自民・谷垣総裁、ニコ生で語る 「ポスト菅」「大連立」「震災」「原発」・・・全文書き起こし

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自民党の谷垣禎一総裁

 自民党の谷垣禎一総裁は2011年8月10日、ニコニコ生放送「自民党・谷垣禎一総裁生登場!~日本復興を語る~」に出演した。この中で谷垣総裁は、”ポスト菅”のひとりして名前が挙がる野田佳彦財務相に対し、「思い付きをポンポン打ち上げる方ではない」と菅直人首相への皮肉を込めながら一定の評価をした。その一方で自民党と民主党の「大連立」については、「小選挙区制で基本的に大連立はあり得ない」と、否定的な考えを示した。また、震災後に自民党が抱えたジレンマや歯がゆさ、原子力政策の今後の考え方などを語った。

 以下、谷垣総裁と番組の司会を務めた政治ジャーナリスト角谷浩一氏のやりとりを全文、書き起こして紹介する。

・[ニコニコ生放送]「自民党・谷垣禎一総裁生登場!~日本復興を語る~」を視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv59481170?po=news&ref=news#0:03

■菅さんがレームダック(死に体、役立たず)化した

角谷浩一氏(以下、角谷): 昨日(2011年8月9日)、民主党そして自民党、公明党の「三党合意」が行われた。今月いっぱい行われる国会の中で、原案である法律があと2つ残っている。これが成立すれば、菅さんは「退陣します」という風なことを示唆していたけれども、ついに今日の国会の委員会の中で、「内閣総理大臣の職を辞する」という言葉が総理大臣から出た。そんな中、今日は自民党総裁の谷垣さんにお越しいただいて、震災から5カ月、その間の政治の動向、そして大きく政治がうねりを見せようとしている真っただ中の今、谷垣さんに伺う。谷垣さん、こんにちは。

自民党・谷垣禎一総裁(以下、谷垣): こんにちは。よろしくお願い致します。

角谷: 谷垣総裁として、この「ニコニコ動画」のスタジオに来ていただいたのは、資料を見ると2009年ということになる。

谷垣: だいぶ前だ。

角谷: 久々の登場ですが、今日はじっくりよろしくお願いします。

谷垣: はい、こちらこそ。

角谷: とにかく震災から、もう5カ月。この間、いろいろなことがあった。ちょうどその直前、それまでも菅内閣はどうもダッチロール(不安定な蛇行運転)が続いていて、政権を運営する能力が無いのではないかという風に厳しく、野党第一党の総裁として谷垣さんは糾弾していた。そして震災が起きた。場合によってもっと協力をしなければならないこともあった。その間、大連立なんていう動きもちょっと与党の中ではあった。

 そんなプロセスを経て、民主党の4K(子ども手当て・高速道路無料化・高校無償化・農家の戸別補償制度)という政策を取り下げないとダメだと言ってみたり、一方で、今回のような合意書が確認ができると、一挙にこれは大連立に進むのではないかと、いろんな見方ができる。そこら辺を、今日は一つずつ整理して、谷垣さんのその時の心情だとか、そして今どういう風にお考えなのか、いろいろ伺っていきたい。

谷垣: はい。

角谷: さて、3月11日から5カ月という話を冒頭に申し上げたが、震災とこれまで、谷垣さんはどんな風にお考え、またお感じになっているか、まずそこから伺う。

谷垣: 最初、震災が起こった時、これは大変な災害だと思った。私はその時、若干考え違いをしていて。つまり、東北地方はものすごい被害を受けた。しかし日本も広いから、都市の集積のある東名阪(東京・名古屋・大阪)とか、九州あるいは中国、四国、ここは無傷なのだから、そこが一生懸命頑張れば、東北のその損失をカバーしていくことも、そう長い時間かからないのではないかと実は思っていた。ところが、ちょっと甘かった。

 まず、首都圏にしてもその電力は、実は東北に負っていたのだということが分かってきた。それで電力不足がどうなるのだ、ということになってきた。原発の事故で風評被害もどんどん広がった。それから、やはり東北の持っている生産ラインと言うか、サプライチェーンと言うか、いろんな物をつくっている、それが止まってしまうと、例えば名古屋のトヨタの工場も操業が止まってしまう、こういうようなことも起きてきた。輸出している物も、日本の(原発事故による)放射性物質で汚染があるのではないか、というような風評被害が起きて、全国に及んでいったということだろうと思う。

 それで私は、今仰ったように3月11日以前は、菅政権はダッチロールをしていたから、なんとか早く追い詰めなければいけないと。その時はあまり言わなかったが、腹の中ではもうじき「王手」ということになるのではないかと思っていた。だが、やはりそういうこと(震災の影響)を見て方針を変え、復旧・復興に協力していくスタンスで臨もうと。

角谷: これは政治と対立ではないと。

谷垣: そうですね。それであの当時(震災が)起こって、すぐ菅さんに、「とにかく国会は1週間休戦だから、行方不明者の救出であるとか、被害地をどうやってバックアップしていくか全力でやってくれ」と。「国会のことを1週間心配はしないで、全力を傾けてくれ」と。それから、われわれも阪神淡路(大震災)の時の経験がある。自民党の議員は真面目で、野党なのに土日まで党本部に出てきて、今必要なのは何だと議論して、結局577項目の提言をつくって官邸に持っていったり。これはずいぶん官邸も使ってくれた。

 それから補正予算。実は財源なんかは、われわれからするとこんな財源でやると言ったってどうかな? と思うことがあったが、そう言っていると、瓦礫の処理とか仮設住宅の建設が進まないから、多少理屈に合わないけれど、補正予算は賛成だとか。あとはやはり、なかなか菅政権がモタモタしているということもあったので、必要だと思ったら、野党からどんどん「議員立法」で出す。だから「復興基本法」みたいなのも基本的に自公の案だし、そういう形でやってきた。

 ただ、そうやっている最中に、どうもこれは全然ダメだなと思った。協力することはしなければならないけれど、民主党は衆議院で300議席以上持っているから、ここが団結すれば相当なことができるはずなのに、要するに菅さんにそれを掌握していく力が無いというか、バラバラでなかなか物事が処理できない。そういうことがあったので、6月2日には、うまくいかなかったが、(内閣)不信任案を出した。そこからますます民主党の亀裂が深まってきて、なんと言うのか・・・菅さんがレームダック(死に体、役立たず)化してしまった。そうなるとますます物事が進まないというのが、最近までの状況だったと思う。ただ、われわれも不信任案というカードを6月2日に使ってしまったものだから、さて次の手をどうしていくかと模索をしてきた日々と、こんな感じだ。

■菅首相の”政治主導”にピントのずれ

政治ジャーナリスト角谷浩一氏と対談した自民党の谷垣禎一総裁

角谷: この先もいろいろ伺っていこうと思うが、(視聴者の)皆さんからもメールの募集をして、谷垣さんに後半でぶつけていきたいと思う。テーマは「自民党・谷垣総裁に言いたいこと、聞きたいこと」。谷垣総裁に直接質問できるチャンス。メールは、番組の画面下にある専用フォームから投稿することができる。そちらから私の手元に届いて、それを谷垣さんに私がぶつけるという形にしようと思っているから、ぜひいろいろな質問や、また話題、議題、ここのやり取りの中で出てきたことで、もう少しそこを詳しくということもあれば、それも頂ければと思っている。

 さて話を続けるが、この震災をどういう風に乗り越えるか。民主党は政権をとって一生懸命やろうとしているけれども、まず経験値がない。それから閣僚の経験や、官僚との付き合い方があまり上手ではないというのが、だんだん分かってきた。自民党から見て、歯がゆいものというのは、随分あったと思う。その間にも、例えば「民主党政権が」というよりは「官邸が」ということかもしれないが、さまざまな情報を隠していた、または手が回っていなかったと、こういうことが分かってきた。ある意味では、震災の情報という問題での「新たな災害」が発生している可能性があったのではないかと、そういう危惧が震災直後から出始めて、だんだん分かってきた。途中で内閣参与が抗議の辞任をするとか(※小佐古敏荘・東大大学院教授が、原発事故への政府の対応を「場当たり的」と批判し辞任)、いろいろなことがあった。そういった状況を見ていて、(不信任案決議の)6月2日の前まで、その間で谷垣さんが感じたことというのはどんなものがあるか。

谷垣: いま仰ったこと、大体私もそう思ってきたけれども、やはり政治というのは1人ではできない。総理が判断したとしても、それが手足と言ったら失礼だが、ほかの閣僚にも共有される。それから実際に動くのは官僚機構だから、そういう役所やなんかが、総理の意を体して動けるようにしていかなければいけない。やはり菅さんは、どこかその政治主導という考え方にピントがずれているところがあると思う。結局、いろんな自分の仲間を参与にされたりして、いろんな方がいろんなことを言うけれども、誰が権限を持って指示し、それに従って行動したら責任を持ってくれるのか、恐らく官僚機構から見てもよく分からなかったのではないか。

角谷: 逆に言えば、官僚や政治家は自分がどういう役職で、どういう責任をもって発言をするかという責任が伴う。

谷垣: そうだ。

角谷: 1年生議員、与党であろうが野党であろうが、それから官僚であっても、官邸の中で会議などで物を進言するには、その責任とバックボーンが必要になる。ところがその、たくさんいる内閣参与の皆さんは、それぞれの専門家なのかもしれないが、ある人は韓国で日本政府の講演に行って、「実は福島第1原発に水を注入せよというのは、米軍からの強い依頼があったからだ」と説明をして、帰ってきたら「勘違いだった」という風な答えになった。つまり、内閣参与たちがいろいろなアドバイスを、総理や官邸のスタッフにするのは結構だけれど、そこに責任や実態が伴っていないと、「言いっ放し」「やりっ放し」になって、それを鵜呑みにする官邸が大きな間違いをする可能性がある。そういう危惧は、官僚や野党の方からも声が出た。

谷垣: それは仰る通り。その根本は菅さんが、政治主導というのは時には法を乗り越えてもいいと考えていたと思う。確かにこれだけの大災害が起きた緊急事態、法も十分整備されていない分野、そういう危機管理の分野では、法を飛び越えてやらなければならないこともないわけではないと思う。しかし、その場合には総理が責任を持ってただちにそれを法体系にして国会に出していく。事後承認のような形になっても、そうやらなければいけないと思う。ところが菅さんは本来、法の上で自分の権限も責任も無いことを飛び越えてやることがしばしばあった。

 例えば、浜岡の原発を止めるなんていうのも、総理大臣がいかなる権限を持ってやったのか。「それはいいことだった」という方もいるけれど、一事が万事そういう風に広がっていくことになると、さっきの話のように、誰が責任を持ってやっているのか分からない。責任者が誰か分からなくなる。権限と責任をごちゃごちゃにして、法の支配というものを軽視する体質が広がってしまう。そのことが物事が動いていかない原因の一つだと思う。

■「小選挙区制で大連立は通常あり得ない」

自民党の谷垣禎一総裁

角谷: それでなくとも、民主党は経験不足の中で(議員の)数はいるけど、その内、小沢(一郎)さんのグループや鳩山(由紀夫)さんのグループは、ほとんど震災復興にも関与できない状態になっている。つまり、半分くらいのスタッフで、民主党も数はいるとは言ってもそれだけしかいない。もちろんいろんな経験値は少ない。となると、自民党としてはこの歯がゆさ、何とかしなければいけない。つまり、「手を突っ込む」という言葉は正しいかどうか分からないが、「協力したい」という気持ちと、「こんな奴らじゃ任せておけない。どけ、俺たちが座る」という思いとが、多分あったと思うが。

谷垣: まさに今仰った、その二つ。どちらにウエイトを置くかは、自民党の中でもいろいろあると思う。そのジレンマだったと言っていいと思う。

角谷: ここら辺は一番分かりにくいなと、僕なんかは当時思った。谷垣総裁の下、谷垣総裁の指示なのか、それとも慮ってなのか、さまざまな自民党の幹部の人たちが民主党といろいろ水面下で協議を始めた。民主党はもちろん、自民党という野党第一党と協議を始めるというのは、討議の決定があるわけでもない、大変水面下の議論だ。ところが、それがどんどん表に出て、あたかも「大連立をしないともうしのげない」という雰囲気になっていった。ところが最終的には大連立はうまくいかなかった。

 そこのいきさつは、大島(理森・自民党)副総裁は一生懸命やられていた。かたや官房副長官であり、同時に民主党副代表である仙石(由人)さんがカウンターパートナーでやっていたという時期は、どんどん公になっていった。それを谷垣さんは、どんな風にご覧になっていたか。

谷垣: 初めから大連立ありきの話ではないのだと思う。要するに、大島さんと仙石さんの話も、こういう危機を迎えて、どういう協力関係を作ればいいかという瀬踏みをいろいろやっていたと思う。それを大連立だととった方もいるかもしれない。しかし、いろんな瀬踏みであったり、協力関係を模索するというのは、いろんなルートがあって私は良いと思う。

 ただ、大連立ということになると、私は「大連立は全部ない」と否定するつもりはないけれど、基本はやっぱり、今の小選挙区体制の下で、大連立というのは通常はあり得ない形態だと思う。要するにわれわれにしても、全部自民党の議員はほとんどの選挙区で民主党議員と対峙している。そこで、どう民主党と自民党が違うのか、どこが問題だと双方は思っているのかということを基本にして選挙も行われ、政治の図式ができていく。自民党と民主党が一緒になってしまうと、そういう構図そのものを否定してしまうことになるし、考え方が違うところがたくさんあるわけだ。

 「この瓦礫の処理を早く進めろ」なんていうのは、それは違うはずがない。しかし「普天間基地をどうしていくのか」という話になると、今は形の上ではあまり違わないことを言っているように見えるが、手法や何かも大きく違っているわけだ。そういうことを考えると、大連立と言ったって、全部分かった、同じ考えだねということになればともかく、そうはなかなかいかないと思う。だから私は、基本は閣外にいる者も復旧や復興に関しては、できる限り協力していく。それは菅さんであろうとなかろうと、基本はそういうところにあるのではないかと思う。

角谷: ちょうどあの頃は、民主党の菅さんに近い若い議員たちの口からは、テレビなどのインタビューでも、「この際、谷垣さんを総理大臣に据えて一緒にやるべきだ」というのが、公然と出てきた。一方、自民党の中でも「あれは大島さんが一生懸命やっているので、大島さんがやっていることを自民党がやっていることと思われたら困る」というような発言が出てきたり。とにかく取材していても、自民党の誰が中心でやっているのか、民主党は一体誰が中心でやっているのか、責任の所在はどこなのか、ちょっと国民にも分かりにくくなった時期があるのではないかと思う。

谷垣: まあ、そういう風にご覧になったかもしれないが、私はいろんな瀬踏み、協力関係のあり方を模索している段階だと思う。それから菅さんが私に電話されて、私に「内閣に入れ」と要請をされたこともあった。それは要するに、野党第1党の党首である私に「入れ」というのは、まさか私をあの鳥取の参議院議員(浜田和幸)と同じように「一本釣り」するおつもりではなかったと思うから、要するに「大連立しよう」という話だと思うが。

 そういう話であるとすると、普通やっぱりもう少し「政策は本当に一致ができるのか」とか、水面下の話が当然あるはず。つまり、どういう協力関係をするにしても、いきなり平場ということは滅多にないので、いろんな模索は必要だと思う。ただ、菅さんの大連立の申し出は、あまりそういうものが無いことだったので、私もびっくりした。

角谷: 頭ごなしというより、直接電話というのはちょっと珍しい。同時に、その電話をかける前後も、与謝野(馨)さんを――当時は自民党の比例代表で当選していたけれども、その後「たちあがれ日本」にいた与謝野さんを、入閣させるという動きもあった。そういう意味では、菅さんの荒っぽい手法がずいぶん続いていた時期で、次は谷垣さんを「一本釣り」かと。それも電話1本で片付く話かということになると、これは口頭同士、それからまさに2大政党を作っていこうとする小選挙区制の理念の中で、これをやったらすべてのルール、もっと言うと選挙制度の秩序も崩壊するのかなと思う。

谷垣: それは仰る通りだと思う。私もそんな風に思っていた。

角谷: ところが、与謝野さんは官邸に呼ばれたりして、それから、自民党にいた参議院の方も唐突に「政務官にならないか」と、こういう風になる。そこら辺の荒っぽさというのは、少なくとも瀬踏みとかいろいろな根回しとかというものが、何のために? と。政権維持のためなのか、それとも復興のためなのか、ちょっと疑問が出始めた頃か。

■谷垣さんは「ガードが固い」と民主党議員

自民党の谷垣禎一総裁

谷垣: ただ、もう少し広く見ると、結局日本はいま衆議院で多数を持っている勢力が参議院では多数を持っていない、いわゆる「ねじれ」という現象がある。やっぱりそこをどう乗り越えていくかというのは、与野党共通の課題。だから、そのためにどうしていくかというのを、ネゴシエーション(交渉)というか、いろんなルートを通じて乗り越え方を探っていくというのは、私は必ずいると思う。

 そのとき多分いろんな政党があるし、いろんなルートがあるのはやむを得ないこと。ただ、もし角谷さんが「どこに司令塔があるのか分からない」という風にお思いになったとすれば、それは全体の方向発信がうまくいってなかったのかも知れない。もっと言えば、そういうかなり水面下でやっている話が無造作に表に出てくるというのは、どういうことだろうなと私なんかは思うことがあった。

角谷: そこは実は自民党は少なくても、誰がこの責任者なのかというのはよく分かるエピソード。民主党の、ことに官邸にいる議員たちから聞くと、いろんなチャンネルで、ありとあらゆるチャンネルで谷垣さんに「会いたい」と言ったが、とうとう会えないと。とにかく菅さんも「会いたい」と。菅さんに会う前に、もう少し下準備が必要で、もっと下の人たち、周辺の人たちが「谷垣さんと会いたい」と、こういう風にやっても「そう簡単には会ってくれない」と(言っている)。

谷垣: 「ガードが固い」と(笑)。

角谷: 「ガードが固い」と。そこが逆に言うと、谷垣さんが出てくるというのはどういう意味なのか、ということを一生懸命シグナルとして出したのだろうなという風に僕は感じた。あの頃はずいぶん、いろんな手を使って「会いたい」というのはあったのではないか。

谷垣: それはあった。あったが要するに、ここから先あまり言うのは良いかどうか分からないが、さっき「荒っぽい」と仰ったが、やっぱりどう信頼関係を作っていくのかということに、菅さんはもう少し意を用いられる(心を配られる)必要があったと思う。

角谷: そういう意味では、与党と野党第一党は、ある意味では切磋琢磨も必要だし、それからもちろん対立しなければいけない。震災後、党首討論があったときに谷垣さん、そして公明党の山口(那津男代表)さんが、それぞれ菅さんに対し「とにかくあなたさえ辞めれば、物事がいろいろ動くのだ」ということをお2人とも、ものすごく強調された。あの時の谷垣さんの心情というのは、いろいろな震災対応の歯がゆさもいろいろあったのだろうが、「谷垣節」の迫力はやっぱりすごかった。いま思い出すと、あの時はどういう思いだったのか。

谷垣: 結局、立法府、国会の中で例えば法案とか予算は(与野党で)協力しようとして、いろいろ実際にやっている。ところが、そういう予算を作っても、法律を作っても、それを実行していくのは行政府。つまりは内閣。それがちっとも動いていない・・・。動いていないわけではないだろうが、主観的には動いているのかもしれないが、実際には効率良く動いていないのではないか。それは先ほどの、菅さんの手法あるいは民主党の手法というべきかも知れないが。権限と責任がごっちゃになっているという表現で申し上げたが、結局のところ党内と内閣、行政府を掌握できていないのではないか。それでは「協力する」と言っても、詮無いというような気持ちだった。

角谷: そういう意味では歯がゆさだけではなくて、日々進行しているが(震災で)避難されている方、それから仮設住宅の目処がまったく立たないで途方に暮れている人、それ以外にも二重ローンだとかいろんな問題で「今ここにあるものを何とか取り除いてほしい」という声が、なかなか永田町に伝わってこない。いや、伝わっているが、それを解決できないと。野党だから解決できない、菅さんがいるから解決できない、いろんな理屈はあるかも知れないが、これはなんとかしないと。困っている人たちはたくさんいる。ここはやっぱり自民党が、「経験値」とそれから「私たちだったらこうやる」という手法は、多分いろいろな自民党の議員もスタッフも、いろいろな思いがあったと思うのだが。

谷垣: それは、先ほど「577項目(の提言)」と申し上げた。そういう提言もしたが、結局のところ、本当に必要だと思うことは議員立法でどんどん出していかなかればダメだ。参議院で出すと、野党の方が多数を占めているので、野党の合意が得られれば法律が通る。そうすると衆議院にいって、民主党もそれが本当に必要なものであれば「NO」とは言えない。そういうようなことをやっていかないとしょうがないと思う。

 初めはちょっとそこまで気が付かなかったが、そういう手法をかなり使うようにして、先ほど申し上げた復興基本法であるとか、あるいは瓦礫の処理の法案ももうじき通る(※8月11日、衆議院本会議で可決)が、そういうようなものを用意して、できるだけ動くようにしようとしたつもりだ。しかし、いずれにせよ先ほど行政府が動いていないと言ったが、これだけの大きな災害だから、それは誰がやっても百点満点ということはあり得ない。

角谷: これは当初から谷垣さんは、そう仰っている。

谷垣: そう思うが、ただやっぱりもう少し、そういう組織全体を賢く使う方法はあると思う。

■震災後、自民党が抱えたジレンマ

自民党の谷垣禎一総裁

角谷: いろいろな経緯があって、6月に「内閣不信任案」提出ということで、前夜は民主党の中もどうも「それに同調する動きがあるのではないか」と、ちょっと騒然としたが、最終的にその不信任は通らなかった。通らなかったことで、野党が出した不信任だが、菅さんを守ったことで今度は民主党の中がますますおかしくなって、政権だけではなくて民主党の中がだいぶダッチロール化していって。もうあとは菅さんがいつ辞めるのかということだけで議論が(行われている)。

 その後、補正(予算)がどんどん決まっていき、ちょうど復興大臣(松本龍)の任命が決まった。ところが今度は復興大臣がこれまた迷走されるということで、せっかく道筋ができそうだというところでもなかなかうまくいかない。不信任はうまくいかなかったけど、やっぱり菅内閣とは、この段階でもう一回対峙する関係に、自民党は行く。

谷垣: まあ、そうなる。ただ、われわれとしては使える手段は不信任案だが、それはうまくいかなかった。あのとき、(菅首相が)辞めるかのごとき発言をされたので、(自民)党の中には「もうそういうのとは一切協力ができない」という意見も強かった。しかし、なかなかそうはいかない。やっぱり被災地のことを考えれば協力すべきものは協力しなければ。対峙もするが、そこの使い分けが実はなかなか難しいところだ。

角谷: 相当難しいのではないか。そういう意味ではもちろん、不信任が否決されて以降は、自民党は今度は政策でまったく合わないということで、民主党の「バラマキ政策4K(子ども手当て、高速道路の無料化、高校無償化、農家の戸別補償)」というのを、ものすごく集中的に批判し始めた。そして、二次補正(予算)だとかさまざまな、菅さんが(退陣の)条件にしたかどうかは別としても、上げなければいけない法律というのをどういう風に扱うのかということで、厳しい対応に変わってきた。それから、菅さんの「政治と金のスキャンダル」なども出始めて、かなり追及の仕方が厳しくなっていく。そういう意味ではいろいろな模索をしたが、今はやっぱりこの内閣をなんとか葬る、こういうことも考えた。

 でも一方、われわれがもろに聞くと「いや、とにかく菅さんにやってもらおう」と。「菅さんにやってもらえば自然と、もう民主党は弱っていく」と。「それで選挙になれば、これは自動的に私たちに政権が返ってくる」と。だから菅さんにやっていてもらったほうが良いのだと。つまり、政権を維持させてあげたほうが、民主党から自民党に政権が返ってくると、こういう戦略に出たのか。ちょっと分かりにくいところがあったが、どんな風にお考えになったのか。

谷垣: いや、いま仰ったような、「菅さんでやってもらって、そうするとますます混迷していくだろう」「民主党の支持率は落ちるだろう」と、それがわれわれにとって良いのだという議論は・・・そう思っていた人もいるかもしれないが、要するに、どっちみちそう長くなく、辞めざるを得ないだろうと菅さんのことをみんな思っているわけだ。

 だから外交関係も、日米首脳会談が先送りになったが、本当に(会談を)もてるのかもてないのかということもある。それから、やっぱり復興に必要な財源はどうするのかと。復興債でやるということは大体みんなの一致をみているが、では今みたいな国債や何かに対する信任が各国揺らいでいる時に、復興債の償還、つまり復興債の将来返す時の財源をどうやって調達していくのか。これは結局、最後は増税の話になる。ことが増税となれば、やっぱりトップリーダーが「これで行こう!」と決断して、そしてそのトップリーダーを支えて頑張ろうと思っている人たちは「ああ、トップリーダーはこれでやろうとしてるんだ」と言わなければ決まらない。

 だから民主党では復興財源が結局決まらなかった、菅さんが辞めると思っていたから。ということは、これからの復興の裏付けとなる第三次補正(予算)は、財源を調達できない、組めない、ということになる。それからさらに来年度予算もできない。それでいいのか。そうするとやっぱり菅さんに早く辞めてもらうためにどうしたらいいのか。これは本来われわれが不信任案(という手法をすでに)を使っちゃった訳だから、それで不信任案に協力してくれるかと思ったら、途中で腰砕けになってしまった。だって信任しちゃったわけだから。まずは民主党の中でそう思っていた人たちがたくさんいたわけだから、民主党の中で努力していただかなければならないわけだが。われわれもフラストレーションがずいぶん溜まった。だが、われわれが永田町の内部でフラストレーションを感じているだけじゃなく、国民のフラストレーションも相当高まっていたと思う。

角谷: それはそうだろう。それから被災地の皆さんもそうだろう。

谷垣: そうだろう。だからそうなると「いやあ、俺たちカード(不信任案)使っちゃったから基本的には民主党の問題なんだよ」と。

角谷: 実際はそうだが。

谷垣: そればかりでは「野党はどうすんだよ」という非難が、やっぱりもうそろそろ来るころではないかと私は思っていた。

■民主党は「マニフェストの基本構造が間違っていたと認めた」

角谷浩一氏

角谷: そうこうしているうち、6月2日に民主党の代議士会で辞めるかのような発言をした菅さん。その後「辞めるとは一言も言ってない」とちょっとまた否定的で、それを「延命」という言葉で言われたこともあった。そこからどんどん状況が変わって、そして今週になって一挙に物事が動き始めた。やっと昨日今日の話になる。

 ここで、この「確認書」というものが出た。これは民主党幹事長、自民党幹事長、公明党幹事長(によるもの)ということで、この3党の幹事長が「確認する」と。民主党の役員会一任ということになっているが、(民主党の中には)「初めて聞いた」という議員の方が多くて、これまた党内調整をどういう風にするのか、まだまだこれから議論するのかも知れないが、いずれにせよ確認した。

 政策としては公債特例法を上げるということもあって、一応、与野党3党の政策の道筋ができた。ここではだいたい同じことができることになりそうですよ、というところまでたどり着いた。これは、それによって菅さんが辞めてくれる条件が整ったんだという、岡田(克也)幹事長はマニフェストも下げる、何もかも下げる。それでともかく自民党と公明党の信頼を勝ちとって、これをまとめ上げると、ここにエネルギーを注いだ。だから民主党内は国民と約束したマニフェストも旗を下ろしたんじゃないかという風なことで、党内はまだまだ不満があるだろう。でも、ここまで確認がされた。

 ということは、これからは法律が上がる。菅さんがそれで今日も明快な「自分はこれがあがったら退陣をします」ということも、ちゃんと口に出した。ここでだいたい今月いっぱいで菅内閣の終焉と、民主党は次の代表選に進むという道筋が見えたかにみえる。ここは民主党がお願いしてきた「何とか(法案を)通したいんです」ということと同時に、自民党、公明党はこれをどういうふうに受け入れたり、飲み込んだり。「ともかく4Kは絶対ダメだ。全部引っ込めてくれ。バラマキは止めろ!」と自民党は言ってたわけだから、ここらへんの経緯を少し教えてほしい。

谷垣: 公債特例法というのは、要するに「税収が少ないから、赤字国債を発行する」ということを政府に認めるという法案。われわれは、そういうことはいま現実に税収が少ないからやらざるを得ない(と考えている)。この法案自体が不必要だと思っているわけではない。ところが「無駄を省いていくらでも財源を作れる」と言っていた、子ども手当をはじめ4K、それが捻出できなかった。結局「借金をしてそれをやるんです」という話になると、これをすぐ「はい。そうですか」と通すわけにはいかない。つまりマニフェストの一番看板政策の財源は、みんな金を借りてきてやるという話じゃない。そこをはっきり「どう総括するんですか。それがないとダメですよ」とわれわれは言っていた。

 ただ反面、今ヨーロッパもポルトガルやギリシャ、アイルランド、いろいろあって、大変ユーロ自体が非常に不安定になっている。それからアメリカのドルも非常に揺れて、国債の信任も今までアメリカの国債は一番信用度の高いものだとされていたが、それを格付け会社が1ランク落とすと。そのきっかけになったのは、アメリカの国債の発行額を上げる権限を大統領に与えるかどうかということから不安が始まった。ひょっとしたらアメリカがそれができなくて、もうこれ以上借金ができなくって、お手上げになっちゃうかもしれない。そうなったら大変だということで、非常に不安が高まってきて。

角谷: (それが)8月の頭だった。

谷垣: そのことがもちろんニューヨークの株価も下げたが、われわれの東京市場や何かの株価にも影響してきた。もちろんすごい円高になってしまった。その今のアメリカの大統領に借金の権限を与えるかどうかというのは、日本ではこの公債特例法で毎年法律を出して、「よし、それなら政府にそこまで借金するのは認める」という法律があってやっている。これでわれわれが「バラマキを借金でするのは認めない」というのは、確かに十分理由のあることだと思うが、じゃあ日本はどうするんだと。

 アメリカと同じに、結局のところ借金はもうできないことになって、いろんなことが支払いもできないようなことになったらどうなんだという不安感がある。そのうちいつまでも引きずってくると、(そういう不安が)起きるかもしれない。そうするとどこかで、出来のいい予算ではないが、こういう不安のときに政府が対応するのは、予算をうまく執行して、信任をきちっと作っていくことだ。その手足を今までは「借金はダメだ」とこう言ってたが、どこかでそれはいつまでもそれではいかないなという気持ちを、この数日そういう気持ちを私は持っていた。だからある意味ではタイミングで、ここでやらなきゃいけないというのは一つあった。

角谷: それはやっぱり国際マーケットが状況が厳しくなってきたと。

谷垣: 厳しくなってきて、国際マーケットも日本の株価の市場も非常に厳しくなってると。そうするとやっぱりマーケットに向かって「安心しろ」というサインを、政治は出さなきゃいけないというのが一つあった。それはいろいろ党内でも議論があって、「それは与党が考えるべきことであって、野党が考えるのはそれは『与党ボケ』というもんだ」という批判もあったが。しかしそうも言ってられないんじゃないかというのが一つ。

 それからもう一つは、結局子ども手当をもう撤回して、自民党時代にあった児童手当を基本拡充する。「来年からそうしますよ」と。それから高速道路無料化と言ってたけど、来年度には無料化する予算なんて計上しない。農家の個別所得保障も、あるいは高等学校の無償化も、要するに政策的な効率をよく見て、見直していこうということを彼らが確認書の中で認めた。ということは彼らが天下を取ったマニフェストの基本構造が間違っていたということを彼らが認めたことになる。だから問題点の整理は、本来は解散して「あの時の公約は間違っておりました」と言ってもう一回国民に信を問い直すべき問題だと思う。だが、いま被災地を見るとそう解散解散とばかり、原理主義ばかりも言えない。こういう文書で認めたということで、一つ前に進める時期かなと。迷走したように見えるかも知れないが、その辺のいろいろなやりとりをしていたということだ。

角谷: もちろん、民主党と対峙する野党としてはこういう順番でいくしかないと。

谷垣: はい。

角谷: それからある意味では、法律に賛成するかどうかが一つの永田町の、政界の中の駆け引きであることは分かった。

谷垣: はい。

角谷: だが、それもこれも逆に言うと、どんどん協力しないと被災地の人たちにとっては(震災から)5カ月たってもまだ不自由を余儀なくされている方がたくさんいる。瓦礫はいまだに片付かないということになれば、二次補正(予算)もそうだったが、そのほかのこともどんどんやったほうが・・・。ことに特例法(公債特例法)は少し引っ張りすぎたんじゃないかと、こういう議論もある。

谷垣: 本来から言えば政府は予算とこれ(公債特例法)はほとんど一体のもの。予算が通った後、ただちに体を張ってでも強行採決であろうと政府に責任があればやるべきもの。ところが、彼らはそれをやってこなかった。

角谷: 実は今年の1月に出そうとして、どうもフニャフニャっとなって、引っ込めちゃった。「まぁゆっくり通せばいいや」なんて思ってたら震災が起こった。

谷垣: それで要するに、予算を参議院に送っても、この法案だけは衆議院でいつまでも抱えていた。つまり彼らの政権与党としての責任感の希薄さが、その根本にあるのだと私は思う。そこは当然、与党であればここのところはもっと強く迫ってくるだろうと(考えていた)。さっき言ったように4K(子ども手当て・高速道路無料化・高校無償化・農家の戸別補償)の批判をしていたから、賛成できたかどうかは、これはなかなかしにくかった。だけど、あの震災の直後の非常に危機なときに、全部反発できたかどうか。われわれも彼らが強く攻めてくれば、かなりその選択は苦慮したと思います。だけど、そこを決断してやってくるということが、彼らにはなかったですね。これはやっぱり、政権としての責任感の問題だと私は思う。

■自民党の復興政策が見えないのは野党だから?

自民党の谷垣禎一総裁

角谷: 皆さんから来たメールに移る。福岡の女性から。「以前、党首討論で菅さんが谷垣さんのことを間違えて”谷垣総理”と言ったとき、周りは笑ってどよめいた雰囲気になったことをよそに、谷垣さんはくすりとも笑わず、引き締まった顔をされていたのが印象的でした。あの時はどういったお気持ちだったのか」

谷垣: 菅さんもちょっとトチられたのだろうけれど。あの時は、それをユーモアと感ずる気分にはなれなかった。

角谷: 確かにそうかもしれない。ニヤニヤするのもまたちょっと難しかったか。

谷垣: そうですね。

角谷: 東京の男性から。「自民党の復興政策が見えないのですが、作っているのでしょうか。作っているならば、民主党批判よりも自民党の復興政策を主張して下さい」。やっぱり与党だと出てくるけども、野党からは出てこない、という風に思われている方がいる。

谷垣: これは実はわれわれも今――、第三次(補正予算)が本格的な復興予算になると思う。だいぶ前に復興予算のわれわれ(自民党)の考え方というのを出して、大体17兆円ぐらいの規模でやるべきではないかということで打ち出した。かなり体系的に出している。復興・復旧ということになると、そんなに与野党に大きな考え方の差があるわけではない。たださっき申し上げたように、一次補正、二次補正と財源を何に求めるか。一次補正は本来、年金に入れる税金を流用して復興財源に充てると。それはちょっとおかしいのではないかとか、いろんなことはある。そういうところは違うが、大きな方向はそれほど違うわけではない。

 それから先ほども申し上げたが、復興基本法、復興庁というような独立の官庁を作って、縦割りの弊害を克服してやっていけというような法律は、われわれの案を結局・・・。

角谷: 実質、受け入れた感じになった。

谷垣: それから、これはまだ民主党が受け入れるかどうかいろいろ折衝中だが、瓦礫の処理は大体まとまって、われわれの案を中心に、国の責任を強化する方向で処理をやろうと。

 被災地は例えば、自分のお店を作るのに借金をして店舗を新しくしたけど、全部津波でやられてしまった。もう一回その店舗を、皆がもう一回再興しようという気持ちになってくれないと進まないわけだが、しかし「あれだけ借金重ねて、また借金か」と、「とても俺はもう無理だ」と、あきらめている人もたくさんいる。そういう言わば、二重に債務を重ねなければならない人たちに対して、債務の整理とか、あるいはもう少しやり易い方法はないかとか、そういう法案も出したり、いろんなことをやっている。

 なかなか野党だと(政策・法案が)通るまでは、それが(マスコミに)取り上げていただけない。もう少しわれわれの広報活動も工夫しなければならないが、体系的にやっているつもりだ。

角谷: 民主党が野党時代も、「マスコミが取り上げてくれないからだ」と泣き言をずいぶん聞くことがあったが、「魅力があれば興味持ちますよ」という風に僕も答えたことがあるような気がする。そういう意味では多分、同じ苦労を自民党もされているのかもしれない。けれど、逆にこうやって谷垣さんが出てきてくれて、いろいろな話をしてくれるというのも、こういう質問に答えるチャンスではないかなと思う。

■原発政策に反省も、「ただちに原発を廃棄しろ」とはならない

自民党の谷垣禎一総裁

角谷: 東京の男性から。「原子力政策は賛成ですか、反対ですか。福島第一(原子力発電所)の対応について民主党を批判する自民党の議員の方を多く拝見しますが、そもそも特別会計で原子力政策を推進したのは自民党だと思います。批判する前に福島第一の施設の古さ、危険性を、与党時代に何もしなかったことを反省していただきたいと感じます。そして産業に大切な電力エネルギーをどう補っていくのか考えをお聞かせ下さい」。これもとても大切なテーマ。

谷垣: 今ご指摘のように、われわれも原子力発電の政策を推進してきた。確かに今仰ったように、こういう大きな事故が起きたこと、われわれの政権時代にやっていた政策はどこが問題だったのか、これは厳しく反省をしなければいけないと思う。ただ、われわれが今の政権を批判しているのは結局、事故というか津波が起こった後の対応。それからもう一つは、さっき仰ったように本当に事実を正直に表に出しているのか、何か都合よく隠蔽しているのではないかと、そういう点を批判していて、これは野党として当然やらなければならないことだと思う。

 それで原子力政策全体としては、やはり今日なんか見ても、東北電力管内もこれだけ暑くなっているとギリギリ。もうちょっといくと計画停電というか、大規模な停電をしなければならないような事態になっている。じゃあそれをどうやって補っていくか、と言っても、福島の第一原発、海水を入れたものは廃炉にせざるを得ない状況。そういう状況を考えると、そして今の国民心理を考えると、「新しいのをどんどん作ってやるよ」という訳にはいかない。

 そうすると、そのギャップをどう埋めていくのか。一つは節電を計画的にやるということがあるが、やっぱり再生エネルギー、もちろんLNG(液化天然ガス)の火力もあるが、太陽光であるとか、あるいは風力であるとか、地熱というのもあると思う。そういうことをどれだけできるか、そういう方向に進んでいく、いろんな政策をきちんとやらなければいけないと思う。

角谷: 原発以外のエネルギーへの目配せをもっとする可能性は広がると。

谷垣: それはやらなければならない。ただ、それだけでどこまで行けるか。根本的な技術革新が起これば、まだいろんなことが想定されるが、日本は最近まで30%くらい原子力発電に頼っていたわけだ。いろんな再生エネルギーや何かをやっても、「じゃあ20%まで持っていけるか」と言ったら、どのくらい時間をかけるかによるが、当面とてもそんなところまではいかない。

 そうすると、そのギャップを埋めるには「ただちに原発を廃棄しろ」という話にはならないだろうと思う。やはり原発の安全性をきちんと確かめながら継続していく。どれだけの時間軸をとるかという問題だと思う。そして、そうやって技術革新や何かの中できちんとできるのであれば、そちらに全面的に頼るということも有り得るかもしれない。

角谷: そうすると谷垣さん、「新しいものをこれから建設しますよ」、また「立地したいですよ」という風なことは、ちょっと難しいだろうと。

谷垣: 今そういうことを考えてもちょっと無理だ。

角谷: それは無理だろうと。ただ、今あるもの、それから今までも安全と言っていたし、マニュアルが二重三重にあると言っていたけど、それが実行できなかった。それから「地震がある国」だということ、「津波も受ける可能性がある国」だということを、過小評価していた。想定外というより、過小評価したり、安全神話を作り過ぎたことに問題があるのではないか。

 となると、今ある物をなお安全のマニュアルを強化したり、それから周辺の住民の人たちにも危険やリスクがあるということをちゃんと説明する。今まで「安全」としか言ってこなかったわけだから。そういう風な形を変えることのリスクがある。それからコストのかかるエネルギーであるということを、国民に共有してもらえる条件が、ある意味では安全の強化ということになる、ということですかね。

谷垣: まあ、そういうことだと思う。だからそういう努力を、安全の強化をしながら、そういう共通の理解を作っていくということではないだろうか。

角谷: あまり古いものはもう廃炉にするという判断をするとか、そういう政策決定はしていくべきだという考えの中にあるということ・・・。

谷垣: それはやはり、やっていかなければいけない。安全性の確認、どこまでが安全なのかということはきちっと確認して、古くていろんな問題点を抱えているものは廃炉にしていくということは必要だろう。

角谷: 今その原子力安全委員会・保安院を、経産省から分離することが大事ではないかという議論を菅さんはしている。ところが、これはある意味では、自民党時代の省庁再編の中でまとめていったという経緯もあると考えると、そういう風な省庁再編の効率性を逆に癒着に結び付けてしまった、ということは反省の中にあるか。

谷垣: 癒着に結びつけた・・・つまりあの当時の考え方は、こういうことだった。どの制度もプラスの面、マイナスの面があると思うが、要するに推進するところと規制するところが一緒なのはおかしいという議論に今なっているわけだ。当時の議論は、推進と規制が全く別のところでやると、規制は規制ということだけを考えてやってしまう。そうすると、その推進していくのと、全く方向が違ったことになってしまうのではないかと。

 だけど、今仰るような「癒着」ということも考えられるから、だから一つは保安院というものを経産省の中に設けて、エネ庁(資源エネルギー庁)と保安院という両方でやっていくと。そして、それだけではうまくいかないかもしれないから、安全委員会(原子力安全委員会)というのを内閣府の中に作って、チェックは二重にやるという考え方だったと思う。

 今度見ていると、では安全委員会がどこまでそういうリーダーシップを発揮したかというと、それは使い方の問題もあるかもしれないが少し、そこがうまく思ったようには機能していないなと。それから今指摘されているような、同じ役所にあるから癒着しているのではないかと。

 だから今の議論は、やっぱり保安院とエネ庁は別の組織にしろという議論になって、多分現状ではそういう方向だと思う。それで安全委員会と保安院はむしろ合体させてしまって、もっとパワーのある所にしていくと。方向は多分そういうことだろうと思う、それは。

角谷: 行政機構の整理をすることによって、より安全が二重、三重にチェックされたり強化されるならば、それを優先すべきだという考え方では今、細野(豪志・原発担当)大臣がいろいろ施案を持っている。

谷垣: そうですね。まだ施案がどうなのか見なければならないので、最終的な判断ではないけれども。やはり何か組織をいじるということも、考えなければいけないかもしれないとは思う。

角谷: 電力エネルギーと原発のことは、多分言い尽くしているわけではないと思うが、このくらいでまとめる。

■野田財務相に一定の評価「思い付きを打ち上げる方ではない」

自民党の谷垣禎一総裁

 京都の男性から。「円高について質問です。総裁は財務大臣の時代に円売り介入をされ、海外のハゲタカファンドの侵略を抑えられました。今日の急激な円高に対する総裁の見解と対処法を教えて下さい」

谷垣: これは、なかなか難しい。当時私は、1年半くらいの間に35兆円くらいの介入をした。日本はデフレで、アメリカ経済は非常に調子が良いにもかかわらず、ドルだけが投機ファンドなんかいろいろ入ったのだろう。円高が進んでいくという状況だったから、為替介入を35兆ほどした。基本的にアメリカ政府との間では、「やっぱりこの状況はおかしい」と。「日本の介入は理由があるね」という了解を取りながら。

 つまり国際的にある程度了解がないと、こういうものは効かない。ただ、当時も欧州から、ヨーロッパ、ユーロの方からいろいろ批判があった。今日はやはり、ユーロもさっき申し上げたように非常に不安がある。それからドルも相当、財政規律に問題があるのではないかという不安がある。その中で、日本も相当問題を抱えているが、相対的に円が安定していると見られているのだろうと思う。

角谷: でも、政権がこんな状態でも円が強いとなると・・・。

谷垣: それは喜んでいいのか、悲しんでいいのか、非常に複雑な心境だけれど。ただ、この間為替介入をやったけれど、あまり長く効果が続かなかった。それはやはり、もう少し国際的な統一性というものを考えなければいけない。今日本はエネルギーがこれだけ不安だというところに加えて、この円高が来ると、日本の中の製造業なんか本当にもう、とても日本の中でやれるかという状況になっているから、非常に危機的な状況だ。日銀等も相当、貨幣の供給量を増やしてはいるわけだが、もうちょっと考えてもらわなければならない局面かもしれない。

 それと当時に、やっぱりそういった産業が日本から逃げなくてやっていけるような、いろいろな産業政策というか、それをもう少し強力に打ち出していく必要があると思う。中小企業など小さくてもキラッとした技術を持っているところはたくさんあって、それがどんどん海外へ出て行ってしまったら、これまた日本の産業はおかしくなってしまう。そういったところに、もう少し声援が、支援が、頑張れと言うことができるか。今の政府はもう一工夫が必要だと思う。

角谷: 谷垣さんも財務大臣経験者だが、いま野田(佳彦)さんが財務大臣をやっている。野田さんは今回、民主党代表選に立候補ということになる。野田さんが、もしかしたら総理になる可能性がある。谷垣さんから見て、カウンターパートナーになる可能性があるが、どんな風にご覧になっているか。

谷垣: まあ、野田さんは割合、今までの言動を拝見すると、何か思いつきをポンポンと打ち上げるような方ではないだろうと思う。従って、今ちょっとそういうのにみんな飽き飽きしている面があるので、そういう意味では、ああいうキャラクターは今もう少し頑張っていただく必要はあるのかもしれない。

角谷: なるほど。では高評価ということか。

谷垣: ただ、そういう点では非常に堅実におやりになるだろうが、あまり天に唾するようなことは言えないので、やっぱり私もあまりパッと大向こうを唸らせるようなことは上手ではない。

角谷: 皆さん(視聴者)、慎重ですね、谷垣さんは(笑)。

谷垣: やっぱり政治には時々そういうこともあって、引っ張っていくことも必要だから、その辺りをどうおやりになるかだ。

角谷: なるほど。メール続ける。北海道の女性から。「民主党の支持率が下がっていますが、自民党の支持率は上がっているのでしょうか。こういった状況の中で自民党の支持率を上げるために必要なことはなんだと思いますか」

谷垣: 自民党の支持率も上がったり下がったり。基本的にじりじりと少しずつではあるが上がっているという状況だと思っている。それで、自民党の支持率を上げるためにやらなければならないことはたくさんあるが、今回私は改めて、自民党の力の源泉はどこにあるのかということを考えると、「地域に密着している」ということだと思う。やっぱり地域の声を、言ってみれば大金持ちとか大経営者とかいうのではない、言わば草の根の方々がどう思っているのかというのを吸い上げる。吸い取ってくるというか、そのパイプを持ってきたことだと思う。やっぱりそこを徹底的にやっていくということではないだろうか。

角谷: まあ、ここら辺はこれからいろいろな課題が出てくると思うが。ちょっと柔らかい質問もある。北海道の女性の方。「登山が趣味だと聞きます。これまで登った山で思い出深い山はどこですか。思い出等もお願いします」と。

谷垣: 私は剣岳(富山県)と黒部(峡谷)が好きで。剣(岳)も四季折々、春夏秋冬通ったが、本当に良い山だと思う。

角谷: 思い出深い、と。

谷垣: 思い出深い。

角谷: 最後のメールの質問。群馬の男性から。「野党・自民党の総裁にこういうことを言うのは失礼かもしれませんが、総理大臣になりたいですか。また、もし自分が総理大臣だったら、まず何を最初にやるのかをお聞かせください。私としては、何か明るいことをドカンと一発やってほしいです。正直、谷垣さんが総理大臣をやってくれたほうが社会が明るくなると思っています」と。もう(谷垣総裁の)大ファンのメール。

谷垣: ありがとうございます。(総理大臣を)「やりたいか」という問いかけだが、やっぱりこういう時期に野党第一党の党首は「いつでも自分が(総理を)引き受ける」という、そういう気概は当然持っていなければいけないと思っている。特に今の政府が必ずしもピシピシと震災対応とかできていないということであれば、なおさらだと思う。それでやっぱり何をやるかというのは、それは今のあれ(状況)だから、復旧・復興を1日も早く成し遂げるということに尽きる。

角谷: (復旧・復興を)加速させる。

谷垣: 加速させる。もちろん他にもいろんな課題がある。外交とかなんかあるが、やっぱりしかし復旧・復興。「なるほど、自民党になったらここまで進んだ」と実感していただけるようなことをやるということではないか。

■「ポスト菅」を見極めないといけない

政治ジャーナリスト角谷浩一氏と対談した自民党の谷垣禎一総裁

角谷: なるほど。(番組終了の)時間が来たが、もうちょっと延長する。さて、この(3党合意の)「確認書」によって民主・自民・公明の政策のハードルはだいぶ下がった。もちろん民主党が旗を降ろした(かたち)。岡田(克也・幹事長)さんは、「党内では旗は降ろしていません」と言うから、まずそれぞれの党は自分のところには説明がつく。自分のところでは、「ほら相手はこうやってひれ伏した」と双方が満足するような文章を作り上げたのだと思う。ただ、だいぶ政策のハードルが下がった。これだけの確認書の文章を読んでいると、政治記者から見ると、「これは連立の準備をしていたのか」と思うくらい、だいぶ近いことが出てきたし、大きな山はいくつか取り除かれたという感じがする。

 今後は新政権ができる可能性が出てくると同時に、今月中に内閣が変わるならば、連立だとかそれから閣内に入るかどうかは分からないが、一緒にやっていく(とか)。また「復旧を加速させる」と今お話があった。そのためには「ここまで来たら、もうあとは一挙に協力するんだ」という空気は出てきそうか。

谷垣: 今「連立」だと仰ったが、さっき申し上げたように、やっぱり今の政治制度の上で連立というのは、よくよく例外的なことだと私は思っている。だから協力をすると言っても閣外で、特にその「復旧・復興に関して協力をしていく」と。「われわれも知恵を出す」ということが基本ではないかと思う。ただ、今のようなある程度の整理ができた・・・われわれの悩みは、結局民主党の中でも相当この問題に関しては異論があって、「聞いていない」とか「こんな妥協までするのか」ということなので、果たして「ポスト菅」をお務めになる方は、そこをうまくまとめていただけるのかどうか、そこを見極めないとならないと思う。

角谷: つまり誰が「ポスト菅」になるのかも分からないし、それからその次の代表の方が、少なくとも党内をまとめきれるかどうか。

谷垣: そう。

角谷: 相変わらず半分くらいの民主党で何かを言ってくるのでは、「あまり『乗る』メリットはない」という感じか。

谷垣: 「乗る」と仰るのはその「連立」のことを仰っているのだと思うが・・・。

角谷: または「協力」という言葉でも良い。

谷垣: 結局、われわれが悩んできたのは、その話を聞いたら、それが政権あるいは民主党全部の考え方なのかというのを、常にある意味では悩んできた。だからそこはしっかりしていただかないと、「協力をする」と言ってもなかなかそう簡単ではないよ、という気持ちはある。

角谷: ただ、うがって見れば、民主党が一つにまとまれないから、半分しか民主党が機能しないのならば、その残りの部分を自民党に頼みたいと。そういう甘えたことを言ってくる可能性はある。

谷垣: ある。だからそこが、さっき申し上げたように復旧・復興ということであれば、それはわれわれができることはかなりあると思う。でもそれ以外となると、なかなか今のような状況をそうは簡単にいかないだろう。

角谷: なるほど。そこら辺はまだ「見極めないと何とも言えない」と。そういう意味では、民主党が「菅さんの後の人」というのが、どこまでまとめきれるかを見極めなければ、協力できるかどうかも分からないし、また民主党政権自体を信用できるかどうかまだ分からないということか。

谷垣: そうだ。でも、復旧や復興はできる限りの協力はしていこうと思っている。

角谷: 今度は直接お会いしたいと言って、新しい代表が「谷垣さん、副総理でどうでしょうか、場合によっては復興担当もお任せしたいのですけど」と言ってくる可能性だってある。

谷垣: まだ(次の民主党代表が)どなたかも分からないのに、それは早すぎる。

角谷: それはそうだ。谷垣さんの「慎重さ」が出た。ちょっと聞いてみようかなと思ったが、うまくいかなかった。そんなことで、谷垣さんと1時間ちょっとに渡りお話を伺ったが、明らかに政策の中では与党と野党第一党では法案の成立に向けて大きく動き出した。8月31日の会期末までに、懸案が通る法律が上がるということと同時に、どうやら総理大臣の次の人が今月いっぱいに決まる可能性も強く出てきた。そうなると、秋からの国会やこれからの復興政策は大きく今までとは違う状況が生まれる可能性がある。その段階でまた自民党としてはどういう対応をするか、協力できるのかどうなのか、それが決まっていくのだと思う。ということは、その頃またちょっと(ニコニコ生放送の番組に)お出ましいただかなければいけない。今日は久しぶりに「ニコニコ動画」にいらっしゃって、どうだったか。

谷垣: いや、よくあの(ニコニコ動画のコメント)画面を観ていなかったので、どういうことを皆さん打っていただいたのか、もうちょっとよく見なければいけなかった。

角谷: もう今は「888」が出始めた。これは(拍手を意味する)「パチパチパチ」。各メディアの方は思っているだろうが、こういう風にじっくり谷垣さんの話を(聞く機会が少ない)。谷垣さんは実は、こうやって単独インタビューになかなか応じて下さらない。

谷垣: そうかな。

角谷: あまり多くない。だから、こういう風なことでじっくり(話を聞いた)。

谷垣: じゃあ、もうちょっと(インタビューに)出るようにわが尻をむきゅっと。

角谷: どうかひとつ、またよろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。

谷垣: ありがとうございました。

(了)

(協力・書き起こし.com

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