「銀行は東電の債権放棄を」枝野発言に
資源エネ庁長官が「オフレコ」で漏らした
国民より銀行、株主という本音
「私たちの苦労はなんだったのか」とポロリ
東京電力・福島第一原発事故の賠償問題で菅直人政権が賠償枠組み案を決めた。報じられているとおり、政府が新たに原発賠償機構(仮称)をつくり、そこに交付国債を発行、東電は必要に応じて交付国債を現金化して、賠償金を被災者に支払うというスキームである。
東電の賠償負担には上限がないとされているが、勝俣恒久会長が会見で当初から「すべて東電が負担するとなったら、まったく足りない」と認めているように、東電の純資産は約2.5兆円にすぎず、東電は10兆円ともいわれる賠償金の支払能力がない。
つまり実質的に東電は債務超過であり、破綻している。
本来、破綻会社であれば、まず役員と従業員、株主、金融機関が損をかぶって負担するのが「株式会社と資本市場の基本ルール」だ。ところが、今回の賠償スキームでは、株主は株式が紙くずになる100%減資を免れ、銀行も融資や保有社債の債権カットを免れた。
勝俣会長ら代表権のある役員は報酬を全額返上するというが、社員は年収の二割カットにとどまり、高額とうわさされる年金カットも盛り込まれていない。そのつけは結局、電気料金の値上げとなって、国民が払わされるのである。
国民よりも東電、株主、銀行のための苦労
こうした賠償スキームに対して高まった批判を意識してか、枝野幸男官房長官は13日の会見で「銀行の債権放棄がなくても国民の理解が得られると思うか」という質問に対して「得られることはないだろう」と答えた。当然である。
枝野発言の真意について興味をそそられるが、その前に、興味深いエピソードを披露しよう。
私は13日午後、資源エネルギー庁が開いた論説委員懇談会に出席した。そこで「枝野発言をどう受け止めるか」という質問に対して、細野哲弘長官は「これはオフレコですが」と前置きして、次のように答えたのである。
「そのような官房長官発言があったことは報道で知っているが、はっきり言って『いまさら、そんなことを言うなら、これまでの私たちの苦労はいったい、なんだったのか。なんのためにこれを作ったのか』という気分ですね」
この発言にすべてが凝縮されている。つまり、資源エネ庁としては「銀行が損をしないですむように、さんざん苦労して今回のスキームを練り上げたのに、いまさら官房長官が銀行に『債権放棄しろ』などと言うなら、なんのためのスキームなのか」という気分なのである。
細野は正直な官僚だと思う。経済産業省・資源エネルギー庁は国民負担を最小化するためではなく、初めから「東電と株主、融資した銀行の利益を守るために苦労してきたのだ」と語っている。
経産省はこれまで長きにわたって電力会社と癒着し、何人も高級官僚を東電に天下りで送り込んできた。経産省が東電サイドに立っているのは、とっくに分かっているから、実は発言にたいして驚きもしなかった。「正直な人だな」と思っただけだ。