数十Mビット/秒クラスのモバイルブロードバンドの展開についてはどう考えているか。
既にHSPA+を提供しているが、次はNTTドコモのLTE(Long Term Evolution)サービスに先立って、DC-HSDPA(DCはDual Cell)のサービスを始める。ドコモのLTEが37.5Mビット/秒なのに対し、DC-HSDPAは42Mビット/秒だ。
イー・モバイルにとって、「国内モバイル最速」は会社全体のブランド。だから今後も「国内最速」にはこだわっていく。基地局展開は、2011年の早め(今から1年以内)に人口カバー率を50~60%にしたいと思っている。
HSPA+のユーザーがPocket WiFiユーザーの5分の1程度だという状況を考えると、DC-HSDPAがどれほどの市場になるか疑問がある。どのようなユーザーが、どのような使い方をすると想定しているか。
まずはビジネスパーソンを中心とした「プロシューマー」だ。HSDPAやHSPA+からのアップグレードを促していく。
法人としてのニーズもある。目立ってきたのはシンクライアントを導入したいというユーザーの声。「速いほうがいい」「21Mがいい」というものだ。これまで何度か言われてきたことだが、モバイルブロードバンドが整えば、今度こそシンクライアントが本格的に広がるのではないか。
また42Mビット/秒というスピードはADSLに近い。イー・アクセスも提供しているが、ADSLはまだ900万人の市場があるから、ここにアプローチする余地がある。NTTの光回線と同じように、ADSLとセットにして売っていくこともできるはずだ。イー・アクセスのADSLユーザーの巻き取りは、いわば共食いだが、やらなければ他社に奪われるだけ。それなら自分で巻き取るほうがいい。
ただ、マーケットを拡大するには最速というだけでは不十分だ。大抵のユーザーは技術で通信サービスを選ぶわけではない。クラウドなどを意識しつつ、具体的なアプリケーションや使い方を想定し、適切なデバイスやサポートサービスとパッケージにした売り方を考えていく必要がある。
併せて、料金体系も見直していく。月間の上限通信量を設けて少し安めの料金で完全定額にした「データプランB」を設けたが、これはその取り組みの一つだ。
DC-HSDPAの次の展開はどう考えているか。
84Mビット/秒のDC-HSDPA MIMO(Multiple-Input, Multiple-Output)とLTEの2本立てで考えている。DC-HSDPA MIMOは既存ネットの延長。LTEは新しいネットワーク。これらを同時に進め、既存インフラにオーバーレイする形で展開していく。進み具合は既存ネットの延長のほうが若干速いが、LTEも計画では2年後のサービスインとしている。
両方に取り組むのは、少しでも早く、ユーザーの利便性が高く、かつ高速なサービスを展開していくため。ポイントは端末側のチップセットだ。DC-HSDPA MIMO用とLTE用で、どちらが安定しているか、発熱や消費電力はどの程度か。これらの点は、ユーザーの利便性に影響する。どちらのチップセットが先に完成度の高いものになるか、今の時点では分からない。だから並行して進める。
当社が周波数を15MHz幅しか持っていないことも理由の一つだ。MIMOにすれば周波数の利用効率が高まり、全体のキャパシティーが増える。できるだけ多くのユーザーのトラフィックをさばくために、収容効率を高めることは重要なポイントだ。
エリック・ガン(Eric Gan)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年10月8日)