2007年9月01日
IAEAの本質を知らない日本人
IAEA(国際原子力機関)の発足は1957年。今年は50周年記念の年だ。IAEAは2005年にはノーベル平和賞を受賞し、最も世界の注目を集めている国連機関だが、"美しい誤解"を抱いている日本人がとくに多い。
憲章が定めているIAEAの任務は、(1)原子力の研究、開発、実用化の促進のための情報交換と協力、とくに途上国への物資・役務の提供 (2)核物質の軍事転用阻止のための「保障措置」の適用 (3)健康の保護、人命に対する危険の最小化のための安全基準の設定と採用である。言い換えれば、原発推進、放射線利用の促進、核拡散阻止のために査察の3分野だ。
ノーベル賞受賞とエレバラダイ事務総長の言動で、軍縮と究極の核廃絶に努力しているがごとき錯覚をいだく日本人が多いが、これは反核・反原発の人びとの「大いなる幻想」だ。核軍縮、核廃絶とは全く無縁、しかも主目的は原発推進にある。拡散阻止は軍縮ではない。
IAEAは、そもそもアイゼンハワー大統領の"Atoms for Peace"(平和のための原子力)提案にもとづいて、原発を大いに普及しよう、しかし核物質が軍事目的に転用されるのを未然に阻止しようという2つの目的を両立するために設けられた機関だ。その後1970年にNPT(核不拡散条約)が発効して、世界中の「非核兵器国」(Non nuclear-weapon states)はすべての核物質を申告してIAEAの査察を受けることになった。これを「包括的保障措置」という。
それでも南ア、イラク(フセイン政権)、北朝鮮など、NPTに加盟しながら秘密核開発に走る国が続出して、対抗上、環境モニタリング、抜き打ち査察などを盛り込んだ「追加議定書」が1997年に発効した。これだと秘密開発は99%阻止できると関係者は太鼓判を押す。しかし北朝鮮は未署名、イランは証明したものの批准していない。
日本には55基の原発が稼動中、査察対象施設が250カ所もあり、世界最大の「非核兵器国」だ。このため、日本には20名から25名の査察官が常駐、とくに青森県の六ヶ所村の再処理工場には常時数名の査察官が張りついている。全施設をくまなく査察して歩いたらIAEAの全予算を投入しても足りなくなるので、「日本は軍事転用の意思のない国」と認定して「統合保障措置」を適用、全面的に信頼して、いわゆる"手抜き"に応じた。それでも全予算の25%が対日査察に投じられている。そんな国が核武装などしたら、IAEAの存在理由は失われる。
近年は、安全対策も重要視され、チェルノブイリ事故のあと「原子力安全局」が新設された。日本人通産省OBの谷口富裕氏が担当事務次長だ。柏崎・刈羽原発に対する調査団派遣は地震対策を日本から学ぼうというもので、査察をしようというのではない。日本人は被害者意識が強すぎる。