先日エキレビでも紹介された『ブラックジャック創作秘話』を描いた吉本浩二のエッセイ漫画『日本をゆっくり走ってみたよ〜あの娘のために日本一周〜』の1巻が発売された。
この漫画、タイトルの通り作者である吉本がバイクで日本を一周するというストーリーだ。

なぜこの旅を決意したかというと4年前に花見で出会ったEさんに告白するためだ。
出発の日に吉本はEさんをデートに誘い、雑貨屋でピアスをプレゼントしてこう告げる
「オ、オレ一周して宇都宮に戻ってくるから……その時そのピアスをしてきてください」
おー、かっこいいぞ吉本。ロマンチックじゃないの。
ただ惜しむらくは36歳、小太りで気弱というところ。

この作品はね、僕が思うに『銀河鉄道999』なんですよ。
え、何言ってんだって? まぁ聞いてください。

吉本が日本一周後に告白が成功するのか、というのは鉄郎がアンドロメダで機械の体を手に入れられるのかという構成と同じなんですね。また吉本が旅立つ時に「強い男になって戻るんだ!! そしてEさんに告白するんだ!!」と決意するのは旅の最後に新しい自分に生まれ変わる=機械の体と捉えることが出来ますね。えぇ出来ます。

物語はロードムービーのように進み吉本は各地で知人や友人、その土地の人達に出会っていく。
淡路島で出会った青年は吉本へのスキンシップが飛びぬけていて床屋や宿を紹介しようとしてくれたり
「あの遊覧船うずしおを見に行くねんで」
「ここの玉ねぎは糖度が高くて日本一うまいんや!!」
と淡路島の魅力を聞いてもいないのに教えてくれた。
吉本はなぜ青年がこんなに自分に絡んでくるのか分からなかったが、やがて「ずっとあそこにいる覚悟が欲しかったんだ」と気づく。
彼は実家の食堂を継いでいて他の土地の事を知らない。だけど自分はここを気に入っているし、他にも負けない魅力があると知ってもらう事で胸を張りたかったのだ。たとえ同じ日本に居てもこの青年のように、自分が旅をしなければ出会うことが出来ない人間がいる。6畳間でじっとしていたら隣の町に住んでる人だろうと別の星に住んでるのと一緒なのだ。

そして吉本の姿に注目していただきたい。顔、服、荷物、全てが汚れていてコインランドリーで洗濯しても3ページ後にはボロボロだ。
これはお風呂嫌いであり、着ているマントはいつもうす汚れている鉄郎そのものだ。まぁ吉本が風呂に入るシーンは何回かあるけど、鉄郎だって作中1度も入ってないわけではないしね。むしろホテルに泊まったらいやいやではあるけどほとんど毎回風呂には入ってたし。
旅の汚れや傷は全て思い出になる。だから鉄郎がマントに空いた弾の跡も直したりしないように吉本は自分の姿を綺麗に描かないのだ。
あと吉本はたまに移動にフェリーを使いますね。

これはもう宇宙海賊キャプテンハーロックのアルカディア号の暗喩でしょうね。これはもうね。そうです。
あ、あとEさんの住んでる「宇都宮」もちょっと「宇宙」とかけてるんだと思います。

極めつけは吉本が性感マッサージに入る前にラーメンを食べるシーン。ラーメン屋を見つけて食事をするというのに2コマ使っているが明らかにストーリー上必要がない。
それなのになぜ描いたのか。そう、鉄郎の大好物といえばラーメンだからだ。
僕はこのシーンで間違いないと確信した。アンドロメダに向かう吉本の背中を見た。
よってこの作品は実録『銀河鉄道999』と言えよう。

第1巻では東京から宇都宮、そして大阪に行き四国を経由して神戸から九州に行くまでを描いている。

走れ吉本浩二、愛の終着駅に。車掌は君だ。メーテルはいない。(渡りに船/イラストも)