
2011年5月1日、ドイツの労働者は恐怖に打ち震えていた。というのはウソだが、この5月1日という日以来、いったいこれからドイツの労働市場はどうなるのだろうかと、皆が少なからず不安に思っていることは確かだ。というのも、この日から、2004年にEUに加盟した10ヵ国の人たちが自由にドイツで働けるようになったからだ。
つまり、市場解禁。入国ビザはもちろん、滞在ビザも労働ビザも何もいらない。就職も、職業訓練のポストに就くのも、チャンスはドイツ人と同じ。EU市民の間には差別があってはならないというのが、そもそもの原則なのだ。
EUの理念とは、平たく言えば、「人」、「金」、「物」、「サービス」の自由な往来である。そして、それは着々と実行に移されているが、現在の加盟国はすでに27ヵ国。しかも、ルーマニア、ブルガリアなどという恐ろしく貧しい国も加わっている。うまくいくわけがないと思うのは、私だけではないだろう。
はたして政治家は、もっと先を見通しているからこうしたのか、あるいは、目先のことだけを考えていたらこうなってしまったのか、それさえもよくわからない。わかっているのは、ドイツ国民は、EUに関してはまるで頭が付いていっていないということだ。EU議会の選挙の投票率もすごく低い。自分がEU市民だと自覚している人間など、ほとんどいないかもしれない。
2004年にEUに加盟した10ヵ国というのは、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、スロベニア、チェコ、マルタ、キプロス、そして、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国だ(バルト3国は旧ソ連邦だったのに、CISではなくEUに加盟したところが興味深い)。
東欧からの大量の移民に脅える
EUには、既存の加盟国は、新しい加盟国に対して、労働市場をすぐに開放しなくてもよいという規則がある。最高7年間、市場を保護することができる。2004年当時、イギリス、アイルランド、スウェーデンだけは、即時、市場開放したが、他の国は猶予期限を利用し、ゆるやかに開放していった。
その中で、ドイツとオーストリアは、7年という猶予期限の満期を待ち、ようやく今年の5月1日に全開放に至ったのだ(ただし、マルタとキプロスに対しては、労働者の大量流入の恐れがなかったため、すでに開放済み)。3年後2014年には、やはり7年の満期が過ぎて、ルーマニアとブルガリアがそれに加わることになる。
ケルンのドイツ経済研究所の試算では、2020年のドイツの人口は、これらの国々からの移住者で120万人増えているだろうという。120万で済めば、いい方かもしれない。