芥川賞に朝吹・西村氏、直木賞は木内・道尾氏
第144回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が17日、東京・築地の新喜楽で開かれ、芥川賞は朝吹真理子氏(26)の「きことわ」(「新潮」昨年9月号)と、西村賢太氏(43)の「苦役列車」(同12月号)に決まった。直木賞は木内昇氏(43)の「漂砂のうたう」(集英社刊)と、道尾秀介氏(35)の「月と蟹(かに)」(文芸春秋刊)が選ばれた。
贈呈式は2月中旬に都内で。受賞者には正賞の時計と副賞100万円が贈られる。
朝吹氏はサガンの翻訳で知られる大叔母の登水子氏、詩人である父の亮二氏ら名だたる文学者を輩出してきた一家の出で、現在は慶応大大学院に在籍。2009年の第1作「流跡」でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞するなどデビュー当初から高く評価されていた。今回の受賞作は、葉山の別荘を舞台に25年ぶりに再会する2人の女性の現在と過去を巧みに交錯させ、夢と現実が溶け合ったかのような人の生の不思議なありようを描き出す。
西村氏は中学卒業後、定職に就かず転々としてきた来歴や自堕落な暮らしぶりを露悪的な独特のユーモアあふれる文体で書き続けてきた。今作は自身がモデルの19歳の青年が、冷蔵物流倉庫での日雇い労働で生計を立てる日々をつづる。
選考委員の島田雅彦氏は、朝吹氏の作品を「時間軸を操作する技術が卓越している」と絶賛。西村氏については「揺るぎない芸風を持っている。一つのエンターテインメントとして完成度が高い」とたたえた。受賞について朝吹氏は「うれしい気持ちと畏怖がない交ぜになっている」。西村氏は「面白い純文学を書きたいという狙い通り(評価された)」と喜んだ。
直木賞を受賞した木内氏は、出版社勤務などを経て04年にデビュー。今作は明治初期の東京・根津の遊郭を舞台に、時代の流れから取り残されていく人々の鬱屈を抑制のきいた筆致で描く。
04年にデビューした道尾氏は、08年刊行の「カラスの親指」以来、5回連続で直木賞候補に挙がった末の受賞となる。受賞作は、海辺の街を舞台に、思春期を迎えた少年少女たちが、閉ざされた山の空間で秘密の儀式にのめり込んでいくさまを陰影豊かに表した。
選考委員の宮部みゆき氏は木内氏の受賞作を「(細部を)必要以上に書かない節度が素晴らしい」と評価、道尾氏については「確実に自分の文体を持っている」と授賞理由を説明した。木内氏は「(今後も)姿勢を変えず一作一作大切に書いていく」と強調。道尾氏も「こんな本があったらいいなという素直なスタンスで、今後も書き続けたい」と意欲を示した。