Final Cut Pro Xはプロ映像編集には不向き? Xの登場はまたAvidを使い始めるきっかけになりそうだ

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    Final Cut Pro Xはプロ映像編集には不向き? Xの登場はまたAvidを使い始めるきっかけになりそうだ

    動画編集にみなさんは何を使ってますか?

    Appleの最新版リリースFinal Cut Pro Xのリリースで編集の現場は何を思う? 米Gizmodoの兄弟Gawker.TVで働く編集歴8年のプロMatt Toder氏が、Final Cut Pro Xのお披露目会で見てきた感想を米Gizで語っていました。映像編集プロならではの意見です。どうぞ!

    2003年に始めた仕事は、小さな編集プロダクションでした。そこではAvidをメインで使用していました。Avidには当時多くの問題があり、エラーが多数。数ヶ月のAvidとの悪戦苦闘の末にXpress Proの登場でそちらに宗旨替えし、今度はこっちで四苦八苦するという日々。悪戦苦闘も四苦八苦もしょうがありませんでした、他にチョイスがありませんでしたから。そこで登場したのがAppleのFinal Cut Pro。こちらもやはり多くの問題点を抱えていました。しかし、Avidがユーザーの意見に一切耳を貸さず柔軟性がなくなって行く中、Final Cut Proの魅力はどんどん大きくなっていきました。2009年頃には多くの映像編集者がFinal Cut Proを使うようになっていました。

    そこで今回のFinal Cut Pro X(以下FCPX)のリリース。大きな変化。根底からのアップデート。今回のアップデートで最も注目すべき点は1つ。それは、AppleはFCPが抱える問題点をよく理解していた、理解した上で彼らがとった解決策は、問題点を修正するのではなく、全てを変更するということだったこと。

    お披露目会の場で、FCPの構築担当であるPeter Steinauer氏はFCPXはプロの編集者にとってFCP7と同じように扱えるものだ、と発表しました。ユーザー目線で言うとそうは見えませんでした。まず最初に説明されたのは、FCPXがどれだけ進歩したかという技術的な面。プロセスがより早くできるようになったとかそう言った話で、これは全て喜ばしいことでした。この技術面の話の後、次に説明されたのはカラー同期。FCPXがいかに色を正確に映すことができるかということ。編集の段階で本番での色と全く同じ色が見える、仮の色だとか心配する必要がないということでした。これは素晴らしいことなんですが、問題はFCPで最後の仕上げまでやる人は少ないということ。(仕上げまでやるのなら、カラー同期付きはとても良いこと)つまり、我々の多くはカラー補正をそれ専用の担当者とそれ専用のソフトを使って行うことが多いのです。Steinauer氏の話を聞いていて、僕が感じたのがFCPXはプロ用のソフトではないのだ、ということでした。


    もしFCPXがプロ用映像編集ソフトならば、ノンリニア編集のあり方を考え直すような必要はなかったはずです。本当にプロ用ならば、それよりもっと他にFCPが最初から抱えている問題を、Avidではとっくに実装されている問題点こそを解決すべきだったんじゃないか、と思えてしょうがありません。例えば出力の設定を保存できるようにするとか。例えばいちいちローカルで作業しなくていいように、UnityやLanShareのようにしっかりとした共有メディアシステムに力をいれるとか。そこにあるってわかってるのにクリップはありませんと言ってくる頼りにならないビンのシステムを修正するとか。タイトルを作る時に、前後にドラッグしなくても文字の動きを見れるようなプレビューを作るとか。それこそREDファイルの読み込みとDPXファイルの出力を可能にしてくれるとか! FCPユーザー全員がFCP内で全ての編集をするとは限らないんですってば!

    もしこれがプロ映像編集者のためのソフトならば、上記であげた問題の改善こそがFCPXが必要とすべきものだと思います。お披露目会に来ているユーザー層にとってそれがいかに魅力的かということをSteinauer氏は語ったと思います。EDLやOMFやXML等からメディア・マネージャーへの変更可能が使いやすさアップになると話したでしょう。EDLが読み込まれた時のコンパウンドクリップの仕様を話したでしょう。しかし会場では一切語られなかった。それはFCPXのターゲットユーザーはプロ映像編集者ではない、ということではないのでしょうか。

    コンパウンドクリップという考え方もFCPXの問題点の1つと言えます。Avidユーザーがなんらかの理由でFCPに鞍替えしなくてはいけなくなった時、これが大きな壁となります。FCPではAvidと違い、あるシーンとモニターにアップロードして編集する時、そのマスタークリップの情報を維持しておく事ができません。新たなクリップとして作成されてしまいます。これによって、選択したある場面を編集しつつも、マスタークリップのほうとマッチさせるということができなくなってしまいます。FCPXではこれができるようになると思ってたのにできない。FCPXはAvidのようには編集上でのタイムラインというものを理解していないように感じます。故に、編集者は多くのことを結局手作業で行わなくてはならなくなってしまいます。

    AppleはFCPにおいて、各シーンやクリップを同期させておくというのがどんなに面倒なことかは理解していたようです。それの解決策としてクリップコネクションマグネティックタイムラインという仕様があります。クリップコネクションは画と音を一緒にしてロックしておくというもの。これでどこに持って行ってもこの画と音は一緒に移動されるわけです。マグネティックタイムラインは、数シーンのグループを移動させた時に、その後ろにあるクリップを移動させたり重なってしまったりすることなく、スムーズに同タイムライン上で後ろにスライドするというもの。会場でのデモでは映像が1トラック音が2トラックだけだったから、そりゃ簡単に見えましたけれども。現場で実際に使うようなもっと込み入ったものでもそんなに上手くいくのか疑問に思います。映像2種類あってその上にタイトル文字乗ってて、音もバックミュージックとサウンド効果があって、それでも移動した時に全部上手く動いてくれるのでしょうかね。タイムラインを崩さないままでうまいことスライドしてくれるのか疑問です。

    そして、僕の思う最も大きな変更点(であり問題点)はソースモニターが排除されたこと。これは実に大きな変化だと思います。ノンリニア編集が始まって以来、ソースモニター・レコードモニター・ブラウザ・タイムライン、この4つはセットで必須アイテムです。この4大部分の1つをなくしてしまうということは、ノンリニア編集のあり方自体が全く変わってしまったと言っても過言じゃないと思います。編集の時、どうやってインポイントを正確に見つけるのかどうも理解できません。

    もちろんFCPXの素晴らしい面もあります。例えばレンダリングが裏で行われ、レンダリング画面を見ながらボーっとしなくてよくなったこと。映像を取り込む際に、長さや中身をチェックしてくれるのも嬉しい機能です。(これによって取り込み時間がどう変わるかは謎)取り込みの際にいろいろスキャンニングしてくれるのなら、原稿も一緒に付いてくる機能とかあればさらに嬉しいんですけどね。

    会場でSteinauer氏にもっと詳しく話してほしかったのは、取り込みの際のチェックをユーザーがカスタマイズできるかどうかということ。取り込みのクリップの何をチェックするか、どんなふうに振り分けのビンを探すか等、これがカスタマイズできると嬉しいんですけど。フォルダーでワイドショットとか主役2人のシーンとか、夕焼けとかわけてふりわけできたらすごい便利です。あと、元のマスタークリップはどこに保存されるのかも気になります。これはプロのユーザーにとってとても重要な部分。コアユーザーをプロだとするのなら、こういう所に重点をおいて説明してほしいと思います。なぜなら、答えによっては長年かけて作ってきた編集スタイルというものが変わってしまう可能性があるからです。

    もしFCPXの仕様がFCPの目指す未来なら、ひいてはノンリニア編集の未来のあるべき姿であるとすれば、それなら僕には何もできません。ただ今までのいろんなことを大きく変更して、これがプロのソフトだと言うのは強引な気がします。不正確な理由でプロの仕事の流れを変えてほしくないと思います。編集ソフトを使っている多くのアマチュアが使いやすくするために再構築されたプロのソフトなんて、そのためにプロの仕事の仕方を変えざるをえないのならそれは僕は納得がいきません。今、たくさんの人が編集という作業を行うことができるのは素晴らしいことだと思います。ただ一言で編集作業と言ってもそれにはたくさんのレベルがあります。自分の想像している世界を作り上げて行くための理解とスキルにはレベルがあるにもかかわらず、FCPはそのソフト1つでより多くの人を迎え入れようとしています。今回FCPXで変更された仕様は、編集作業をより身近に感じるためのもの、しかし効率的にするものではないと感じました。みんなにとって使いやすいものは、必ずしも専門の人間にとって使いやすいものとは限らないのです。

    FCPXは編集の仕方をよくわかってない人をサポートするツールになってはダメです、編集をわかっている人間をサポートするソフトであるべきです。彼らのサポートとしてより速くより効率よくサポートする、それが本来の姿だと思うのです。そうするために必要なのは柔軟性。プロの編集者達が彼らの培ってきたノウハウを活かせるようなそんな柔軟なソフトであって欲しかった。長年行ってきた編集の習慣を変えたり考え直したりするのは容易なことではないと思います。

    6月にFCPXがリリースされたらどうなるか。サポートの役割はいずれ必要なくなります、サポートが必要なくなっても、FCPXは使いやすい編集ツールだと言えるのか。その時FCPはどうなるのか? 僕はそれを待つつもりはありません。古くからの友人であるAvidの元に帰ろうと思います。Avidをしばらく使っていなかったけど、それでもいろいろ思い出してまた完全に慣れるのにかかるのはほんの一瞬でしょう。Avidを使っていた当時イライラしたたくさんの問題点にまたイライラさせられるかもしれないけれど、それでも少なくともソースモニターはあるんだからさ。


    Final Cut Pro Xのお披露目会で見たソフトにかなりショックを受けているようです。発売まで誰もきちんと使えないので、この意見が一体どれほど理解できるかは6月までわかりません。が、Mattさんのいう「みんなに使いやすいツールがプロにも使いやすいとは限らない」というのには納得できるところがあります。FCPX、発売後は一般ユーザーとプロユーザーとの間で意見が大きく別れることになるかもしれませんね。

    なにはともあれ、発売が楽しみなんですけどね!

    そうこ(Matt Toder 米版