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ゲームは「産業革命」に突入した 任天堂・岩田社長の苦悩

ゲームジャーナリスト 新 清士

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今、ゲーム産業は劇的な構造変化のただ中にある。既存のパッケージを中心としたモデルと、スマートフォンやソーシャルゲームといった新興勢力との激突が起きている。この対立の背景には、さらに大きなパラダイムシフトがあることを見逃してはいけない。ゲーム産業の変貌がゲームの「価値」にどんな変化をもたらそうとしているのかを紹介したい。

岩田聡氏が語る「価値」とは何か

任天堂が6月29日に行った定時株主総会。岩田聡社長は質疑応答で、3月の米サンフランシスコで行われた「ゲーム開発者会議(GDC)」で自身がおこなった基調講演が歪められた形で報道されていると述べている。

岩田氏のGDCでの発言要旨はこうだ。ビデオゲームのビジネスには2つのアプローチがあり、1つが「高い価値」を守る既存のゲーム。もう一方が、スマートフォンやソーシャルゲームだ。そこではプラットフォーム企業は(ゲームの)量を集めれば収益を生み出すことができ、「価値が大した意味を持たない」と切って捨てた。そして、ゲーム開発者は「価値を守るべきだ」とその場の聴衆に向かって問いかけた。

しかし、この発言は大きな共感を得ることなく、逆に任天堂が新興のプラットフォームを批判したと受け止められた。

岩田氏は自分の本意が伝わらなかったと強く感じたようで、この後、4月の決算説明会、6月の米E3でのアナリスト向け会見でも、「誤解された」という意味の発言をしている。株主総会時には、言い直す形で「ソフト開発者というのはこれからますます自分たちが作るものの価値を高く維持することをちゃんと意識していないと、簡単に低いものに引きずり降ろされていくのではないか、そこに注意すべきだ」と話している。

それでも、岩田氏の話はわかりにくい。理解を難しくしているのは、岩田氏が指摘する「価値」とは何を示しているのかが不明瞭な点にある。「価値」は立場によって意味が大きく変わってしまうため、一般化して語ることが難しい。そのため、岩田氏が述べている「価値」とは、あくまで「任天堂の考える価値」ととらえなければならないと思っている。

新たなプラットフォームで「デフレ」が進行

では岩田氏の言う「価値」とは何か。ユーザーがゲーム専用ハードを購入して、3000~6000円程度で価格設定されているソフトを継続的に購入し、その値段を払っても十分に満足したと感じてもらえるような状態を守ることを意味していると、おおよそ理解して良いだろう。

新しいプラットフォームやネット流通は、ゲームのデフレ化を進行させる。既存のゲーム産業の「秩序」が崩れてしまうことで業界全体の収益を悪化させ、ユーザーに満足してもらえるゲームを継続的に出せなくなることを懸念している、というのが本意なのだろう。

岩田氏の主張は一理ある。ゲームのパッケージモデルは、販売価格を一定に固定することで、時間をかけて完成度の高いゲームを作り込むことができた。持続的な投資が可能なビジネス環境を維持することで、この30年あまりゲームの発展を促してきたのは事実だ。

しかし、疑問もある。任天堂が主張する「価値」と、スマートフォンやソーシャルゲームが引き起こしている「価値を下げるもの」という2つの極、つまり「二項対立」が、今の対立構図のすべてなのだろうか。ゲームの「価値」とは何かを考えるならば、もっと別の視点から眺める必要もあるだろう。特に、コンピュータ技術の発展が引き起こした変化を考慮する必要がある。

話題を呼ぶゲーム開発映画の予告編

今年秋に公開予定の「INDIE GAME:THE MOVIE」というドキュメンタリー映画の予告編が大きな話題を呼んでいる。数人でゲームを開発している独立系の開発者20人たちへのインタビューを中心に、開発者たちの葛藤や彼らのゲーム観を描く内容だ。そこから見えてくるのは、前述の対立とは違う視点から語られているゲームの「価値」だ。

予告編で登場するゲーム開発者たちは言う。「僕はビデオゲームを定義する。なぜなら、僕はゲームを作る事ができるからだ」、「ゲームはいつも全体的に感動的なメディアだ。インタラクティブを作れるからね。言うなれば、とてつもないことなんだ」、「僕はゲームを通じて新しいコミュニケーションのあり方を探りたいんだ」(筆者訳)

それぞれの開発現場の映像は慎ましやかなものだ。1人もしくは少人数で開発するための小さな作業スペース。悩んでいる姿が映り、うまく行ったときには大声で笑う。

登場が予告されている人のなかには、傑作という評価を獲得し、商業的にも成功した人々も少なからずいる。だがその裏側には少ない人数で、何の成功の保証もなく、ゲームという新しいメディアの可能性に向けて、懸命に努力を続けようとしている人々の姿が垣間見える。

「集中して作り続けるようなやり方は好きじゃないんだ。過去2年間基本的に何も仕事をしていないよ。……プレッシャーはないよ」と、1人の開発者は、不安と自信がない交ぜになったような心情を語る。

「世界に向けてのゲームを作る旅」と、キャッチフレーズがつけられたこの映画は、予告編だけで強いメッセージ性がある。ゲームを作ることの意味が、根本的に変化しようとしていることをはっきりと予感させるインパクトのあるものだ。

19世紀に印象派を生んだイノベーション

油絵の世界で、19世紀中盤に大きな技術的なイノベーションが起きた時期がある。あらかじめ配合された色をチューブに詰めた絵の具が登場するのだ。それ以前は、練り合わせ材と顔料を用いて、分量と性質を考えながら、色を作るという作業が画家にとってスキルを得るための壁となっていた。しかし、チューブ絵の具の登場で、油絵を描くという行為が、はるかに簡単になった。それによって、発見されていなかった油絵の表現方式の模索が始まるのだ。

それが19世紀後半から20世紀初頭にかけて、フランスで印象派が登場する劇的な革新を生み出していく素地になる。優れた技術と量産によって安価になった油絵ツールは、多様な絵画表現を探ろうという野心的な画家たちを生み、「新しい絵画の価値」を生み出していく。ゴッホやゴーギャンのような貧困の環境下でも独自のタッチやスタイルを追求して、「価値」を残していく画家が登場できたのは、こうしたイノベーションがなければ起こりえなかっただろう。

ゲームづくりのハードルが下がった

今、これに似た現象が、もっと速いスピードでゲーム産業でも起きようとしている。

10日、東京で「デジタルゲームの技術」(ソフトバンククリエイティブ)の発売記念となるトークショウが行われた。安価でありながら、強力な3Dのゲームエンジンとして世界で注目を集めているUnityテクノロジーのリージョナルディレクター、大前広樹氏が、ゲームの作り方がこの30年あまりの間に大きく変化してきていることを指摘していた。大前氏はゲーム開発の時代を3つに分ける。「コードの時代」、「データの時代」、「ゲームエディタの時代」だ。時代の変化によって、ゲームを作るという行為へのハードルは劇的に下がった。

1980年代から90年代までのゲームの黎明期には、プログラマーがゲームのすべてを開発する「コードの時代」だったという。ゲームそのものの設計、調整、それらの行為を一手に引き受けてきていた。そのため、限られた能力を持ったプログラマーの作業量がゲームの中身のほぼすべてを決めた。

しかし、2000年代には「プレイステーション2」などが登場し、家庭用ゲーム機の性能が上がってきた。さらにDVDなど容量の大きなメディアが普及することで、コンテンツを作るには、より多くのデータを用意しなければならなくなった。

そのため、プログラム部分とグラフィックスデータの部分を切り離し、プログラマーとグラフィッカーというような形で、分業化を進める考え方が一般化した。その時代を「データの時代」と呼ぶ。

それが05年頃の「プレイステーション3」や「Xbox360」などの時代になると、ハードの性能がさらに跳ね上がり、途方もなく大量のデータを用意することが迫られる。常にプログラムとデータの統合が大きな課題になり、開発チームの規模も100人といった大規模化が進む。それらがプロジェクトの混乱を引き起こす要因にも変わっていった。また、新しい種類のゲームの表現方法も限られてきて、続編を中心としたゲームが多くなるという事態も生み出した。

劇的に安価になった開発環境

一方で、「おもしろいゲーム」を設計・開発するには、どのようにデータを切り分けて管理すれば効率よく作業が進められるかということが、だんだんと明確になってきた。それらの要素をゲームエンジンというツールにまとめることで、リアルタイムに修正項目をチェックできる開発環境を整えようとする人たちが現れる。プログラムを書けなくても、ゲームエンジンによってゲームのおもしろさを実現できるようになってきた。

大前氏は、この現在の時代を「ゲームエディタの時代」と呼んだ。

「ゲームエンジンのUnityの場合、個々の機能は、コンピューターサイエンスを修得した技術力のある人なら自分で同じ物を作る事ができるんです。5~10年あまり前にはゲームエンジンを購入するとちょっとした機能だけで数百万円から数千万円かかって、会社でも容易に手が出るものではありませんでした。だけど、今では無料で使うこともできるし、全部を購入しても数十万円程度と格安になっている。ゲームエンジンに任せることで、車輪をもう一度発明する時間をかける必要がなく、おもしろいゲームを作ることだけに集中できるようになるのです」(大前氏)

大前氏は、この現象は広がりを見せていると指摘する。二次元のアクションゲームをプログラムを書かなくてもレゴブロックのようにパーツを組み合わせることで作れてしまう「GameSalad」や「Game Maker」といった優れたゲームエンジンが無料から数十ドルで使うことができる。しかも、この開発環境で作ったゲームは、スマートフォン用にリリースしたり、「HTML5」にも書き出せるため、自分の作ったゲームを世界中の多くの人に届けることも簡単にできる。

ゲーム分野の産業革命が起きている

さらに、現在では個人が所有しているパソコンの性能が高くなり、ゲーム会社が持っている開発機材と性能的にはほとんど差がなくなった。「環境だけを見るとゲーム会社にいる人と個人でゲームを作っている素人との差がなくなってしまったのです。中世の時代に、一部の貴族に生産手段が集中していたものが、一般へと広がることで社会構造が変わったように、ゲーム分野における『産業革命』が起きているのです」(大前氏)

もちろん、素人が所有できる生産手段がいくらリッチになったからといって、優れた絵が簡単に登場しないように、それがゲームそのものの質を高めてくれるという保証はどこにもない。ゲームを作り込み、新しいおもしろさを探る作業は、長い労苦を伴うものだからだ。だからこそ、新しい時代と環境の中で、愚直に自らのゲームの可能性を追い続ける「INDIE GAME:THE MOVIE」に登場する人たちは、印象派の画家たちと重なって見える。

今のゲーム産業の変化を見る上では、既存のハードと新興のプラットフォームとの「二項対立」として語られる事象とともに、こうした底流で起きている変化を見逃してはいけない。ゲームの開発環境が変わったからこそ、「新しい価値」を発見しよう試みる多様なゲーム開発者が登場し、さらなる業界の進化を先導しているのだ。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(igda日本)代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。

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