素晴らしい。角田光代/松尾たいこ「なくしたものたちの国」

2011年2月 8日(火) 8:02:46

なくしたものたちの国素晴らしくいい本だ。
「なくしたものたちの国」角田光代著/松尾たいこイラスト/ホーム社/集英社/1600円

年末に読んで感動して、何度か読み返し、そのままブログに紹介しようと思ったけど、なんとなく「もう一回再読してからにしよう」と思って置いておいた。なんだかとても「個人的な本」だと思ったのだった。ボクにとって。

で、先週、松尾たいこさんと二度目のご飯に行き、その後もう一度静かに読み返した。相変わらず「個人的な本」だったけど、少しニュアンスが変わっていた。この本は「ゆきちゃん(本の中に出てくる)」のようにある一定の人々に語りかけるはずだ。もっと広めないと!

なんでそんなに「個人的な本」と思ったかと言うと、角田光代さんが紡ぎ出す物語とその質感が、性も年齢も違うこのボクにあまりにぴったりだったのである。自分でも少し不思議に思ってしまったくらいだった。「これはボクの話だ。違うのか?」

もちろん、この本に紡がれているいろいろな不思議を体験したわけではない。でも確実にボクの話だ。そういう個人性と普遍性をこの物語は纏っている。

そこに松尾たいこさんの「ふんわり柔らかいけどどこか人が近づくのを拒否しているイラスト」が重なって、実に深い二重奏になっている。これは添え物としての挿絵ではなく、なくてはならない二重奏だ。

松尾たいこさんとは一回目のご飯でたいそう盛り上がった。
お互い人見知りなのに、初対面で自然に打ち解け、いろんな話ができた。

でも、二回目の今回、レストランで顔を合わせたとき、またお互いぎこちない感じになっていた。
相手を見ながら、「前回は仲良くなったけど、今回はどうかな」とかお互いに思っている。「なくすのかな。なくすなら最初から知らなくてよかったな」とかふたりとも思っている。そんな探り合いな感じ。

まぁシャンパン飲んですぐにまた一回目のように打ち解けたのだけど、なんというか、「お互いなくすことなんか怖くないんだけど、なくすのはもうイヤ。面倒。なくさないものだけと静かに生きていきたい」とかどこかで思ってる(少なくともボクはそう)。

我々はなくしつづけて生きていく。でも本当は何もなくさない。それはボクもわかっているんだけど、でももうなくしつづけるのはそろそろイヤだ。イヤすぎる。

関係ないけど、断捨離ってそれを実践する知恵だったりするんだな。ほんの少しの大切なものと静かに生きていく知恵。

それを(手法ではなく心のありようとして)思い出すために、定期的にこの本を再読しよう。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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