都市生活で脳は「ストレスに弱く」なる:研究結果

自分の点数はほかの人と比べて並外れて低いという偽のフィードバックを与えられ、指導員から非難のまなざしが浴びせられる等の「社会的ストレス」テストが行われた結果、都市に住む人の脳は田舎に住む人より、その影響を受けやすいことが分かった。
都市生活で脳は「ストレスに弱く」なる:研究結果

PHOTOGRAPH BYGeoff Wilson/Flickr

群衆や雑音やプレッシャーが高い都会生活は、しばしば脳に過度の緊張を与えるようにみえるが、実際にそのとおりのことが起こっているようだ。

ドイツの大学生を対象にした研究によって、都会に住む人の脳は、田舎に住む人に比べて、ストレス、なかでも社会的ストレスの影響を受けやすい傾向にあることが明らかになった(論文は6月23日付けの科学誌『Nature』で発表された)。

マンハイムにある精神医学中央研究所の精神科医、アンドレアス・マイヤー=リンデンベルクらの研究チームは、まずは大学生の男女各16名を対象に、都市部と非都市部を比較した実験を行った。

実験に先立って、学生たちの心拍数や血圧、ストレスホルモンのレベルが測定された。都市部と非都市部の学生で、これらの測定値に有意な差はなく、また、気分や性格の面にも特段の違いはみられなかった。

実験では、学生たちはfMRI(機能的磁気共鳴画像)装置で脳をスキャンされながら、コンピューターによる数学のテストを受けさせられた。テストは社会的ストレスを感じるつくりになっていた。つまり、正解するごとに問題の難度が上がっていくが、学生たちはみな、自分の点数が並外れて低いという「偽のフィードバック」を与えられた。テストの指導員からは非難のまなざしと、こんなものは時間と金の無駄遣いだとぼやく声が浴びせられた。

実験の結果、都市部の学生たちは、非都市部の学生たちと比べて、脳の2つの領域において活動量の増大を示していた。その領域とは、感情やストレスの処理を担う扁桃体と、扁桃体を制御する前帯状皮質の脳梁膝周囲部(perigenual anterior cingulate cortex)だ。この結果は、都市生活者の脳が、社会的ストレスに対して過剰に強く反応したことを示している。つまりは、ストレスに過敏になっていたということだ。

マイヤー=リンデンベルク氏のチームは、この実験をさらに2度繰り返し、計70名余りの学生を調査したが、見出される傾向は毎回同じだった。そこで、学生の年齢や学歴、収入、結婚や家庭状況、気分や性格との関連が調べられたが、これらの要素を考慮に入れても、傾向に変化はみられなかった。

扁桃体の活動量の比較。IMAGE COURTESY OF NATURE

さらには、学生の住んでいる都市が大きいほど、扁桃体の活動量も大きかった。また、幼少時に都市部に住んでいた期間が長いほど、帯状皮質の活動量は大きかった。先行研究では、帯状皮質は特に幼少期に受けるストレスに敏感であり、帯状皮質に生じる変化は、成人後の心理的問題に関連しているとされている。

また、帯状皮質と扁桃体との間のコミュニケーションも、都市生活者のほうが効率性に劣るようだ。カリフォルニア工科大学の神経生物学者、ダニエル・ケネディとラルフ・アドルフスは、今回の論文の付随論評において、遺伝的に精神疾患になりやすい人にも同様の傾向がみられると指摘している。

「これらを考え合わせると、今回の研究結果は、帯状皮質と扁桃体の回路は、精神疾患の遺伝リスクと環境リスクが収斂する可能性があるポイントのひとつであることを示唆している」と彼らは書いている。

マイヤー=リンデンベルク氏の研究は、都市生活が社会的ストレスを介して精神的な問題につながりやすいというリンクを、直接的なデータとして示したものとしては初めてのものだ。

これまでの研究で、都市生活者は不安や気分障害の率が高いこと、統合失調症になる率は都市で育った人のほうが2倍近く高いことなどが指摘されている。多くの研究者が、これらは単なる相関関係ではなく因果関係であること、遺伝の結果ではないこと等を指摘しており、直接の原因は明らかではないとはいえ、都市における社会的関係がひとつの原因である可能性がある。都市では社会的関係が多く、ストレスの高いやりとりに遭遇する確率も高いため、居住者は常に防衛的になる必要がある。ストレス過多の環境で脳の状態が変わるため、精神的な問題も発症しやすくなるのかもしれない。

ただしマイヤー=リンデンベルク氏らは、精神疾患を引き起こす要因として最も可能性が高いのは社会的ストレスだが、その他の要素、例えば、環境汚染や人口過密、あるいはまだ分析されていない人口統計や社会経済上の要素も関与している可能性があると述べている。

TEXT BY BRANDON KEIM

TRANSLATION BY TOMOKO TAKAHASHI, HIROKO GOHARA/GALILEO