「関西人は早口」説は本当か
出張や旅行で関西に来た人は「周囲の早口に驚く」と聞いた。住んでいるとあまり意識しないが、テレビに出ている漫才師やタレントの関西弁を聞いていると、確かに早口のような気もしてくる。「関西人は早口」説の真偽を探った。
まず「語りのプロ」に聞いた。サッカーJリーグ、セレッソ大阪でサポーター向けに試合を実況している西川大介スタジアムDJは「入場時など公式メニューはゆっくり話すように心がけている」と話す。ただ試合中は「その2倍ぐらいの早さになっているかも」と分析する。
良いプレーには早口でエールを送り、時には冷静に苦言も。しかし「最近はサポーターの勢いに押されて声を掛け合うテンポがどんどん速くなっている」と苦笑する。サッカー実況は総じて西日本が東日本に比べて早いというが、背景には早口の地元サポーターの存在があるようだ。
一方、プロ野球オリックス・バファローズの堀江良信スタジアムアナウンサーは「しっかり伝えるべき情報を聞いてもらうように心がけている」と話す。試合展開などで持ち時間が変わっても、話の間を変えたり、話す内容を組み替えたりと工夫する。他チームに聞いても、野球の場合は計算された冷静さが売り物で、東西で話すスピードに差はないようだ。
ご当地感覚が反映されやすそうなラジオのコマーシャル(CM)はどうか。制作会社のライズ広告社(大阪市)は「話すスピードで大阪と東京の地域差を感じることはほとんどありません」と話す。
見方が分かれてしまったので、言葉の専門家を訪ねた。大阪教育大学の井上博文教授(国語学)は「関西人が早口だとは一概に決められないのでは」と話す。その上で「関西の言葉が早口に聞こえる理由には思い当たる節があります」と付け加える。「御堂筋をバーッと行って、角をドーンと曲がって」など擬音・擬態語の多用が言葉に勢いを与え、早口に聞こえるという。
「関西弁独特のイントネーションが早口ととられる要因の一つかもしれませんね」。アナウンサーや司会者、声優を目指す人をトレーニングしているオフィスキイワード(大阪市)の社長で、30年にわたってレッスンを担当している上田彰さんは指摘する。関西弁は言葉によっては標準語と逆の抑揚になる。聞く人が違和感を抱くと「早口」という印象につながる。
井上さんによれば「東西に関係なく現代の日本人は昔に比べて早口になっている」。情報量が飛躍的に増大する中で、相手に多くを伝えようという気持ちが自然にそうさせているのだ。「会話のスピードには人間関係や話題の重要性が大きく影響するのです」
関西に住んでいると、知り合いのオバチャンやオッチャンに猛烈な早さでまくしたてられ、圧倒されることがあるかもしれない。ただ「大した話やないけど、色々教えようとしてくれる気のいい人なんや」と分かれば、うれしく感じられるだろう。
(和歌山支局長 上田哲也)
[日本経済新聞大阪夕刊オムニス関西2011年9月21日付]