[後編]モバイルの台頭で“競争”は加速、クラウドをきっかけにNGNを訴求

ブロードバンドの普及率に関しては、敷設済みの光回線の利用率が3割にとどまっている点が指摘されている。もっと事業者間競争が必要だと。

 確かに議論の中では問題点として挙げられているが、我々は少し考えが違う。競争はちゃんと進んでいるし、利用率だって既に3割5分くらいで、これは他の光ファイバー整備が進んでいる国と比べれば高いほうだ。

 競争についていえば、地域によって競争相手がいるところと、いないところがある。関西など競争相手が多くいる地域では、かなり競争が進んでいる。

 それに今後はモバイルが競争相手として台頭してくる。LTEをはじめFTTHとそん色ないレベルの高速な無線サービスが始まっているから、その競争がもっと広がるとみている。

 使い方次第では、スマートフォンなどの第3世代携帯電話(3G)だって十分なブロードバンド環境といえる。そういう新しい競争環境の中で、FTTHもモバイルも、料金やサービスメニューが今よりもっと多様化していくだろう。

タスクフォースでは、結局、アクセス部分を他の事業者が平等に使えるようにNTT内部で独立性を高めるよう「機能分離」を求められた。NTTにとっては規制強化になるが。

 機能分離のためのファイアウォールについては、NTT西日本の一件(NTT西日本が把握している他事業者のDSL利用情報などを、販売代理店に不正に提供していた問題)があってから、かなり改善を進めてきた。

 もちろん、これでもまだ足りないと言われれば、さらに検討せざるを得ないが、今までの取り組みで、十分なレベルまで強化できたと考えている。

光ファイバーの整備率は90%を超えているが、ブロードバンド100%普及となると、ユニバーサルサービス的に展開する必要がある。

三浦 惺(みうら さとし)氏
写真:新関 雅士

 NTTとしては、これからも光ファイバーの敷設は進めていく。既に公表しているように、収容局からの光アクセスのカバー範囲を長延化する技術も実用段階に入っている。これを使えば、今まではコスト面で対象外になっていた地域にも光ファイバーを引けるようになるから、整備はもっと進む。

 ただ、時代は変わっている。ユーザーは多様なネットワークの中から最適なサービスを選んで利用する。ブロードバンドは必要でもFTTHが必須とは限らない。CATVや無線のほうがいいというユーザーがいる。そんなときに、FTTHだけでユニバーサルサービスを目指しても意味がない。

 ユニバーサルサービスについては、それこそ様々な考え方や意見がある。ブロードバンドをユニバーサルサービスとして展開していくのなら、改めて「ユニバーサルサービスとは何か、どうあるべきか」を広く議論すべきだろう。

話は変わるが、喧伝してきたNGN(次世代ネットワーク)が、結局、あまり目立っていない。

 クラウドサービスが台頭するこれから、NGNが本当に必要とされる時代になると考えている。エリアの面ではほぼ全国展開を終え、利用環境は整ってきた。

 クラウドは、とにかくセキュリティや信頼性が重視されるようになってきている。なりすまし、情報漏えい、サイバーテロなど様々な危険が潜む中で、安心・安全なネットワークは売り物になる。NGNという点から言えば追い風だ。2011年はNTTグループの力を結集してクラウドの基盤を強化するとともに、それをきっかけにしてNGNをもっと訴求していくつもりだ。

 企業などでは、ベストエフォート型の低廉なサービスを採用するケースが増えているから、すべてをNGNにとか、すべてを高品質にというつもりはない。扱うデータや利用シーンに合わせて、高セキュリティ・高信頼性のサービスと、それよりも安価なサービスを使い分けてもらえると思っている。

NTT 代表取締役社長
三浦 惺(みうら さとし)氏
1944年生まれ。広島県出身。67年に東京大学法学部を卒業し、日本電信電話公社(現NTT)に入社。96年取締役人事部長、98年常務取締役人事労働部長などを経て、99年7月に東日本電信電話(NTT東日本)の代表取締役副社長に就任。2002年6月にNTT東日本の代表取締役社長。2005年6月にNTT代表取締役副社長中期経営戦略推進室長、2007年6月にNTT代表取締役社長に就任(現職)。趣味は旅行、山登りなど。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年12月3日)