花きの海外販促、千葉で孤軍奮闘 NYや香港にPR
国内の花き生産は難局に立っている。農家は高齢化し、後継者も足りない。加えて割安な輸入花きが出回り、取引環境も厳しい。そんな中、あえて割高な国産花きを海外に売り込む試みが始まった。仕掛け人はたった1人。だれも本気で取り組まなかった分野で、急速に成果を上げている。
仕掛け人、白川裕さん(37)が経営するブルームジャパンネットワーク(千葉県袖ケ浦市)の本社を訪ねた。大きな農家の一室に入ると、正面にデジタル式の世界時計。金属製のテーブルには最新のパソコンが置かれている。「妻の実家を間借りしています」
ブルームジャパンは2009年に1人で設立した。花き卸売会社のなにわ花いちば(大阪市)、豊明花き(愛知県豊明市)と組み、海外の展示会への出展をセッティング。海外のバイヤーへのPRも手がけ、輸出時には通関手続きも手伝う。販路開拓の何でも屋だ。
海外展開で重視する都市が2つある。ニューヨークと香港。最先端のファッション都市と、中華圏有数の文化都市だ。「特に香港に来るバイヤーを押さえればシンガポールにも売り込める」と白川さんは強調する。
1人での事業を可能にしているのがインターネットの活用だ。交流サイト「フェイスブック」に国内各地の生産者から届いた花の動画を載せる。すると1時間もせずに海外のバイヤーから問い合わせが来る。「目利きなら質の高さはすぐ分かる」と言い切る。
海外で好まれる国産花きはユリ科のグロリオサ、スイートピー、赤や桃色の花を咲かせるラナンキュラスなど。派手で大きく長いものが好まれる。白川さんは「国内で高値が付く人気の生産者の花も、好みに合わなければ買い手はつかない」と文化の違いを説明する。
逆にその違いを利用すれば商機が広がる。たとえばマツやセンリョウの枝。日本では正月飾りに需要が限られるが「欧米では『イベントや装飾でアジア調を演出するのに格好の素材』とバイヤーが評価する。通年の需要が生まれるかもしれない」。こうした情報を国内農家に伝え、生産を支援する。
もともと東京・大田市場の花き卸売会社に勤めていた。10年前に農林水産省の外郭団体に出向。オランダで2年間、欧州の市場調査にあたる中で、日本の花の質の高さを再認識する。生産コストは南米やアフリカの5~10倍。だが「需要を見極め質を売り込めば絶対に通用する」と確信した。
実は、過去にも商社や花き卸売会社が花きの輸出を試みたことがある。だが本格的な動きにはならなかった。商社には花の目利きがおらず、卸売会社も採算が不透明な輸出には身を入れにくいという。「国内と海外の市場に通じた人材は意外に少ない。そこに可能性があると思った」と話す。
最初に進出した米国では徐々に成果が出てきた。財務省の貿易統計によると、08年に500万円だった米国向け切り花輸出額は10年1~11月で3900万円に達した。11年7月期の売上高は目標の7700万円を大きく上回る見通し。「そろそろもう1人スタッフが欲しいですね」と笑った。