ヒトリシズカのつぶやき特論

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東大生産技術研究所は異分野融合研究リーダーの人材育成を始めます

2011年05月11日 | イノベーション
 東京大学の生産技術研究所は複数の研究分野を融合させ、産業面や社会面などの課題を解決する研究開発プロジェクトを率いるリーダーなどを育成する「NExTプログラムを始める」と、発表しました。このNExTプログラムは「New Expertise Training Proguram」の頭文字をとったもので、日本語では「社会人新能力構築支援プログラム」と表現されています。全体像を横断的に構築できる人材育成を目指すものです。

 このプログラムの代表を務める藤田博之教授は「例えば、次世代自動車の研究開発を考えると、エンジンや車体という自動車の要素技術に詳しいだけではなく、これからの自動車開発ではITS(Intelligent Transport Systems、高度道路交通システム)についても知らないと、社会インフラストクチャーとして適応できない可能性が高い」と説明されます。そして「このITSを理解するには、通信技術についても理解しないと、研究開発リーダーは務まらない可能性が高まっている」と続けます。あるいは、「次世代自動車の開発には環境対応の要素技術を盛り込むことも必要とされる可能性が高い」と説明され、「異分野の要素技術を本質的に融合した研究開発プロジェクトを構築し実施することが求められている」と語ります。



 「最近の日本企業は半導体事業やHDD(ハード・ディスク・ドライブ)事業などで、国際市場での存在感が低下しています」と説明し、「その理由は異分野融合イノベーションを提案し牽引(けんいん)するリーダー人材不足が一因と分析している」と、説明されました。「最近の(福島原発)の原子力発電所での対応を考えると、機械、電気、土木などの各要素技術を横断的に理解できていないと、的確な対応策を打ち出せないだろう」と、日本企業の研究開発リーダーの資質に問題があると分析されました。

 東大の生産技術研究所の教員の方々は、日本企業の経営陣や管理層の方々から「日本の新産業創成を担う人材の育成について、よく相談を受ける」そうです。このニーズに対応した人材育成プログラムが「NExTプログラム」です。

 このプログラムは、企業の30歳~40歳台の研究開発人材を対象に、1年間あるいは2年間で最先端技術を学び、異分野融合の研究開発プロジェクトを提案し率いることができる研究開発リーダーに育てることを目指したものです。東大の生産技術研究所は、ほとんどの工学分野をカバーする研究室群などで構成されています。その中のほとんどの約140の研究室の中から3研究室を、自分が学びたい研究分野から選びます。3カ月単位で1研究室で当該研究分野の最先端技術を学び「調査研究」にまとめます。これを3回繰り返し、最後に3つの「調査研究」をまとめて統合プロジェクト構想にまとめるものです。ここまでで1年間の教育プログラムになります。もし、ある調査研究をもっと深掘りする場合は、もう1年かけて学ぶことになります。

 問題は1年間の受講料が300万円(税込み)である点です。この受講料は個人ではなかなか出せない額です。企業の中で、将来の研究開発リーダーを育成するために、社内でこれはと見込んだ候補生を、東大の生産技術研究所に1年間あるいは2年間、一種の“国内留学”させて能力開発する費用と想像します。1年間あるいは2年間の受講し修了認定されると「履修証明書」を受け取れます。初年度は5~10人の受講生を想定しているとのことです。受講生は、2011年10月に入学し、2012年9月あるいは2013年9月に修了します。

 最近の日本企業は社内教育にかける教育費用を削減させています。社内の幹部が社内教育に時間を割くことを考えると、大学に社内教育をアウトソーシングする費用としては、300万円は合理的な値付けと考えられます。

 今回の「NExTプログラム」の特徴は研究開発に必要な最先端分野の研究開発知識や研究開発のやり方を学ぶ点です。研究開発のマネジメントを含まない点がMOT(Management of Technology、技術経営)とは異なる点です。

 今回の東大の生産技術研究所の試みは、日本の大学・大学院が日本企業の社員の再教育を請け負うという大学・大学院の新しい役割を担えるかどうかという試金石の一つとみなすことができそうです。

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