誰にも訪れる「人生の不条理」 その辛さにどう対処する?

access_time create folder生活・趣味
作家の大野更紗氏(写真中央)と星野智幸氏(右)

 あなたが人生でひいた「クジ」はなんですか――誰も自殺に追い詰められることのない社会の実現に取り組むNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」は、2011年7月30日に喪失体験を語るトークイベント「メメント・モリ(死を憶え)」の第5回目を開催。作家の大野更紗氏、星野智幸氏をゲストに迎え、「人生の不条理」について話し合った。この模様は、ニコニコ生放送でも中継された。

 08年に日本ではほとんど前例のない自己免疫疾患系の難病を発症し、現在も闘病中の大野氏は、「誰だって生きていれば、その中で何らかの『クジ』を引くわけですよね」と人生で出会う不条理をクジ引きにたとえる。

「それが何のクジか分からない。被災するクジかもしれないし、失業したり、いじめに遭ったり・・・。いろんな社会問題があって、みんなが困っている。みんなが閉塞感を感じている」

 しかし、難病という一見すると特に「悪そうな」クジを引いてしまったのにもかかわらず、大野氏はクジ同士の比較、辛さの比較をしても、きりがないし、本質的には誰が一番辛いかは分からないと述べる。

 この話を受けて、星野氏は、

「大きな死の問題で辛いと思っていようが、受験に落ちて辛いと思っていようが、それぞれの個々人にとっては(絶対的に)辛い。だから、『こっちのほうが辛いんだから我慢すべきだ』という考え方をしてもしょうがない。でも、今の日本の社会は、その辛さを比較し合う社会みたいに凄くなっていますよね」

と、辛さまでランキング化している現状を指摘する。

■期待と応答のテンプレ

 こうした辛さへの対処法として、大野氏は、「自分の気持ちを、自分の言葉で言うしかない」と語る。しかし、現実には建前が圧倒的に多く、自分の気持ちを人に言わされている場合さえある。大野氏がその例としてメディアの取材を挙げる。

「テレビとかで被災者に『お気持ちは』と聞くじゃないですか。でも、例えば、私の場合、病室に急に来られて『お気持ちは』と聞かれても、何て答えれば良いんだろうと。『大丈夫です』とか『ありがたい』とか言うしかないんですよね」

 質問も「テンプレ」なら、答える側も「空気」を読んで、本音ではなく「テンプレ」で返す。メディアに限らず、この種の「期待と応答のテンプレ」は日本にいくつも存在する。そして、これらが空気の逃げ場のない、高い同調圧力として人々に閉塞感をもたらしている。

 では、どうすれば本当の気持ちを自分の言葉で表現できるのだろうか。星野氏は「人のことを気にしないで書く(話す)こと」と実に小説家らしいアドバイスをする。しかし、相手に分かってもらえるのだろうかと心配は尽きない。ここで大野氏は、自著『困っているひと』に寄せられた読者からのコメントを例に、

「一番多かった反応は『実は私もそう思っていました』というものでした。人の感覚って、そんなに乖離(かいり)してないんですよね。話してみれば、意外と皆そう思っていて、だいたいのことは通じる。そんなに怖がらなくても大丈夫だと思います」

とフォローを加える。最初のハードルはかなり高そうだが、一人が本音を言うことで、芋づる式に本音を言いやすくなっていくのかも知れない。

(野吟りん)

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「ゲスト2人のアドバイス」部分より視聴-会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv55466596?po=news&ref=news#2:30:20

【関連記事】
高岡蒼甫、ブログで自殺未遂やパニック障害の過去を告白
自殺者急増、上原美優さん「自殺報道」の影響か
痴漢容疑の「取り調べ」後に転落死 「違法捜査」問う国賠訴訟で被告・東京都は「争う」
「冤罪事件の再発防ぎたい」 息子失った母、東京都を提訴
「痴漢容疑の警視庁取り調べは違法」 息子を失った母、東京都を提訴へ

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 誰にも訪れる「人生の不条理」 その辛さにどう対処する?
access_time create folder生活・趣味
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。