ぼくが堀江さんを応援する理由(後編)

堀江さんは性格が悪いどころか、むしろ尊敬できる人間じゃないかと思い始めたのは彼が逮捕されてあとの話だ。拘置所からもどってきた堀江さんが痩せてスリムになっていたのはともかくとして、人に接する態度がすっかり謙虚になっていたのには驚いた。ほりえもんは逮捕されて人格者になったとその頃、ぼくはまわりに触れ回っていたのを覚えている。やっぱり逮捕されて反省したのだろうと最初は思っていた。
(実際には、堀江さんは、まったく反省していなかった。少なくともぼくが思っていたような意味では。彼は無罪を主張していて、その後、「徹底抗戦」を出版した。)


どうも堀江さんは逮捕の以前から自分が認めた相手にはとても謙虚だったらしい。ようするにぼくに対しては・・・まあ、そういうことだ。逮捕後、まわりに残っている人間に対して一様に謙虚になったということなんじゃないかと思う。


逮捕後も相手によっては以前同様の傲岸不遜な態度を示しているのはtwitterをみても明らかだ。堀江さんは性格が悪いというよりは、たんに人付き合いがとても下手くそなんじゃないかとぼくは思い始めた。そういえば企業直後の長髪の堀江さんを記事とかをみてみたら、たんなるコンピュータオタクにしかみえない。


釈放後にフジテレビの買収事件のことを堀江さんに聞いたときに、彼が人付き合いについてめちゃくちゃピュアな人間であるということを確信した。彼は「フジテレビの現場は、ライブドアに買収されることに賛成だった」と断言していたのだ。そんな話は聞いたことがなかったが、堀江さんはそのときの状況をこう話してくれた。「買収騒動の起こる前、フジテレビの番組にも、たくさん出ていたんだけど、ぼくはめちゃくちゃ現場のスタッフに人気があったんですよ。番組のプロデューサーとかにも、堀江さんは数字とれるし、いっそフジテレビを買収しちゃってください。」とかいわれていたんだという。だから、フジテレビの買収を宣言したら、社内から賛成の声があがると思っていたんだ、と。・・・どう聞いてもそんなのは調子のいいテレビマンのお追従でしかなかったと思うが、堀江さんはそれを信じてフジテレビ買収に突き進んだらしい。アホすぎる。


だとすると、日本を騒がしたホリエモンという現象は、世間知らずの引きこもり天才プログラマがたまたま大成功してそのままいろいろ間違えたまま暴走してしまったのが真相ということになる。


堀江さんが見た目、性格悪いのはコミュニケーションが下手なだけだからという結論とともに、ぼくが気づいたことがもうひとつある。彼は決して冷血な合理主義者ではなく血の通った熱血漢であるということだ。堀江さんは普段、みもふたもない発言をよくする。そのあたりはひろゆきと似ている。あ、ちなみに最初、堀江さんを紹介してくれたのもひろゆきだった。徹頭徹尾に合理的なことしかいわないから、唖然とさせられることがよくある。だから、堀江さんが検察と徹底抗戦すると聞いたときに驚いた。


日本では逮捕されたらやっていなくても罪を認めたほうが得だ。有名なのは痴漢で捕まったときだ。自分じゃないといえばいうほど反省していないとみなされて罪は重くなり、拘置所に閉じ込められて家に帰れない。自分がやりましたととりあえず”自白”しておけばすぐに帰してもらえる。堀江さんが初犯で粉飾の容疑をかけられている金額も小さいのに執行猶予がつかなかったのは無罪を主張したからだ。日本では逮捕された人間は裁判で争う権利が憲法で認められているが、有罪を認めて刑罰の重さを争うことはできても、無罪を主張したら刑罰は重くなるというペナルティがある。合理的に考えると堀江さんが無罪を主張したのは間違いだ。あれほど社会的に大きく騒がれた事件で無罪判決がでたら司法の威信に関わる。まず有罪になると考えるのが自然だ。合理的な判断ではない、怒りで血迷ったかと思った。


そのあたりの堀江さんの文章でなにか記憶に残るものがあった。どこで読んだのかは忘れてしまったが、メルマガなのか、ツイッターなのか、ブログなのか、それは日本の検察制度はおかしいということ、損になるとわかっていてもそれを世の中に訴えて戦うのが自分の歴史的な使命だと思っているというような内容だった。損得ではなく正義感からくる怒りを行動原理にしているんだなと思った。そして、覚悟しているんだなと思った。本当は理想に燃える熱い人間なんだと思った。そのときにはじめて堀江さんを応援しようと思った。


そういえば堀江さんとの逮捕前の食事中に宇宙ビジネスの話を聞いたことを思い出す。ライブドア時代から堀江さんが宇宙ビジネスを次はやるといっていたのは有名だ。あぶく銭を儲けているように見える人間が、本当にやりたいのは宇宙ビジネスです、といっているのを聞いたときに人間はどう思うか。なんか、少年らしい夢を語ってイメージアップをはかっているんだろ。それにしては稚拙すぎだろ、ぼくもそう思ってた。実際に堀江さんから直接聞いた宇宙ビジネスの話はガチだった。本気でやろうとしていたし、それなりの成算はきちんと感じられた。堀江さんはもともと情熱的なひとなのだ。ただ、元来がコミュニケーション障害のオタク野郎だから、それを周りに表現するのが下手なだけなのだ。


そもそも堀江さんはなぜ逮捕されたのだろうか。ライブドアへの強制捜査の報道があったとき、ぼくはやっぱりなと思った。いまにして思えば根拠なんか、とくになかったが、なんか悪いことをやっているに違いないという雰囲気はあった。なぜか。


たんに目立つ人間に対するやっかみ以上に、堀江さんの存在を問題だと思わせた大きな要因は株の時価総額をあげて会社を買収するという手法だろう。日本を代表する大企業のひとつであるフジテレビを買収しようとしたのだ。タブーにふれたどうのこうのいう説もあるが、そんなこと以前に、冷静に考えて、ライブドアというポータルサイトとフジテレビの価値が釣り合うわけがない。それが、時価総額だか、MSCBだがしらないが、よくわからない理屈で歴史ある大企業が簡単に買収されそうになってしまったのは、どう考えても公平ではない。こういうのが許されるのであれば、株価をあげるテクニックがうまいだけの経営者が日本経済をいずれのっとってしまうことが可能だろうし、別に日本の経営者じゃなくても外資が日本経済をのっとることも同様に可能だということだ。だから、日本という社会が、もしくは国家権力が堀江さんを叩きつぶすという判断をするのはすごくまっとうで自然なことだと、ぼくはいまでも思う。歴史なんてそういうものじゃないか。


あ、脇道にそれるが、前編で書いた着ボイスのエピソードのあとに堀江さんには携帯アプリでのマルチメディア放送番組に出演してもらったことがある。そこで視聴者からの電話かなんかの質問で、なぜ、ライブドアはぼくの会社を買収しないのかというのがたまたま出た。そのときに堀江さんは、D社の株価は高すぎるんですよ、と回答していた。高すぎるのはおまえの会社だろ、とぼくは心の中で思ったのを覚えている。当時、インターネット企業は収益力はほどんどないが時価総額は高く、逆に携帯コンテンツの会社は収益力は高いのに時価総額は低いという傾向があった。着メロで儲かっていたぼくの会社はすくなくとも当時のライブドアよりは球団を買収する資金もあれば、はるかにキャッシュフローも生み出していた。


・・・今回は堀江さんについて思っていることをだいたい全部書くことにする。ついでに根に持っていることも全部書く。


まあ、ようするに本業のビジネスでたいして成功しているとも思えない人間が、うまく株価と時価総額をあげて、自分たちの会社が買収されるような世の中なんていやだと思っていた人間が当時たくさんいたということだ。そういう空気の中で堀江さんは東京地検特捜部に逮捕されたのだ。マスコミ+検察=悪で堀江さんは被害者という単純な図式ではない。別にマスメディアの報道も関係無いところでも、社会のかなりの部分が堀江さんを逮捕する流れをつくった共犯者だったのだ。


そして、時価総額を高くして他社を買収するのを国が方針として規制するとしたら、堀江さんの逮捕というのが、その目的を十分に果たしたというのは認めざるをえない。本来、そんなのは金融庁経産省が考えればいいことで、なんで検察がでてくるのかはわからないし、そもそも堀江さんが逮捕されるべき悪いことをなにもしていないとは思うけど、まあ、ネットバブルがはじけて六本木ヒルズの連中は一斉におとなしくなったことは間違いない。しかし、それが本当に日本のためによかったのかは次第に疑問がわいてきたところだ。実際、堀江さんがあのまま暴れていたほうが、日本にとっていい刺激になってもっと経済は活性化してただろうといまは思う。


ここまで読んでくればわかると思うが、ぼくは堀江さんが犯罪をおかしたとはまったく思っていない。完全なえん罪事件だと思っている。時価総額をあげるためのテクニックなんてこれまでもいっぱいあった。連結決算が一般的でなかったころは不採算部門は子会社にして本体は黒字にするとかいうのは一般的におこなわれていたし、最近は規制も強くなりメリットもなくなってきたが、子会社の上場なんていうのもどこでもやっていた手法だ。法律の範囲内で決算書などの数字をよく見せようとするのは別に粉飾でもなんでもない。自社株を持っている会社を買収することにより、結果的に自社株取引で儲かったような形で利益が計上されるというのはトリッキーであり、利益出すための手法としては、まともな会社なら手を出さない大変に行儀のよくないやりかただと思うが、別に意図的でもなくそういうケースは起こりうるわけで、リーガルチェックもして監査法人も承認している以上、現行の法律上ではうまくやったなとしか、ふつうだったらいいようがない。しかし、そういう場合には利益として計上せずに資本を増加させなければならないという指導が監督官庁から半年前にでていたらしい。そして、それをライブドア側も監査法人もしらなかったというのを咎められたのだ。まあ、咎めるのはいいけど、それでいきなり有罪だ、逮捕だ、監査法人もいっしょに共犯で逮捕だなんていうのはどうみても行き過ぎだ。別に架空売り上げとかをたてた訳じゃなく、基本的には解釈の問題なのだ。


人間は国家権力がちょっと間違ったことをするとすぐにそのことを指摘して文句をいうが、あまりにも間違っていることを意図的にしている場合はだまりこむ。自分に被害が及ぶんじゃないかと怖くなるからだ。わかっているひとは堀江さんの有罪判決についてどうみてもおかしいとみんないうが、公の場ではなかなか口にしようとしない。逆に、もし公の場で堀江さんの有罪当然だという会計士や経営者がいたら、彼らの知識なり能力は疑っていいだろう。


最後に人間としての堀江さんの最終的なぼくの評価を書く。彼はぼくが知るかぎりの人間の中でも最高ランクに属する人格者だと、いまは思っている。不器用なだけで彼ほど正直に生きようとしている人間はいない。だいたいイメージ戦略を考えたら、アダルトビデオの仕事なんかやっちゃだめだろ。だれが薦めたのかしらないが、友達はもっと選んだほうがいい。クリスマスキャロルで強欲のスクルージ爺さんでも演じて人生を反省するのがお似合いなのだ。だが、アダルトビデオの仕事までやってしまう、そういう飾らない堀江さんの人間性はひとは惹きつけられるのかもしれないとも思う。


1ヶ月ほど前に会ったとき、堀江さんは毎日壮行会ですよ、とぼやいていた。下手すると1日2回出席しないといけないらしい。これから刑務所にはいるというカタギの人間でこれほど惜しまれ愛される人間がいるだろうか。釈放されてから今日にいたるまで堀江さんは会う人会う人、着実にファンを増やしていった。魅力のある人物なのだ。堀江さんのことをいまだに悪く思っている人はこの事実を認識してほしい。いろんなことをいうひとがいる。だが、みんな堀江さんと会うとファンになる、そういう人間力をもっているのだ。


何年も前、あるネットの放送に堀江さんが出演したことがあった。まだ、釈放されたばかりでネットの空気も堀江さんには冷たかった。それが生放送で堀江さんの話をきいていくと、見る見るうちにコメントの空気が変わっていくのがわかるのだ。生放送というのはそういう力がある。そういう力を発揮させられる人がいる。放送の中でちょっと衝撃的なシーンがあった。沖縄でなくなったライブドアの野口さんの件だ。何人かの視聴者が、執拗に野口さんが死んだのは堀江さんのせいじゃないか、口封じじゃないか、というコメントを繰り返していたのだ。堀江さんは本当に悔しそうに涙ぐみながら答えたのだ。


”野口の死で困っているのはぼくなんです。ぼくの無実を証言できる唯一の人間が野口だったんですよ。”


ネットの向こうの視聴者が凍り付いたのが伝わってきた。堀江さんを発言するたびに批判しつづけてきたコメントまでが黙り込んだ。一呼吸をおいて、こえええ、とか、なんか怖い、とかいうコメントがつぎつぎと流れてきた。あのときに番組の流れが完全に変わったのだ。


…………


ぼくのまわりでも堀江さんの壮行会をやろうよというひとは多かったが、たぶん迷惑だなと思って、言い出すのはやめた。堀江さんにはすでに十分な仲間がいるし、最初に書いたように、ぼくはそれほど親しくはない。せめてもと思いブログに記事を書くことにした。まだ堀江さんを悪く思っているひとたちへの参考になれば幸いだ。


いってらっしゃい。そして無事にもどってくることを祈っています。