オバマ大統領が一般教書演説で描いたギークフレンドリーな未来とは?

  • author 福田ミホ
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オバマ大統領が一般教書演説で描いたギークフレンドリーな未来とは?

わりと大風呂敷もあり、です。

オバマ大統領が1月恒例の一般教書演説を行いました。雇用やら戦争やらねじれ議会やら問題山積の中、明るい未来に向けた技術関連のいろんな約束も飛び出しました。年頭だし、景気の良い話しようぜって感じでしょうか。以下、オバマ大統領によるアメリカのテック分野における展望とそれに向けての約束を見てみましょう。

・インターネット

オバマ大統領は、昨年は一言も触れなかったインターネットについて、今回は6回も言及しました。大統領も映画『ソーシャル・ネットワーク』観たんでしょうか? で、どんなことを言ったんでしょうか?

現在ほぼどんな会社でも、インターネット接続さえあれば、店を開き、従業員を雇い、製品を販売することができます。

まあ、物流とかもあるって意味ではまったくその通りじゃないのですが、ともあれイーサネットかWi-Fiがある場所ならどこでも仕事ができる、という意味では正しいですね。

30年前、我々はインターネットなるものが経済的革命に結びつくとは考えていませんでした。我々にできること、そしてアメリカが他の誰よりも得意としていることは、創造性と想像力を発揮することです。我々は車を道路に走らせ、コンピューターをオフィスに普及させました。アメリカはエジソンやライト兄弟、GoogleやFacebookを生み出した国です。この国において、イノベーションは我々の生活を変えるだけではありません。それは我々の生き方なのです。

おお、大統領が一般教書演説でFacebookと言ってます。とはいえ、ソーシャルメディアのおかげでオバマ大統領が誕生したという面もあるので、それほど驚くにはあたりません。でも、おそらく時代を象徴する瞬間には違いありません。過去の一般教書演説であれば、インディアン襲撃とか蒸気船とかにあたる部分でしょう。

それはそれとして、上の発言は微妙に言い過ぎな気がします。インターネットが現在の姿になったのはWWWの誕生に負うところが大きく、WWWが生まれたのはスイスのジュネーブなんです。アメリカがインターネットのイノベーションすべてを担っているわけではありません。

我々の自由な事業システムがイノベーションを後押ししているのです。ただし、企業が基礎研究に投資することは必ずしも利益に貢献しないため、我々の歴史を通じて、アメリカ政府は先進的な科学者や発明家に対して必要なサポートをしてきました。それがインターネットの種をまいたのです。コンピューターチップやGPSを可能にしたのです。

自由市場応援団へのジャブ、グッドポイントですね。インターネットもGPSも、宇宙計画も、アメリカ政府のおかげです。Googleでさえ、創業時は連邦政府の補助金を受けていたんです。

我が国のインフラはかつて世界最高でしたが、現在その優位性は低下しています。韓国の家庭では、我々よりすぐれたインターネット接続が可能です。

たしかにそうです。2009年末時点で、アメリカは平均接続スピードで世界で18位になり、トップは韓国でした。国の面積が違うのでアメリカの方が難しいと言えばそうですが、アメリカの中のかなりの地域、特に地方では、ブロードバンドが届かないまま取り残されているのです。そんなわけで、

今後5年間で、事業者による次世代高速ワイヤレスのカバレッジを全米の98パーセントに到達させるようにします

オバマ大統領、なかなか大見得を切りましたね。「次世代」が4Gを指していて、それを本当に98パーセントかそれに近い数字にまで普及させようとするなら、かなりの大仕事です。ただ、そのための具体的なプランは明らかにされませんでした。5年もあればある程度のことは可能でしょうが、いまだにニューヨークでも3Gに安定してつなげないのに、ロッキー山脈で4G接続なんて、レディー・ガガのメガネ越しの世界並みにアンリアルなフューチャーな気もします。

でも仮に奇跡が起こって、アメリカ全土にワイヤレスが広がったとしたら、それでどうなるんでしょう?

これは、インターネット接続が速くなるとか、電話が途中で切れないという話ではありません。これはアメリカのすべての地域をデジタル時代につなぐということなのです。アイオワやアラバマといった地方コミュニティの農家やスモールビジネスオーナーがその製品を世界中に売ることができるということです。消防士が火災を起こしている建物の構造をハンドヘルド端末にダウンロードでき、学生がデジタル教科書で授業を受けられ、病気の人が医師の顔を見てビデオチャットができるということです。

あ、「電話が切れない」って、AT&T攻撃でしょうか? ここに描かれた夢はよくできているし、技術的には可能です。ただし本当にワイヤレスがそこまで普及すれば、ということですが、これまた大きな仮定です。

・サイエンス

オバマ大統領は、アメリカをもっとナードでギークにしたいようです。

子供たちに、祝福に値するのはスーパーボウルの勝者だけではなく、科学の世界の勝者もだと教えねばなりません。

これは確かにギークの味方的発言ですが、単なるレトリックっぽくもあり、具体的な政策にはなっていないです。実際何かするにはお金が必要になりますが、どうするんでしょうか。

アメリカの科学者や技術者に対し、その分野のベストな人員を集めてクリーンエネルギー分野の最難題に取り組むのであれば、現代のアポロ・プロジェクトとして資金援助すると呼びかけています。

オバマ大統領は、新エネルギーについては何度も言及し、重要性を訴えました。でも、ちょっとややこしいことになっています。というのは、

風力や太陽を求める人たちもいますし、原子力やクリーン・コール、天然ガスを指向する人たちもいます。目的を達するためには、我々にはすべてが必要です。

クリーンエネルギー、全方位で行きますってことですね! さらにオバマ大統領は具体的に述べています。

カリフォルニア工科大学では、太陽光と水を自動車用の燃料にする方法を開発しています。オークリッジ国立研究所では、原子力施設でさらに多くの電力を作り出すためにスーパーコンピューターを使っています。さらに研究を進め、インセンティブもあれば、バイオ燃料によって石油依存から脱却することができ、2015年までには100万台の電気自動車が走る最初の国になれるでしょう。

この手の「いつまでに何の最初の国になる」的な展望はいつもちょっとあやふやでしかもほとんど実現されないんですが、ともあれ、心意気は買いましょう。こうした活動に投資していけば、BPの原油流出事故みたいなものも避けられるかもしれません。

そしてさらに、すごい約束がもうひとつありました。今回もっともあやしげなものじゃないでしょうか。

2035年までに、アメリカの電力の80パーセントはクリーンエネルギー由来になるでしょう。

かなり大風呂敷広げましたね。幸い24年も先の話なので、時間はたくさんあります。ここでも詳細については語られませんでしたが、オークリッジ国立研究所を始め、技術者のみなさんにがんばってもらいましょう。

・鉄道

今回の演説では、高速鉄道が重視されていました。なぜでしょう?

ヨーロッパやロシアでは道路や鉄道に対し我々より多くの投資がなされています。中国ではより速い鉄道、新しい空港を建設しています。一方、我が国のエンジニアがアメリカのインフラを評価すると、それは「D」になったのです。

そう、現状そんなことになっているんです。そこでオバマ大統領はぶち上げました。

我々のゴールは、25年以内に国民の80パーセントが高速鉄道にアクセスできるようにすることです。(拍手)これによって、車で移動する場合の半分の時間で目的地に行けるでしょう。場合によっては、飛行機よりも速くなります、身体検査がありませんので。(笑いと拍手)こうしている間にも、カリフォルニアと中西部のルートはすでに建設中です。

これまた長期展望で、TSAの身体検査のジョークまで付いてきましたが、詳細不明です。でもアメリカ全土を走る鉄道Amtrakは、たとえば西ヨーロッパの清潔で高速で効率的な鉄道に比べると、国としてどうなのという状況なのは事実です。アメリカの鉄道ファンは、日本とかヨーロッパの人ほど恵まれてないと言ってもいいかもしれません。なので大統領がこの問題を優先したのは正しい判断と言えるでしょう。

ただ、本当に25年後かどうかは、あまりあてにしないほうがよさそうです。また現在のAmtrakでも経営が苦しいので、フランスとか日本みたいになるには、料金もかなり高くなりそうです。

そんなわけで、近い将来には4G普及率が98パーセントに達し、電気自動車が100万台走り、その先の未来ではクリーンエネルギーが電力の80パーセントを占め、多くの人が素敵な高速鉄道にも乗れる...というのがオバマ大統領の描いたアメリカの姿です。

どう実現するんだ? とツッコミ始めればキリがありませんが、リーダーが未来の国のあり方を明言するところから議論が始まるんでしょうね。

冒頭のイラストはContributing IllustratorのSam Sprattさんのものです。TwitterFacebookもチェックしてみてください。

Sam Biddle(原文/miho)