福島原発の安全策不発 圧力制御できず、被害阻止に全力
東京電力の福島第1原子力発電所と同第2原子力発電所で、原子炉を守る格納容器内の圧力がを制御できなくなる事態が起き、政府は「原子力緊急事態」を宣言した。第1原発では停電時に動くはずの非常用電源が機能しなかったために安全確保のとりでとなる冷却装置が働かず、内部の温度が上がって炉心溶融の懸念が強まった。第2原発は冷却に使う海水を取り込むポンプが故障。巨大地震によって想定外の障害に見舞われた。
福島第1原発1号機周辺では、燃料が溶けたことを示す放射性物質のセシウムなどが検出された。東電は当面の対応策として圧力容器の弁を開放して水蒸気を出し、内部の圧力が低下したのを確認した。炉内が高温・高圧に耐えられなくなって壊れると惨事につながる恐れがあった。
水蒸気に含まれる放射性物質は水に通して薄めたり、フィルターでこしたりして最低限に抑えた。予想された周辺被曝(ひばく)線量は1時間当たり20~50ミリシーベルト。胃のレントゲン検査での被曝量は1回0.6ミリシーベルトで、人体に影響が起きるのは100ミリシーベルト前後といわれており20~50ミリシーベルトは屋内にいれば安全という。
日本の原発は耐震性には細心の注意を払った対策を講じてきた。特に新潟県中越沖地震後はより厳しい耐震基準を設け、対策をとってきたはずだった。
一般に原発は地震の揺れを感じると、核反応を抑える制御棒が自動的に作動して原子炉は緊急停止する。今回もこの仕組みは正常に働いた。だが、核分裂で生じた核分裂生成物などが崩壊熱を出し続ける。
原発はこの熱を利用して冷却水を蒸気に変え、タービンを回して発電している。冷却水が回り続け、一定温度に保たれているうちは問題ないが、冷却水の温度が上がったり蒸発して減ったりすると、炉心の燃料がむき出しになり、原子炉が高温・高圧の状態になる危険性が高まる。
原発は何重もの壁によって放射性物質が外部に漏れないように設計されている。核燃料が入った炉心を包む圧力容器、それを包む格納容器、さらにその外側をコンクリートの原子炉建屋(たてや)が囲んでいる。
また、炉心が溶け出したり、圧力が上がって爆発したりするような事態を避ける手段はいくつも講じられている。第1のとりでが「原子炉隔離時冷却系」と呼ばれる装置。福島第1と第2ではまずこの装置を使って崩壊熱が冷めるのを待った。
ただ、福島第1は電源がなくて動かなかった。福島第2では電源は確保できたが、冷却に使う海水が取り込めなくなっている。
放射線被曝が起きたときには、東日本だと放射線医学総合研究所を中心に治療にあたる。東北地方では弘前大学が中核医療機関となる。まず線量を測定し、今後起きうる症状など影響を評価する。水で体の表面を洗ったり、薬で体内の放射性物質を除去することになる。
1986年4月に旧ソ連で起きたチェルノブイリ事故後では、原発近くの27万人が50ミリシーベルト、発電所周辺30キロメートル圏内の11万6000人が10ミリシーベルトを被曝したといわれる。
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