「おいおい、京都アニメーションの新作だって!? おれ『けいおん!』とか大好きなんだよねー、スッゲー楽しみ! タイトルなんだっけ?」
「『日常』だよ」
「そうそうそれそれ。日常ってことは、あれか、『らき☆すた』みたいだってことだよな! チョココロネとかの話でかわいい女の子達を見られるんだな! あ、おれこの長野原みおちゃんって子好きかも。
『けいおん!』にも澪っていたしな! ちょっと頭についてる木の角材が気になるけど、ツインテールまじかわいいし!」
「お前めちゃめちゃテンション高いな」
「だって京アニの新作だぞ!? テンションもあがるって! ひゃっほー! みおちゃんマジ天使まだ見てないけど! あ、お前は原作読んでるんだっけ?」
「ああ、全巻読破済み。全部初版で持ってる」
「じゃあ楽しみだろー。よーし、見ようぜー」

(視聴終了)

「うん、さすが京都アニメーション。非常によい動きと演出で原作を崩さなかった。素晴らしい」
「独特な色と、なめらかなキャラクターの動きと、見事な声優さんたちの演技と……っておおおおい! そういうのどうでもいいよ! つうかなんだよこれ、『日常』ってタイトルなのにどこが日常なんだよ!?
「群馬では日常なんだろう」
「ねえよ! そもそもなんでクラスメイトモヒカンなんだよ! つうかなんでシャケなんだよ! しかもなんで銃持ってるんだよ! というかなんでヤギなんだよ! 1年Q組ってなんだよ! ってかなんで……うぉあーツッコミが追いつかない!
「日常だからな」
「全然日常じゃないよ! 非日常しかないよ!
「原作のとおりだぞ?」
「そ、そうなのか……なんだこれ、やってることは現実世界の、『らき☆すた』と同じことのはずなのに……いや全然違うな。なんと説明すればいいか……当たり前の行動を一個も取っていないというか」
「ポストモダン?」
「そうそうそれそ……いや違うだろ! ……ハァハァハァ。
めちゃくちゃアニメーションはきれいだしキャラクターもかわいいのに、理解が追いつかなさすぎだよ……」
「この作品、なんせツッコミがいないからな」
「そうそう、そこだよ。ボケはすごい連打するのに、ツッコミが一切ない。だから脳みそがフルスピードで置いて行かれるような気分だよ……」
「笑いって地方ごとに色々あるだろ?」
「どういうこと?」
「たとえば関西は『ボケたら突っ込む』ことで笑いが完成する。関東だと『ボケをテンポよく見せたり、演劇調にしたりする』。北海道は『ボケたらそこにボケを重ねる』とかだ。そういう観点で言うと『日常』という作品は、タイトルからして人を食ったようなネタだし、ボケたことを総てスルーするというかなり特殊な手法を用いている」
「なるほどー。
確かにモヒカンとかアフロとか出てきても完全にスルーだもんな。なんだよ囲碁サッカー部って。ナタデココって。誰か突っ込めよ!って思うけど誰も突っ込まないってのは斬新だな」
「マンガだとそれがコマの『間』として認識されて、読者が好きに解釈できるんだけれども、アニメは時間の流れがある。「ボケをスルーする間」の視聴者の平均値をとるというのは何気に難しいことなんだが、そこに成功しているんだ。その証拠にほら、ニコニコ動画をみてごらん
「俺たちテレビで見たからなあ。
どれどれ……うぉ、コメント欄訓練されすぎじゃねえの!?
「うむ。この作品は視聴者が突っ込むことによって完成するんだ
「な、なんだってー!? ……ってか確かに俺も見ながら突っ込んでたもんなあ」
「ボケとツッコミを作中で全部完成させ、作品としてぼくらが見るのは今までの形だ。だがしかし、与えられたものを受け取るだけじゃなくて、作品が提出するボケにどのくらい乗れるか、突っ込めるかを視聴者にも求めているとしたらどうだろう? 新しい形のコールアンドレスポンスアニメなんじゃないだろうか」
「おお、新しいな!」
「うむ、新しい。まあニコニコ動画は文字が流れてくるから分かりやすいけど、そうじゃなくて一人で見ていてもツッコミを自然に入れざるを得ないテンポが取られているしな」
「なるほど! 俺達がツッコミかー。こりゃ面白い作品きちゃったなあ……しかし放送中ずっと突っ込むハメになると思わなかったよ」
「そうか? お前あんなにみおちゃん好きだって言ってたのに、幼女白衣のはかせを見たとき鼻の下長くして黙ってたじゃないかこのロリコン」
「ば、バカヤロウ!(赤面」
(たまごまご)