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そっちに行けばいいだけ

鶴岡 高校生くらいのときに、「薔薇族」とか「サムソン」とかを買っていたんだよ。
――え?
鶴岡 ホモ雑誌の。

――え……そういうアレですか?
鶴岡 いや、違うんだけど、その手の雑誌を未成年にも売ってくれる古本屋を見つけて、ありとあらゆる性欲の専門誌をとりあえず全一作ずつ買おうとしていた時期があった。
――なにがとりあえずなのかがさっぱりわからないんですけど。
鶴岡 いや、世の中っていろんな人がいるじゃん。そういうのに興味があってさ。
――いま僕の中では、鶴岡さんも「いろんな人」に分類されたんですが……。
鶴岡 最近わかったんだけど、どうやら親は本棚を見ていたらしくて「この子は大丈夫なのか」って悩んでいたらしいんだよ(笑)。

――家族会議ものですよ。友だちにも見せたりしました?
鶴岡 見せた!
――そんな自信満々に……(笑)。そういうものの良さはまだわからないですよね、多分。
鶴岡 わからないんだけど、……かなり引かれた。「サムソン」はさ、太っている方とかおじいさんが好きな同性愛者向けの雑誌で、頭の中をどう組み立ててもわからないんだよ。何回か読んだら興奮するのかなと思ったけどやっぱり無理だと思って。

――興奮したらどうするんですか!?
鶴岡 そっちに行けばいいだけの話なんだけど(笑)。自分のなかでそういうのは問い詰めたなあ。
――発見はあったんですか?
鶴岡 女の人が襲われたり、泣き叫んでいるのが嫌なんだなってわかった。アクション映画は別だけど、セクシャルなものとして女性がどうこうされているのは興味がわかなかったね。
――男が男に襲われるのは?
鶴岡 男はどうなったっていいんだよ。女が男を襲うのも大丈夫。
基本的に女が強いのは好きだから。歪んだ女尊男卑思考がある人間なんだよな。


それが仕事になるって気がついた

――そこはちょっと安心しました(笑)。いまの楽しいことはなんですか?
鶴岡 うーん。仕事で一番楽しいのは物語を書いているときで、次がコラムかな。やらしい話、物語を書いていて、それなりの金額がいただけるんだったら、それに対する苦労は仕方のないことだし受け止められるから快適。
もっと積極的にやっていきたい。
――なんでそんなに好きなんですか?
鶴岡 子供のとき、異常なまでの妄想癖があったんだよ。再放送で観ていたんだけど「ウルトラマン」がすごい好きで、「ゴモラとレッドキングが戦ったらどっちが強いんだろう」とか考えるの。
――あー、僕もソフビ人形で怪獣同士を戦わせたりしていました。「SDガンダム」の一色のゴム人形とか。
鶴岡 「ゴレンジャー」とか戦隊物と戦う悪の組織を自分で作るの。

――「ゴレンジャー」と戦っている組織とは別の?
鶴岡 そう、オリジナル。小学校に上がる前はそいつらの組織図とかをノートに書きまくっていたんだよ。ノートと鉛筆さえあればできるから、親もすぐ買ってくれるじゃない。
――小学校上がるまえに組織図はかなりすごいですよね。いつまで続けていたんですか。
鶴岡 30年以上かな。

――あっ、いまも。
鶴岡 中断していないの。それが仕事になるって気がついたのは原作の仕事をし始めてからなんだけど、周りからは「そういうことをしているのは小学2年までだ!」ってよく言われていた(笑)。
――ははは。物語を作るトレーニングですよね。
鶴岡 大人になってくると、放送していないテレビ番組の放映リストを作るのが楽しくなってくるの。この話のサブタイトルはこうで、ゲストは誰々だなーって。
――それは小さいときにやっていた「ウルトラマン」とかじゃなくて、完全にオリジナルになっていく。
鶴岡 そうそう。オリジナリティはないんだけど、一応オリジナルでやっていた。
――なんで既存の作品じゃないんですかね。
鶴岡 ファン心理が希薄なのかもしれない。俺の方が面白い、という変なおごりたかぶり……、傲慢さ?(笑)。
――二次創作じゃないのはこだわりですか?
鶴岡 こだわっているのかなあ。あ、作品を知らないで、流行っているからってその作品の同人を描くやつって腹立たない?
――わかります。設定が微妙に違っていたり、一人称すら間違えていたり。
鶴岡 そういうのも嫌いなんだよ。本気で好きだからやっているって人はいいんだけどね。
――同人って売れるためにやるものなのか? と思います。好きだから描くんじゃないのかなって。
鶴岡 オタクが流行に敏感でどうするよ。流行から取り残されているのがお前らだろっていうさ(笑)。
――敏感なんですかねえ?
鶴岡 だってさ、好きな作品の放映が終わっただけで過去の物扱いするでしょう。同人誌即売会に行くと、時間が止まっている人がいるじゃない。
――このジャンルはこの人しか描いていないのか? って。
鶴岡 グっとくるよな。「機動戦艦ナデシコ」の同人を未だに描いている人を最近見たんだけど、がんばれ! って思った。そういう人好きだな。
――作品は知らなくても応援したくなりますよね。
鶴岡 そうなんだよ。俺が生まれる前の作品だけど、「帰ってきたウルトラマン」の話とかまだできるよ。友だちはもう聞きあきているんだけど。
――まーたはじまったって(笑)。


物事を全部知るって不可能じゃない

鶴岡 そういうの、いまのオタクはあまり無いのかな。
――ジェネレーションギャップを感じますか?
鶴岡 秋葉原にいくとすごい感じる。神保町の書店街のほうが落ち着くもん。みんなが盛り上がっている感じに慣れないし、嫌いなんだよね。へそ曲がりだから。
――メジャーになっていくオタクが嫌いというか、もっと潜んでいろ、みたいな?
鶴岡 潜んでなくてもいいんだけど、群れなくてもいいじゃないかとは思う。でもさ、普段よっぽど地味な暮らしをしているから、群れてハジケちゃうのかもしれないからね。オタクであることと優秀な消費者は別だと思うし、優秀な消費者であることは別に正しくないと思うんですよね。
――グッズを買いあさるだけ、とか。俺もよくやっていましたけど、最近はないですね。
鶴岡 だって、物事を全部知るって不可能じゃない。俺だってわかんないことだらけだよ。ビートルズの『リボルバー』を公式盤を買って聞くようになったのも去年からだし、そろそろアルバム単位で聞いてみようかと思っている。運に任せて出会うときがくるんだよ。必要なものは向こうからスーっと入ってくる。
――あえて自分からいかない?
鶴岡 それこそツイッターとかあるからさ、「◯◯に興味がある」とツイートすれば、すぐに情報がくるもん。僕は相互フォロワーが1700人くらいいるからさ。
――聞けばすぐ帰ってきますよね。俺は3000人いますけど。
鶴岡 あ、そう? へえー。俺、間違えて覚えたり、勝手に考えることが好きなのよ。
――それを訂正されるのが好きだったり?
鶴岡 訂正はなくてもいい。映画のポスターやタイトルをだけを見て内容を考えようとかやるんだよ。「多分こいつは悪者だな」とかその程度。ほぼ正解しないんだけど、そこで考えてできたものってオリジナル作品なんだよ。
――おお、それは物語作りですよね。
鶴岡 ただの妄想癖なんだよ。
――でも、物語って全部妄想ですよね。
鶴岡 たまたま妄想癖がお金になっているだけだと思っているけど。友だちとキャスティング遊びとかするのよ。自分や友だちをドラマ化アニメ化するときは誰がどの役をやるかとか、そうやってトレーニングしているんだよ。
――わかります!
鶴岡 おお!? あ、やる?
――やります、やります!
鶴岡 よかった。俺だけの病じゃなかった。俺は、髪を切る前はラーメンズの片桐仁だった。たしかにそれは否定出来ないから、わかりましたって(笑)。
――声優キャスティングを友だちがやっていたときは、僕の声は櫻井孝宏さんでした。
鶴岡 考えるだけでも楽しいんだよな。そういうのを日々考えて暮らしているんだよ。
(加藤レイズナ)

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