ロンドン暴動とIT
8月上旬に英国ロンドン郊外で発生した暴動は瞬く間にロンドン中や周辺の大都市へと拡大し、収束するまでの1週間に放火や強盗、通行人への暴行など、英国が抱える治安への不安や諸問題を世界的に知らしめる結果となった。
そもそもの発端は、Mark Dugganという29歳の人物の検挙にあたっていたロンドン警察が8月4日(現地時間)、同人物を射殺してしまったことにある。周囲の人間や友人らは、Duggan自身は非武装であったにもかかわらず、警察によって一方的に殺害されたと主張しており、この抗議行動が翌々日の6日に行なわれて以降、急速に今回の暴動騒動のような事態へと発展していく。
もともとは静かな抗議パレードだったものが、やがて街の無法者や浮浪者らを呼び寄せて暴れる好機を与え、さらにそこへ若者らが面白がって参加し煽っていくという形で騒動は一気に拡大した。
結果、騒動が収束する10日までの間にDugganを除く5名が死亡、負傷者は数百人、3000人を超える逮捕者を出す大惨事となった。詳細についてはWikipediaの「2011 England riots」(英語)のまとめ部分を参考にするといいだろう。
これらの情報を見れば、先進都市でのいびつな社会構造がある出来事をきっかけに大爆発した不幸な暴動事件のひとつといえるかもしれない。
しかし今回興味深いのは、暴動の拡大する中でITの果たした役割だ。暴動参加者らは「Facebook」や「Twitter」といった最新のソーシャルネットワークツールを使って互いに連絡を取り合い、ターゲットを次々と変更しながら神出鬼没の状態で騒動を一気に拡大させた。
暴動が拡大した当初は、こうした手法に警察の対応が後手にまわることが多く、結果として沈静化に失敗することとなった。ここで問題となったのはこれらソーシャルネットワークは情報の拡散が速く実態が掴みにくいこと、さらに暴動参加者らの多くはBlackBerryを連絡手段に使っていたため、このデバイスの暗号通信機能によって、キャリア側による傍受といった監視行動が難しかったことが挙げられる。
そのため、英国首相のデビッド・キャメロン氏は演説の中で「ソーシャルネットワーク遮断など必要なすべての断固たる措置をとる」という趣旨を表明し、先進国での情報統制発言に対して「中国を笑えない」との意見も出るほど物議を醸した。
また、BlackBerryの製造メーカーであるカナダのResearch In Motion(RIM)もすぐに声明を出し、暗号化通信が悪用された件について必要な支援を惜しまないと応えている。さらに直近では、騒ぎに便乗してFacebookで暴動参加者を募った2人の20代の若者が逮捕され、扇動罪で4年の実刑判決を受けている。
これは、騒動が一巡してソーシャルネットワークの監視を強めていた警察が、暴動の実行前にうまく対処できたことによるものだ。加えて、実刑判決がこれだけのスピードで出たのは、これから検挙される暴動参加者に対する見せしめの意味もある。
ITを利用した攻防が、アメリカでも進行中だ
騒動を起こす側も鎮圧する側も、ITを活用していた点で今回の暴動は興味深い。一時期、中東の民主化騒動ではITが民主主義を後押しし、抗議行動を扶助する役割を担っていたが、イギリスの騒動はそれとはちょっと違う形でITが活用されている。
この手の抗議行動にITが活用されるケースは増えており、例えば米カリフォルニア州サンフランシスコでは、現在、地下鉄を舞台にした抗議活動で市民と政府が対立を続けており、8月15日には警官隊がサンフランシスコ市内の4つの主要駅を封鎖するという事態になっている。
もともとこれは、2010年初にサンフランシスコ市内と郊外をつなぐ公営BART(Bay Area Rapid Transit/ベイエリア高速鉄道)の地下鉄駅で、BART警察によって1人の人物が射殺されたことに端を発した事件だ。その抗議活動が、隣のオークランドやサンフランシスコ市庁舎で行なわれ続け、騒動が拡大している。ちょうど、ロンドンでの騒動に似通った経過だ。
8月中旬には、大規模な抗議活動の開催がサンフランシスコ市内のBART駅で予定されていたが、それを察知したBART側が参加者同士が連絡をとれないようにするため、開催当日の数時間、地下鉄構内の携帯中継システムをすべてシャットダウンした。前述のキャメロン首相ではないが、民主主義や一般市民の権利を阻害してでも対抗措置をとるということなのだろう。やはり鍵を握るのはITだ。