「S-Fマガジン」の長期連載科学コラムだ。
今号で194回(月刊誌で、だよ!)、ほうしゃのうの話題。
放射線医療の従事者が、どうして「今環境に出てる量なんて、気に病むようなモノじゃない」と主張する傾向にあるのか、ってことが解き明かされていて興味深い。
日常的に放射線をあつかっているので、一般人とは感覚がだいぶ違っているのだそうだ。
たとえば甲状腺の障害には、“甲状腺シンチグラフィーって検査をするんだけど、このときに飲むカプセルには、3.7~7.4メガベクレルの放射性ヨウ素”が入っている。
3.7~7.4メガベクレル! つまり3,700,000ベクレル~7,400,000ベクレル!
2,000ベクレル/kgという基準は、“ずいぶん安全に振った基準だと感じて不思議はない”。
しかも、そういった放射線を使うことで、“確実にたくさんの命を救っているという自負がある”。
そういう人たちからすれば、“トン単位で食べない限り、シンチグラフィーで飲む一回分の被爆よりもわずかしか被爆しない”基準は、“そんなに気にすんなよなーって思ってるんじゃないかな”、ということなのだ。
ちなみに「S-Fマガジン」2011年7月号は、特集「伊藤計劃以後」。3・11後のSF的想像力を探る特集だ。
“いまだに理解できないことだらけだ。そう思うだけで怒りが噴出しそうになる”冲方丁は、福島市の自宅で地震に襲われたときの体験を記す。“SFは、僕にとって何より、第四人称の物語のことだ。
また「第6回日本SF評論賞」選考委員特別賞受賞作も掲載されている。「『高い城の男』―ウクロニーと「易経」」というタイトルの論考で、ウクロニー(ユートピアという言葉の構成からヒントを得てフランスの哲学者シャルル・ルヌヴィエが創作した言葉。非あるいは虚を意味するウと時間を意味するクロニーを合成)をキーワードにした刺激的な内容だ。
科学コラム「サはサイエンスのサ」は一冊にまとまっている。
十五年続く連載から厳選、大幅に加筆修正したものだ。タイトルは連載コラムと同じく『サはサイエンスのサ』(鹿野司・早川書房)。
「新世紀エヴァンゲリオン」を、“登場する主要なキャラクターのほぼ全員が、神経症的”って考察からシンジとアスカのコミュニケーション方法について探っていったり、クローン羊から優生思想、臓器移植(「血を売って起業? 背が低いのは病気? 人間部品産業の驚異」を連想する)、インフルエンザ、公衆衛生上のリスクと個人の驚異、神経学的マイノリティ、こころを読む機械、科学と宗教、認知の歪み、フレーム問題、世界の謎、こっくりさんとデザインなどなど、多彩で広範囲な内容を扱う。それらが、論理プロセスを踏みながら展開し、考える方法の新しい角度を持つ高みにまで導いてくれる。
断片的なニュースや、不安を煽る言説が飛び交う中で、ただ過剰に反応して駄々をこねるのではなく、情報を集め、ステップを踏んで、未来について考えることを、忘れないようにしたい。(米光一成)