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大きな蓄積を生んできた、二つの方法



倉下忠憲
前回のエントリーでは、「自分にもアイデアが生み出せる」という認識の重要性を紹介しました。

私自身は、「自分なんかアイデアを思いつけるはずがない」とか「文章を書くのは手に負えない」といった感覚は持ち合わせていません。でもって、実際にいろいろアイデアを考えたり、それに基づいて文章を書いたりもしています。

しかし、物心ついた瞬間からそういう認識であったわけではありません。その認識を生み出したのはある種の「蓄積」によるものです。

初めから自分の認識を変えるために蓄積していこうと考えていたわけではなく、毎日ちょっとした事を続けていたことを後から振り返ってみれば「蓄積」になっていた、という感覚です。

今回は、実際に私がやってきた「蓄積」作りの方法を二つ紹介してみます。


アイデアマラソン

「アイデアマラソン」とは樋口健夫さんが提唱されている発想トレーニング法です。『一冊のノートで始める力・続ける力をつける』よりその定義を引用してみます。

基本的には、「毎日、何か思いついたことを考えて、連続ノートに、簡単に書きとめる。できるだけ絵を描く。一つ一つの思いつきに番号をつける。そして周りと話し、最良のものを実行・実現していく」という方法である。

書き方には一定のフォーマットがあります。たとえば、次のような感じで記入します。

①2011年9月2日(日) (001)(プラン)(±0)
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前から順番に「その日何個目の発想なのか」「その日の日付」「トータル発想数」「タグ」「発想収支」が並んでいます。そしてその下に実際の「思いついたこと」を記入します。
※詳しくは「初心者トピック」(idea-marathon.net)を参照してください。

面白いのは「トータル発想数」と「発想収支」が分かれている点です。「トータル発想数」とはこれまでいくつ発想を出してきたのかの総合値になります。対して「発想収支」は、「毎日最低一個は発想する」がどれだけ維持されているかを示す指標のようなものです。

上記の例では、初日の一個目では(±0)。もし同じ日に二つ追加すれば(+1)(+2)と続きます。一日一個という最低目標に対して二つの余裕を持たせられたということになります。

日付が変わってからの一つ目(トータルでは4つ目)は(+2)から始まります。「一日一個」が最低条件なので、それは数字の加算には加わらないわけです。なので、一日飛ばしてしまうと、前々日の「発想収支」から−1したところから始めなければいけません。この辺に「ゲーム感覚」が入ってきます。

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が、私の場合、ゲーム感覚で楽しむことよりも数字の計算が面倒になって止める可能性の方が高いと思ったので、「トータル発想数」だけを記入していました。これでも__増えていく楽しみから__十分続ける効果はあります。

現状では、この「アイデアマラソン」という形は取っていませんが、それでも日々「思いついたこと」を書き留める習慣は続いています。もしトータル発想数を書き続けていれば、1000を遙かに超える数になっているはずです。

ブログを更新してみる

「アイデアマラソン」の延長線上にあると言えるかもしれませんが、ブログを更新していることも大いに役立っています。

毎日ブログを更新していると、どこかしらから「アイデア」を求める必要が出てきます。この必要の感覚がインプットに影響を与えます。表現を変えれば、日常が「ネタ探し」になるわけです。

本を読んでいても「これをどう紹介しよう」とか、食事をしていても「これはどんな切り口で見せよう」とか、大きな失敗をしても「しめしめこれはウケるコンテンツになる」といった考え方が出てきます。あまり極端な方向に行きすぎるとちょっと・・・な気もしますが、少なくとも日常に視線を向け、そこから何かを考える癖が付くようになります。

たとえば、私は毎週この連載を書いていますが、そのおかげで「知的生産」についていろいろ考えたり、参考文献を読み漁ったりする行動が促されています。

1週間に1時間〜2時間ほどのことですが、それでも一年間続けていけば、程度まとまった何かを書けるぐらいの「考えること」は行ったことになります。しかもそれが、目に見える形で残っているのですから、自分の認識に与える影響__「まあ、何か書けるだろう」__はかなり大きいものになります。

さいごに

今回は実際に私が取り組んでいた(取り組んでいる)方法を二つ紹介しました。

こういった蓄積のおかげで、一応「何かを考える」「ある程度の文章を書く」ということに関しては、非常に楽観的に捉えられるようになっています。難しいかもしれないが、なんとかできるだろう、ぐらいの楽観さです。

もし、こうした蓄積がなけば、「本を書きませんか」と話題を振られても「ちょっと無理です」と決めてかかっていたことでしょう。

ある程度楽観的な気持ち(あるいはささやかな自信)があれば、「やります」と答えてから、さてどうしようと考えることができます。この順番は逆にはなりません。やることがありきだからこそ、アイデアが見つかり、考えが進むわけです。ブログの更新と同じことです。

自分自身の中に自信を作るには、ある程度の実績が必要です。もしどこかのデパートに「○○県産産地直送 最高級自信」なんてものが売っているならば、お金を出してそれを買えば済むことですが、なかなかそういうわけにはいきません。

結局の所、小さな実績を大きく積み上げていくのが唯一の方法です。

しかしながら小さな実績を積み上げることすらも、そんなに簡単なことではありません。そのためにゲーム感覚を取り入れたり、ちょっとした強制力を働かせたりするというのがある種のコツです。近道はないかもしれないが、今の道を歩きやすくすることはできる、というのがツールやテクニックが持つ役割なのではないでしょうか。

 

▼参考文献:

アイデアマラソンについての紹介がメインですが、それと合わせて「記録を残し続けることの効能」なども紹介されています。

▼今週の一冊:

ノートの話が出てきたんで、ちょっと文具系の雑誌でも。

万年筆が特集内容です。あと、原稿用紙とか、モレスキンとか、Macとかの話題が出てきます。この手の話題が好きな人は、手にとってページをめくってしまうと、ついつい購入してしまうこと請け合いです。


▼編集後記:
倉下忠憲



一つの本をほぼ脱稿して、ようやく一段落したところです。9月の後半に発売予定です。その辺はまた告知させてもらいます。ちなみにテーマは「手帳」。でもってゆっくりする暇もあまりなく、次の本に着手開始です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

ほぼ日手帳HACKS
倉下忠憲、北真也
PDF: 226ページ