アルバン・ベルク四重奏団とアルフレート・ブレンデル(Alfred Brendel 1931-)による1999年のライヴ録音で、モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)の以下の2曲を収録している。
1) ピアノ協奏曲 第12番 イ長調 K.414(室内楽編曲版)
2) ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 K.493
録音時のアルバン・ベルク四重奏団のメンバーは以下の通り。
第1ヴァイオリン ギュンター・ピヒラー(Gunter Pichler 1940-)
第2ヴァイオリン ゲルハルト・シュルツ(Gerhard Schulz 1951-)
ヴィオラ トーマス・カクシュカ (Thomas Kakuska 1940-2005)
チェロ ヴァレンティン・エルベン(Valentin Erben 1945-)
モーツァルトが1782年に書いた3つのピアノ協奏曲(第11番、第12番、第13番)は、いずれも弦楽四重奏とピアノによる演奏も可能なことを念頭に書かれていて、協奏曲と室内楽の2通りのスコアが存在する。この3曲の中では、最初に書かれた第12番の演奏機会がいちばん多いだろう。第2楽章には、この年に亡くなったクリスティャン・バッハ(Johann Christian Bach 1735-1782)のオペラ「誠意の災い」の序曲の主題を転用しており、追悼の意も込められたものと解釈されている。
ブレンデルとアルバン・ベルク四重奏団は、一見してカラーの異なる芸風に思えるが、当録音では、とても調和のとれた暖かな響きが全体を覆っているのが印象的だ。どちらかというと、アルバン・ベルク四重奏団が、いつもの強い発色、強靭な音色をやや抑え、ブレンデルのスタイルに歩み寄ったようなイメージである。
K.414の冒頭から、明朗で優美な主題が、アコースティックな合奏音でいくぶん輪郭を柔らかめに響かせるのは、極上と言って良い聴き味であり、いわゆる「ウィーン的」なものが溢れているように思える。先んじて存在したブレンデルの協奏曲録音と比べて、テンポはほぼ同じであるが、当録音の方がいくぶん自由度が高く、室内楽ならではのソリストのステイタスの高さが感じられる。また、当録音について、協奏曲でホルンとオーボエが担っていた一部のフレーズについて、ブレンデルはピアノパートに追加しているとのこと。私は追加前の状態を聴いたことがないので、聴き比べは出来ないが、原曲に精通したブレンデルらしい計らいで、音楽も豊かなものとなっているだろう。
モーツァルトがその生涯に書いたピアノ四重奏曲は2曲あって、第1番のト短調の方が有名だが、第2番も魅力的な作品。第2番は、第1番とは対照的な作風で、ことに第3楽章の華やかさはこの曲もまた傑作であることを示している。
この曲では、ピヒラーの積極的な表現が聴きどころで、旋律を様々に歌わせてくれるし、ピアノとの闊達な対話も弾力に富んでいて、楽しい。第3楽章はスピード感を速め、前進する力を聴き手に脈々と伝えながら、その運動美の中で幕を閉じる。この素晴らしい演奏会を締めくくるにふさわしい。