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【IFA2011】Sony Tabletは進化する! ソニーのクラウド戦略を本田雅一氏が解説

2011年09月03日 22時00分更新

文● 本田雅一 編集●桑野

【IFA2011】Sony Tabletは進化する!本田雅一が語るソニーのクラウド戦略

 ソニーからSony Tabletがやっと発売になりました。震災後の4月26日に発表されたものの発売は秋としか知らされず、「なんでそんなに間が開くの?」と疑問に思っていた方もいるかもしれません。それに秋以降になったら、すぐに次のAndroidの話題になるんじゃない? と心配している方もいるかもしれません。

 しかし、Sony Tablet。私が知るかぎり、今買える一番のタブレット端末に仕上がっています。ハードウェアの出来の良さもさることながら、タッチパネルのドライバーやウェブブラウザーに直接手を入れた“サクサク・テクノロジー”に代表される“Sony Tabletだけの体験”は、使い比べた人に良さを実感させるはずです。
 発売の遅れは(ソニー自身は決して語りませんが)震災の影響が大きく、最大で2ヵ月ぐらいの影響はあったようです。しかし、そのぶん製品全体のコンセプトや関連サービス、ソフトウェアを煮詰める時間を増やせたとのこと。

 それに具体的な期間は公開されていませんが、新OSに対する追従性も驚くぐらい早くなっているようですよ。ドイツ・ベルリンのIFA2011会場でソニー業務執行役員SVPでSony Tabletの事業を統括している鈴木国正氏を見かけたので声をかけたところ、「(垂直統合でクローズドな世界での開発を得意としてきた)ソニーがオープンソースのOSを基礎に製品、サービスを展開したら、どんな世界観が生まれるのかを見せる体制が整ってきました。Sony Tabletは(ソフトウェアとサービスの改良で)進化していく製品。これからどんどん良くなっていきますよ」と、思い切り前向きなコメントをいただきました。

 このコメントにもあるように、Sony Tabletの基礎はオープンなOSであるAndroidです。その開発プラン、スケジュール、内容にSony Tabletも依存している部分はあります。しかし、独自性を引き出しながら最新版にも追従していけそうな雰囲気は、発売時にはAndroid 3.2に対応している、なんていう話からも想像できそうですよね。

 ここではSony Tabletの特徴である、クラウド型のウェブサービスとの関係について話をしたいと思います。

【IFA2011】Sony Tabletは進化する!本田雅一が語るソニーのクラウド戦略
【IFA2011】Sony Tabletは進化する!本田雅一が語るソニーのクラウド戦略


●エンターテイメント・コンテンツをひとつに束ねる“Sony Entertainment Network”

【IFA2011】Sony Tabletは進化する! ソニーのクラウド戦略を本田雅一が解説

 新製品の話から、ソニー全体の戦略の話へと急に話が大きくなりますが、Sony Tabletはソニー自身が今年、最も重要としているテーマと密接な関係があります。それは「クラウドへの対応」です。と、これだけでは漠然としすぎていますよね。

 ソニーはちょうど一年前、ドイツ・ベルリンで開催されたIFA2010で、“Qriocity”というクラウド技術を基礎にした音楽と映像の電子配信サービスを開始しました。なかでも“Music Unlimited”は、とてもユニーク。リッピングしたCDやiTunesで購入した楽曲も含め、自分がもっている楽曲をスキャンし、その楽曲はIDとパスワードさえ設定しておけば、どの端末からでも楽しめるというもの。

 他にも得意の12音解析技術を用いたインターネットラジオ的機能なども使えますが、概念としてとてもユニークで画期的だったのです。やや異なる面もありますが、同様のコンセプトはアップルも“iTunes Match”として提供しようとしていますね。ただし、iTunes MatchとMusic Unlimitedは目的が少しばかり違う。

 ソニーはMusic Unlimitedを利用するためのアプリケーションを、すべてのAndroid端末ユーザーに開放しています。CDをカセットテープやMDに録音して楽しんでいた頃、録音したメディア(媒体)は、どのメーカー製の機器でも楽しめましたよね。これが当たり前だと思っていたら、コンテンツをダウンロードする時代になってみると、ダウンロードサービスに結びついた機器(かその後継機種)でしか楽しめない。そんな不便な世界にいつの間にかなっていました。

 iTunes MatchはiTunes利用者の利便性を高め、アップル製品同士の結びつきを強めるサービスですが、Music Unlimitedはソニー製品同士の結びつきを強めるだけでなく、Android向けにアプリケーションを無償で提供し、“コンテンツをどこから買うか”という話と“コンテンツをどのハードウェアで楽しむか”を切り離して、デジタル機器を自由に選んでもらおうという意図があります。今後は他社も含めて仲間を増やしたいと考えているようですね。

【IFA2011】Sony Tabletは進化する! ソニーのクラウド戦略を本田雅一が解説
【IFA2011】Sony Tabletは進化する! ソニーのクラウド戦略を本田雅一が解説

 さて、コンテンツといっても様々な価値があります。音楽や映像、電子書籍、ゲーム、写真などなど。これらを共通するひとつの基盤の上につくろうということで、ソニーはQriocityを同社のクラウド型サービス基盤のブランドとして定着させようと、この1年間、努力してきました。そう言えば、1月のInternational CESでもこの話題がありましたよね。憶えていますか?

 ところが、ソニーはオンラインサービスの名称を、ここにきて変更しました。Qriocityという名前はなくなり、“Sony Entertainment Network”という名称になりました。最近のソニー製品やサービスは、一般名詞の組み合わせで名前がつけられているので、それを踏襲した形でしょうか。
 これに伴い、ブラビアなどに先行して組み込まれていた“Video On Demand powered by Qriocity”という映像配信サービスは“Video Unlimited”という名称に変わりました。中身は同じで名前だけ変更。

 このVideo Unlimited。いわゆるインターネットを通じた映像のストリーミング配信だけではありません。映画や音楽ライブ、テレビ番組などをダウンロードし、それをSony Tabletに転送して楽しむこともできます。ストリーミング再生で見る場合は、回線速度の状況に応じて複数のビットレートから映像を自動選択して再生するなど、なかなかよく考えられたサービスです。Video Unlimitedは9月からプレオープンし、9~10月にコンテンツがひととおりそろってのグランドオープンを迎える予定です。

 ソニーはこれらエンターテイメントコンテンツを、ひとつのID(プレイステーションID、Sony Entertainment Network IDなど)を機器にセットするだけで楽しめるよう、今後サービスの幅を拡充していくそうです。

 Sony Tabletはサクサク・テクノロジーや質の高いハードウェア設計、ユーザーインターフェースなどで独自性を出していますが、見方を変えると“とても良くできたタブレット端末”でしかありません。しかし、こうしたネットワークサービスとの統合を進めることで、製品の魅力がより高まります。ユーザーはハードウェアだけでなくソフトウェアだけでもなく、それらとサービスの質を合わせた体験を価値として感じています。


●クラウドがソニー製品を束ねる

【IFA2011】Sony Tabletは進化する! ソニーのクラウド戦略を本田雅一が解説

 Sony Entertainment Network(SEN)はSony Tabletの世界観を広げるために重要なサービスですが、ハードウェアの価値を高めるだけのものではありません。SENを通じてさまざまな製品がつながり、コンテンツを共有しながら、それぞれ独自の世界観を醸成するようになるでしょう。

 たとえばソニーはIFA2011で、Android搭載のウォークマンを展示しました。いわばiPhoneに対するiPod touchのような製品とも言えますし、Sony Tabletとも共有する様々なアプリケーションやユーザーインターフェースを見ると、Sony Tabletの小型版がAndroidウォークマンなのか? とも感じます。しかし試用してみると、音楽プレーヤーとしての使いやすさや抜群の音の良さに、なるほどこれは“音楽のための端末”なのだと納得させられました。

 ここにSENが加わることで世界観はもっと広がってきます。たとえば本格的なAVコンポーネントからも、SENで提供される映像、音楽、写真にアクセスできるようになるとか。すでにブラビアは対応していますし、BDプレーヤーやレコーダーも対応していきます。
 入手したコンテンツは、これまで自分ですべてを管理していましたが、これからはクラウドに預けたり、あるいはクラウドの中で提供されているコンテンツに「購入済み」とマークを付けておき、利用者のIDとパスワードを使いたい機器にセットすれば、すぐにもっているコンテンツが同期、あるいはストリーミングで配信され、目の前で楽しめる世界が描けるわけです。

 クラウドがあらゆるデジタルエンターテイメント製品を束ねる。そんなイメージでしょうか。ありとあらゆるデジタルエンターテイメント製品を発売しているソニーですし、グループ内にはゲーム機メーカーも抱えているのですから、これがネットワークで連動するとなれば、なかなか面白い世界観が描けそうですね。
 そんなわけで、ソニーが独自性を出すためにクラウドに投資するのは大賛成なのですが、少しばかり開発が間に合わなかったのかな? と思われる部分があります。


●“進化するSony Tablet”に期待

【IFA2011】Sony Tabletは進化する!本田雅一が語るソニーのクラウド戦略

 たとえばID。ソニーはひとつのIDでプレイステーションネットワーク(PSN)からSENまで、あらゆるサービスをシングルサインインで利用可能になる……と話していますが、まだそれは実現できていません。
 少しばかり裏側の話をしますと、従来、Qriocityと呼ばれていたサービスはソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が提供するPSNの上につくられてきたものです。これに対してSENに統合されようとしているサービスは、ゲーム機に対するコンテンツ提供……という枠組みを超えたものです。
 このためソニーが提供している多様なサービスをひとつの基盤に集めようとしていますが、完全な統合が行なわれるまでには少し時間がかかりそうです。

 またSENらしいサービスの例ということでMusic Unlimitedの話を書きましたが、日本でのサービス開始は現時点では未定。12音解析技術を用いた音楽プレーヤー機能など、再生ソフトウェアの側で使いやすいものになるようくふうしていますが、本領発揮は対になるサービスの開始からになると思います。
 Music Unlimitedが開始できるかどうかは、音楽レーベルの意向次第。ただ、まったく目がないかというと、そんなことはなく、日本でもクラウド型の音楽配信サービスを開始できそうだとは、ソニー以外の別の音楽配信サービスを担当する方々からも漏れ伝わってきています。

 この他、インストールされているアプリケーションの機能連携(たとえばDLNAで再生指示を出したあと、その機器の音量をタブレット側ですぐに調整できず、アプリをリモコンに切り替える必要がある)などに、やや洗練度を欠く部分も感じました。が、指摘した内容はすでに改良に向けて開発を続けているということなので、年末までにはまた新しいSony Tabletになっているかもしれません。

 鈴木国正氏の話にもあったように、Sony Tabletは進化する製品。話を聞く限り、現時点における自分たちの弱点もよく知った上で、アップデートを重ねながらより良いプラットフォームに成長させていくとか。その意気込みと成果に期待したいですね。

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