っていう視点がまったくなかった。女の子なんて全然出てこない。外国人が「ポパイ」を見たら、ゲイの雑誌だと思っていたでしょうね(笑)。
でも、『見栄講座』発売以降の1983年からは、「ポパイ」も「ホットドックプレス」も、「こうすればモテる!」といった特集が、すごく流行りました。
内藤:あのころはマニュアルデートなんて言われましたね。クリスマスにはフレンチを食べて、シティホテルでお泊りするのが「王道」と言われた。肉食系男子が多かった時代です(笑)。
馬場:『見栄講座』に書かれていることって、モテるためには本当にスキーやテニスがうまくなくても、こんなモノを持っていたり、これを着ているだけでいいじゃん! っていうことなんです。
そうしたら、「ポパイ」や「ホットドックプレス」でも女性にモテるならこれだ! みたいな流れになってきたんですよ。
内藤:時代が追いついてきたんですね。
馬場:当時も今もそうなんですが、スキーやテニスをするときは、所詮、男は女性にモテたいだけなんです(笑)。
内藤:なるほど! そんな「モテ」がマニュアル化されはじめた時代でしたね。
馬場:そうなんです。1982年以前は、そこまで男はかっこつけてまで、モテようとは思っていなかった。社会が変わりつつあったのですね。