2010年12月16日、携帯アプリベンダーの大手のMyriadはスペインTelefonica との戦略的提携の拡大として、同グループ会社であるブラジルVivoへのモバイルSNSサービスを提供することを発表した。
今回の提携により、Vivoは自社のブランドで、Myriad社のXumiiのSNSプラットフォームを提供することとなる。
MyriadのXumiiでは、携帯電話ブラウザ上またはアプリで、Facebook、MySpace、Twitter、Flickr等、複数のSNS利用し同時に交流することができる。
ユーザはそれぞれのSNSサイトにアクセスしたり、アプリケーションを切り替える必要はなく、Xumiiを用いることによるあらかじめ統合されたページで複数のSNSが利用できる利便性の高いサービスのようだ。
V ivoはTelefonicaのグループ会社で、ブラジルで加入者数 約5850万人。(シェア約30%)
Vivoはブラジルでのシェアでは1番だが、突出している訳でなく、Clario、TIM、Oi
といった競合他社もそれぞれ20-30%のシェアを持っており均衡している。
ブラジルの携帯電話加入者数は、約1億9700万。普及率は、約102%、プリペイド利用が約82%(2010年12月)。
ブラジルのSNS市場の概略・背景と今後のキャリアのサービス提供の在り方について考えてみたい。
1.ブラジルのSNS市場概略・背景
- ブラジルで一番人気あるSNSは、Google系のorkutである。
Alexaの調査によると、2010年6月現在、全世界で約1億人の登録者数がいるorkutのうち約48%がブラジルである。もちろん世界で一番orukut を利用しているのがブラジル人である。なお2位はインド人で約40%とorkutを支えているのは、ブラジル人とインド人と言われている。(日本人のorukut利用者は約2%程度)
- Socialbakersの報告によると、Facebookの登録者数は、約855万人。全世界で約5億人いると言われているFacebookの中でのブラジル人の比率は約2%程度と少ない。それでもFacebookのブラジル人の新たな登録者は、2010年11月に約120万人増加しており、増加率は14%と急成長している。
- 同社報告によると、2010年10月のTwitter 利用(リーチ)率は、ブラジルが23%と世界で一番高い。
- サイバーエージェントが提供している、プーペガールのブラジル版も人気がある。
- Acisionの調査によると、今後のモバイル上でのSNSサービスがブラジルの携帯電話VAS市場成長の後押しになると予測している。
- ニールセンの調査によると、SNSなどのソーシャルメディア利用率はブラジルが86%で世界でも相当に高い。
どうしてブラジル人はSNSが好きなのか、その背景を考えてみたい。
ブラジルは世界一の多民族国家だ。その国民はポルトガルをベースにイタリア、スペインなどの欧州各国、中近東、アジア(日本、中国、韓国)などからの移民とその子孫、旧ポルトガル領だったアフリカのモザンビークやアンゴラからの黒人奴隷の子孫、土着のインディオ達が混ざり合った人種の坩堝だ。
それでもブラジル国内では民族ごとでもめることはない。経済的格差はあるが人種差別・偏見は少ない。民族、宗教上の争いや地域紛争もない。言語もほぼポルトガル語でまとまっている。
海外に出稼ぎに出ているブラジル人も約200万人と言われ、主に欧米、日本、パラグアイ等に多くいる。
日本にも約30万人にいて、群馬県太田市や、岐阜県可児市、静岡県焼津市のサイトにはポルトガル語もある。
またブラジルのソフトウェア産業は金融分野で高い技術集積を持つ中小企業が多い。
ブラジルでは96年にSOFTEXというソフトウェア輸出振興団体が設立され、ソフトウェアの輸出拡大に取り組んでいる。
非常にITリテラシーの高い国である。余談だが日系ブラジル人は非常に教育熱心でサンパウロ大学の約30%が日系ブラジル人でブラジル経済を支えているそうだ。
またブラジル人は、ジョークやユーモアが好きで家族や友人同士の繋がりを非常に大切にする国民である。
このような社会的背景も、ブラジルでSNSが流行する一因にあるのかもしれない。
とにかくブラジル人はSNSが大好きなのだ。1人でいくつものSNSを利用しているし、メッセージを発信しあっている。
今回のMyriad社によるVivoへのSNSプラットフォームの提供は、このようなブラジル市場のニーズに応えていると言えるだろう。
一方でブラジルは世界有数の貧富の格差があり、貧困な農村から都会に人口流出しスラム街を形成し治安も悪いと言われる。
識字率は約90%であり、社会的に改善するべき問題も抱えているので国民全体としてSNSを利用できる環境にあるとは言えない。
2016年にはリオデジャネイロでオリンピックが開催される。それに向けての社会インフラの整備も進められていくだろう。今後のブラジル社会全体の発展とその中でのSNSの発展には引き続き注目したい。
2.今後のキャリアのサービス提供の差別化
スマートフォンの普及により、キャリアの存在が土管化しつつある中で、今回のVivoのSNSプラットフォームサービスの提供は差別化の一因となるだろう。
ユーザにとってみればキャリアがどこであろうとコンテンツ、サービスが提供されていれば良いという意識がある。もはやそこには料金とカバレッジエリアでの競争しかなくなりつつある。
もっともスマートフォンが普及する前から、海外(特に新興国)ではキャリアのポータルは単なるリンク集にとどまったり、コンテンツ課金も日本のキャリアのように充実しているものは少なかった。
コンテンツホルダーとのレベニューシェアも日本より海外の方がキャリアの取り分が高いことが多く、良質なコンテンツもキャリアのポータルには集まりにくかった。
さらに海外では、スマートフォンが登場するまでは端末によるばらつきが多く、海外ではコンテンツホルダー側で端末に応じた動作確認試験等にも相当にコストと時間を費やさざるを得なかった。
一方、キャリアは自社ポータルに来てもらい、そこでのコンテンツ、サービスによる差別化とコンテンツ販売、広告等による収入向上を図りたいと考えるのは当然だろう。
今回のMyriad社によるSNSプラットフォームの提供はVivoにとって差別化になるのはもちろん、今後のキャリアにとってのサービス、コンテンツの提供方法を考えさせられる試金石にひとつになることだろう。
今後、各キャリアがサービス、コンテンツの提供において、どのような差別化、独自性を出してくるか注目していきたい。
なお、Vivoを配下に持つスペインTelefonicaは、Blueviaという自社のAppStoresの課金サービスのAPIを一般に公開している。
まだイギリス(O2)、スペイン(Telefonica)、アルゼンチン(Movistar)、メキシコ(Movistar)のみだが、今後提供地域国は更に拡大されていくことだろう。こちらの動きも重ねて注目したい。
【参考サイト】
ブラジルViVo:http://www.vivo.com.br
Myriad:http://www.myriadgroup.com/
世界のSNSマップ(2010年12月):
http://www.vincos.it/wp-content/uploads/2010/12/WMSN1210.png
【参考動画:Vivoのテレビ広告】