敵が存在するから「iPad」は勝てる! ジョブズの勝利の方程式が判明

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    敵が存在するから「iPad」は勝てる! ジョブズの勝利の方程式が判明

    わりとジョブズはSっ気たっぷりなんでしょうか...

    「iPad」は失敗作だと浅はかに決めつけないでって分析も一理あるかもしれませんけど、でも、やっぱりiPadは力不足の感が否めませんよね。だって、ネットブックやノートPCとして市場に大打撃を与えるって言っても、どう考えたってiPadがPCとして単体で優れているとは評し難いですし、電子ブックリーダーとして見ても「Kindle」の完成度のほうが抜群でもありますから。

    日本でもWi-Fi版は3月に、3G対応版は4月に発売が決定したとのことですけど、いまいち乗り切れないなってあなたへ、ジョブズが耳打ちしてますよ。

    「あのさ、iPadは君みたいな人が対象じゃないんだよね」

    バリバリとPCを使ってるギズ読者の皆さま、並びに早々とKindleに魅力を感じて電子書籍に手を出しちゃってるギークな皆さま、そもそもiPadのユーザー層には想定外なんだそうです。むしろ、そんな皆さまはジョブズが喜ぶiPadの敵!

    敵がいるからiPadは楽しいのさってうそぶくジョブズ。ちょっとイラッときちゃいますけど、でも、このジョブズならではの勝利と敗北の方程式が、かなりドンピシャで当たってきてるんですよね。喧嘩モード大好き全開のジョブズの心の奥を、どうぞ続きから覗いてみてくださいねん。

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    そもそも敵がいなければアップルの成功なんてなかったんですよね。

    例えば、ポータブル音楽プレイヤーとして大ヒットを記録してきた「iPod」なんですけど、登場した時点では、すでにArchosだの、Creativeだのといったメーカーから、なかなかスタイリッシュで高性能なタイプの製品が各種そろっていて、その愛好ユーザーからはショボいiPodが酷評されてたんですよねぇ。

    で、確かにiPodの性能は、そんなに高くなかったし、ジョブズの心の内でも、あっさりとこうしたライバル製品に負けを認めつつ、そのユーザーに向かって「そもそも君たちが対象ではありませんからね」って声が上がってたんだそうです。そう、iPodが狙いを定めて成功したのは、いまだフラッシュメモリで音楽を持ち歩くスタイルが未知の世界でしかなかった新しい初心者ユーザーで、敵の取り込めていない層を根こそぎ奪っていったからこそ、いまでは同業界の王者として君臨してるんですよね。

    同じく「iPhone」に関しても、やっぱり登場した時点で、すでに海外では「BlackBerry」シリーズのスマートフォンがビジネスユーザーに欠かせないアイテムとして普及してしまっていて、BlackBerryのヘビーユーザーからしてみれば、あんな遊びにしか使えそうにないiPhoneなんて、スマートフォンと呼ぶのもおこがましいってドイヒーな反応でしかなかったんですよねぇ。

    で、やっぱりここでもジョブズの心の内では、あっさりとこれまでのBlackBerryのビジネス界での成功には敬意も表しつつ、そのユーザーに向かって「そもそも君たちが対象ではありませんからね」って声が上がってたんだそうです。そう、またまたiPhoneが成功しちゃったのは、いまだスマートフォンなんて世界には足を踏み入れていない一般の携帯電話ユーザー層を完全なターゲットに定めて、敵が取り込むことができなかった新しい初心者スマートフォンユーザー層を根こそぎ奪っていくことができてきたからなんですよね。

    競い合う敵がいなければ勝てない...

    そんなアップルのジレンマは、最大のハズレ作品とも評される「Apple TV」で如実に実証されちゃったんじゃないでしょうか。他のどのメーカーよりも先駆けて革新的な利用スタイルを提唱したApple TVは、真の対抗製品と呼べるライバルの出現を待つことなく、すでにかなりひっそりと生きている存在でしかありませんからね。そもそも敵すらいない市場だったので、その取り込めなかったユーザー層というものを見出せず、なんとも不発に終わってしまいそうな感じが漂いまくってますから。

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    さてさて、話をiPadへと戻しましょう。明らかにiPadには敵が存在しています。その第一の敵はネットブックでしょうね。

    ここで思い出してほしいのですが、そもそもなぜネットブックが登場してきたのかといいますと、Linuxの存在が大きかったわけです。何かと値が張るWindowsマシンではなく、だれにでも使いやすいユーザーインターフェース(UI)と簡単操作性を実現した格安小型PCの魅力を、まだPCに慣れ親しめていない人々に届けよう! そんな高い理想を掲げて登場したのがLinux搭載の、初代ネットブックだったと思うのですが、これをLinuxで成し遂げようとしたところに無理がしょうじ、おまけにヤバいと思ったWindows陣営から続々と激安小型PCが飛び出してきてしまったため、見事にコケちゃいましたよね。

    でも、当初からの目標だったはずの、Windowsが搭載されたPCでは複雑すぎるから、もっとだれでも使えるUIのコンピューティング環境をっていうのは、いつの間にか消え去ってしまい、市場に残ったのは、安かろう、小さすぎて使いにくかろうという、皆が不満を抱えている、いわゆるネットブックと現在は呼ばれているノートPCになり切れなかった難物だけになっちゃったわけです。

    そう、明らかにジョブズがiPadで目指しているのは、すでにノートPCだのネットブックだのを使い倒しているヘビーなPCユーザーなんかではなく、そもそもPCというハードルの高さと複雑で不便な利用スタイルに不満を感じているユーザー層へ向けて、もっと簡単に直感的に楽しく使えるコンピューターを提供することにあるんですよね。だれにも教えてもらわなくても、だれかに尋ねなくてもコンピューターを使えるようになりたいって、敵であるノートPCもネットブックも取り込めずにいる初心者ユーザー層を奪い去るべくiPadを投入するジョブズの戦略は、なかなか今回も良いトコを突いてるんじゃないでしょうか?

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    続きまして、iPadの第二の敵に名指しされているのは、やはり電子ブックリーダーのKindleですね。はっきり言いまして、目に優しい電子インクで活字の新聞や小説などを読み進めるKindleの前では、iPadなど敵でもなんでもないのでしょう。すでにKindleが気に入ってて愛用してるユーザーに対して、敢えてジョブズはiPadを売込もうなどという思惑は毛頭ないんだそうです。

    ただし、この敵のKindleは、確かに完成度は高いんですけど、わりと苦戦もしているようですよね。例えば、白黒の活字の表示には優れた電子ペーパーディスプレイですが、カラーコンテンツやアートワークの表示は厳しそうです。本来の特性として表示画面の切り替え速度が遅いKindleで映画鑑賞なんて丸っきりダメでしょう。

    Kindleが読書に良い製品だってのはわかるんだけど、でも、自分はそんなにひたすら文章を読み続けたいというタイプじゃないんだよなぁ。電子書籍って便利そうだけど、もっとカラフルに雑誌とか漫画が読めると最高なんだけど...。大体、あの白黒の画面って、いちいち暗い所だと電気つけないと何も見えないでしょ?

    敵であるKindleが取り込みたいと思いながら、二の足を踏んで電子書籍の世界へと入り込んでいけなかった、まだまだかなり大勢の人々が残っているユーザー層。ここにiPadで見事に切り込んでいくジョブズの作戦は、やはり当たってくるのではないでしょうか。

    きっとジョブズ自身は、ネットブック業界をつぶしてやろうだとか、電子書籍の世界を根底から変えてやろうだとか、そんな野望は元から抱いていないのかもしれません。むしろ、この2つの市場で波に乗り切れていない数多くのユーザーに賭けてみよう!

    すでに敵がいるからこそ、その敵が上手く進み切れてないからこそ、iPadで仕かけていくジョブズの方程式は、米GIZMODO編集チームの予想ではハズレることがないとにらんでますよ。ただし、ここ日本ではどうでしょうかね~

    Wilson Rothman(原文/湯木進悟)