ぼくのiPhoneが17人を殺したのか?(1/4)

ここが中国のiPhone工場だ。100万人の工員が働き、 これまで9,000万台もの iPhone を生産してきたこの工場から、 17 人の自殺者が出た。あなたのガジェットは、こんなところで作られている。 罪の意識を感じる? 感じない? あなたの良心と、iPhoneとを、天秤にかけてみようか。
ぼくのiPhoneが17人を殺したのか?

ここが中国のiPhone工場だ。100万人の工員が働き、これまで9,000万台ものiPhoneを生産してきたこの工場から、17人の自殺者が出た。あなたのガジェットは、こんなところで作られている。

頭上を覆うようにせり出す防護ネットに、いやがおうでも目が行ってしまう。なにせあらゆるビルに張り巡らされているのだ。建物から突き出す6mほどの鉄柱を覆うネットが、冬場のビーチバレーコートのようにだらしなく風になびいている。ネットが取り付けられたのは昨年5月のこと。この工場で11人目の自殺者が出た直後のことだ。

防護ネットが張られて以来、自殺者数は徐々に減少してきているという。しかし同行するガイドは、私が話を持ち出すまでネットについて一言も触れなかった。その話題を意図的に避けていたわけではおそらくない。ただ単にそれがあたりまえの光景だからなのだろう。

わたしがいまいるのは、深圳にあるフォックスコン社の工場。急速に成長する中国南部の工業地帯にある。ここに来た理由は、同工場で多発する自殺の取材をするためだ。フォックスコンは中国の民間企業で、マザーボード、カメラ部品、MP3プレイヤーなど数多くのプロダクツを製造している。150億ドル規模といわれる世界の家電市場の約40%を占めるメーカーで、100万人近い従業員を雇用している。その全従業員数の半分にあたる人が、この深圳工場に勤務しているのだ。

しかしつい数年前まで、中国国外でフォックスコンの名を知っている人間はほぼ皆無だった。それを“自殺”が変えたのだ。それ以前も、自殺者数はゼロではなかったが、2010年3月に異変が起きた。なんと同年5月までの2カ月間に相次いで9人もの従業員が飛び降り自殺を図ったのだ。

深圳だけでなく、別の工場でも自殺が発覚。フォックスコンは否定しているが、報道を総合すると過去5年間に17件もの自殺が発覚した。それぞれ無関係であるはずの自殺が、ぞっとするようなひとつのトレンドになっているともいえる。その原因は何か? 先進国が追求するローコスト戦略のしわ寄せが中国の労働者に及んでいるとするむきもある。実際、過酷な労働環境を指摘する声も少なくない。「中国での自殺防止対策が急務」という見出しが『ニューヨーク・タイムズ』の紙面を躍ったことすらある。フォックスコンと、アップルを筆頭とするパートナー企業は、あらゆる手段を尽くして工場側の弁護を試み、対応策を打ち出した。そのひとつが冒頭の防護ネットである。

わたしは、「Boing Boing Gadgets」や「Gizmodo」といったウェブサイトに、ガジェット関連のブログを執筆することにキャリアの大部分を費やしてきた。もちろん深圳のフォックスコン工場で製造された多くのプロダクツもレヴューしてきた。

そのフォックスコンで起きた最初の自殺についてわたしは、「悲しいことだが統計的に避けがたいもの」として片付けた。だが自殺者数が2桁になるころ、事態はそれほど単純ではないかもしれない、との考えに変わっていった。100万人に対して17人の自殺者は、それほど多い数とはいえない。実際、アメリカの大学生なんてその4倍近くも自殺している。だが、(よくいえば)旬のガジェットの買い物ガイド、(悪くいえば)消費者の購買行動を煽るテキストを書き続けてきた身としては、規格外の罪悪感を背負わされた気がした。文明に対する、実存的消費者の自責の念というやつだ。

わたしがこの地にやってきた理由はただひとつ。本当に「わたしのiPhoneが17人もの人間の命を奪ったのか?」ということを知りたかったのだ。

PHOTOGRAPHS BY TONY LAW
TEXT BY JOEL JOHNSON
TRANSLATION BY SHOGO HAGIWARA

その2へ続く)