出版社より献本御礼。
よくぞ言ってくださった9割。
残りの1割を、これから書く。
本書「日本人の9割に英語はいらない」の内容を一言でまとめると、「英語勉強している暇があったら、本を読め」、ということになる。このこと自体に異論はないし、私も同様の主張を何度も本blogで繰り返して来た。しかし、それをマイクロソフト株式会社元社長(1)が、成毛眞(2)として言ったことに意義がある。
(1)に意義があるのは、その方が遥かに多い人が耳を傾けるから。人というのは何を言ったかではなく、誰が言ったかを気にする生き物である。「英語勉強しろ!」と五月蝿い親や上司を黙らせるには、あなたが直接言うより「マイクロソフト株式会社元社長もそう言っていた」の方が遥かに効果がある。余談であるが、「英語勉強しろ!」という人ほど英語力が低いのと、「本をもっと読め!」という人ほど読書量が低いのはどこか似ている。
(2)に意義があるのは、そのおかげで本書が読むに足りる一冊となっていること。一言で済むことを一冊にするためには、役に立つだけでは駄目で、面白くなければならない。しかし世の社長達は忙しく、とてもじゃないが本業でもない本を書いている暇などないのだ。いきおい世の社長本というのは名義だけをゴーストライターに貸した一冊になりがちで、売れたとしても本棚の飾りで終わることがほとんどだが、本書は違う。あくまでたまたま元外資系社長だった本好きの成毛眞という一個人が自分の言葉で語っている。
久しぶりに目次を引用しよう。第一章だけ項まで。
目次- 第1章 本当に英語は必要なのか
- 頭の悪い人ほど英語を勉強する
- 創造力のない人ほど英語を勉強する
- 本当に英語が必要なのは1割の人
- 英語を話せなくても罪悪感を抱くな
- 語学に「備え」は通用しない
- 「英語ができない日本人」というデータに騙されるな
- 日本人は英語に対してお人よしすぎる
- 英会話スクールのカモになるな
- 早期英語学習は無意味である
- 自信がないなら通訳を雇えばいい
- 第2章 英語を社内公用語にしてはいけない
- 第3章 本当の「学問」をしよう
- 第4章 日本の英語教育は日本人をダメにする
- 第5章 英会話を習うより、本を読め!
- 第6章 それでも英語を勉強したい人へ~成毛流英語学習法
英語フルボッコである。現役社長にはとても出来ない真似だ。いや、厳密には著者は現在自分の会社を持っているので現役社長でもあるのだが。
で、残り1割である。別に「元社長が英語を勉強しなかったおかげで宇宙天啓データベース G.2 と、断続的な絞首刑が発生するのか」ということではない。
それでは「英語はいらない」ものとして、「本を読め」ば9割の人に十分なのか、ということである。
それを是とするためには、以下をどげんかせんといかんのだ。
404 Blog Not Found:This one works! - 書評 - 3語で9割通じる英会話今までは、英語が話せると給料がアップする時代だった。これからは、英語が話せないと給料をもらえる仕事につけないという時代が来る。好む好まざるとに関わらず。
Egg and Mentaiko Bukkake Udon 見てぶち吹いた RT @pishida ついに社食のメニューまで英語化された…今のペースでやってたら全く追い付かなそうだな…
これを著者や私が一笑に付せるのは、著者や私が本書で言うところの「残りの一割」に属しているからだ。しかし残りの九割は、笑ったら首になりかねない立場にいるのもまた事実。
「だったら首になっても平気な社会にすればいい」というのが、拙著「働かざるもの、飢えるべからず」の主張である。
一見英語とは何の関係もない主張に思えるが、「社内公用語化」「小学校での英語義務化」「TOEIC絶対視」…が「待ったなし」に感じられるようになった背景には、全世界的な二極分化がある。
残り九割の持ち分が減る一方の世界では、いくら「9割に英語がいらない」と言ったところで、その9割が残り1割を蜘蛛の糸のごとく争うのは無理もないではないか。ましてや、その主張が残り1割の人から発せられたとあれば。
「なにものにもなれない9割」が、生存戦略で悩んでいるうちは、それがいかに「ピングドラム」ばりに意味不明かつ不条理なものであっても「英語を手に入れるのだ」ということになってしまうのだろう。
「英語はできても、バカはバカ」。本書のオビの言葉である。バカという言葉にはアホとは異なる意味があることは以前紹介した。バカをバカにするのは容易く、愉しくすらある。しかし「会社がバカを求めるなら、バカになるしかないじゃない!あなたも、わたしも」と言われても、著者も私もせいぜい自著をすすめる以上のことは出来ないしする気もない。
わざわざ、このような英語圏の人と同類に成り下がる必要はない
が真になるためには、
現在、世界で起きている問題のほとんどは欧米発である。リーマンショックのせいで世界中を不況に陥れ、世界一化石燃料を消費して地球環境を破壊し、世界一戦争を起こしているのもアメリカである。
という状況を変える必要がある。「残り一割が必要な人のための英語」は、そのように発揮されるべきだろう。それが著者の願いでもある。というわけで本書も引用したのとは別のマハトマの言葉で本entryを締めくくりことにする。
Be the change you want to see in the world. -- Mahatma Gandhi
Dan the Nullingual
See Also:thx > id:shunsuk
日本の歴史には、日本の上流階級が本気でラテン語を扱った歴史が欠けている。当然、ヨーロッパ語の教養は貧困極まりない。
日本人がそこそこ英語を使えるようになるには、日本の医学や自然科学や法律学の博士号取得者たちが、ラテン語古典をそれなりに読み通せるようになる必要があるかもね。
そういう重厚な日本になれば、日本人の英語の水準もずいぶん向上すると思うよ。
なお、蘭学の祖の前野良沢先生は、オランダ語を自力で習得しただけでなく、ラテン語にも堪能だったそうです。