サイエンス

気候変動による経済的打撃は2049年までに全世界で年間約6000兆円に達する可能性


温室効果ガスの排出が原因で引き起こされる気候変動により、絶滅の危機にある動植物や人々の生活に大きな打撃が及ぶことが懸念されています。新たにドイツのポツダム気候影響研究所の研究チームが発表した試算では、気候変動による経済的打撃が2049年までに年間約38兆ドル(約6000兆円)に達する可能性があるとのことです。

The economic commitment of climate change | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07219-0


Climate change will cost about $38 trillion a year by 2049, a new study calculates | AP News
https://apnews.com/article/climate-change-damage-economy-income-costly-3e21addee3fe328f38b771645e237ff9

Global Income Set to Shrink by One Fifth by 2050 Under Climate Change : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/global-income-set-to-shrink-by-one-fifth-by-2050-under-climate-change

気候変動対策が今後の地球および人類の繁栄にとって重要であることは多くの人々が理解していますが、「気候変動対策にどれほどの予算を割り当てるべきなのか」という問題については、経済学者の間でも意見が分かれています。気候変動に関する政策は多くの場合、実施に伴うコストと回避できる気候変動のダメージのバランスを取ることによって評価されるため、将来の気候変動に伴うマクロ経済的損害の予測が必要とされているとのこと。

そこで研究チームは、地球上の1600以上の地域における過去40年間の気候および所得データを分析し、気候の変化が経済生産性にもたらす影響を特定。さらにこの知見を利用して、今後の気候変動による経済的な損失について予測しました。


研究チームは分析の結果、「温暖化している現実の世界」と「温暖化していない架空の世界」を比較すると、温暖化している世界は今後25年間で世界の総所得が年間約19%、金額にして38兆ドルも減少すると報告しました。この所得の減少は固定化されており、今すぐに人類が温室効果ガスの排出を積極的に減らしたとしても、避けることはできないとのこと。

論文の共著者で気候科学者のレオニー・ウェンツ氏は、「私たちの分析によれば、気候変動は今後25年以内にほぼすべての国々で甚大な経済的損害をもたらします。先進国でも、ドイツやアメリカではそれぞれ11%、フランスでは13%の所得中央値の減少が予測されています」とコメントしています。

調査によると、アメリカでは北部の州よりも南部の州がより大きな経済的損害を被るほか、ヨーロッパでもスペインやイタリアを含む南部の国々が、デンマークやドイツ北部など北側の地域よりも深刻な影響を受けるとのこと。気候変動により経済的な恩恵を受けるのは、北極圏に隣接するカナダ、ロシア、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンなどの一部地域のみです。

中でも気候変動による所得の減少が大きいのは、気候変動に対する責任が最も少ない低所得国家だと研究チームは指摘。論文の共著者であるポツダム気候影響研究所のアンダース・レバーマン氏は、「気候変動に対する責任が最も小さい国々は、高所得国家よりも60%、高排出国家よりも40%大きな所得の損失を被ると予測されています。これらの国々はまた、気候変動に適応するための資源が最も乏しい国でもあります」と述べました。


今回の研究では、2049年までに発生する経済的損害は避けられないと報告されていますが、22世紀の後半における経済的損害は今後の取り組みで抑制できる可能性があります。

もし、世界中が一致団結して温室効果ガスの排出を抑制し、2015年のパリ協定に基づいて平均気温の上昇を産業革命前と比較してセ氏2度以下に抑えられれば、経済的な打撃は約20%にとどまるとのこと。しかし、最悪のシナリオで温室効果ガスの排出が続けば、経済的な打撃は約60%に近づくそうです。

今回の研究には関与していないコロンビア・ビジネス・スクールの気候科学者であるゲルノット・ワグナー教授は、「数十兆ドル(数千兆円)の損害が確定しているからといって、炭素汚染の削減が報われないわけではありません。行動のコストは、緩和されない気候変動コストのほんの一部です」と述べ、世界は気候変動対策に取り組むべきだと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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