出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

出版状況クロニクル44(2011年12月1日〜12月31日)

出版状況クロニクル44(2011年12月1日〜12月31日)

今回はリードとして、少し長くなってしまうが、以下の一文を掲載する。本クロニクルの読者であれば、これがその要約であるとただちにわかるだろう。ただこれは『東京新聞中日新聞)』(12/11)の「出版この一年」への寄稿なので、まだ目にふれていない読者も多いと考えられるからだ。

 
  日本の出版業界はかつてない深刻な危機の中にある。あらためていうまでもないが、出版業界はそれぞれ生産、流通、販売を担う出版社、取次、書店によって形成されている。しかし出版というと、どうしても出版社と本に焦点が当てられ、これまで流通や販売の視点からの総括はほとんどなされてこなかった。
 だが今年は東日本大震災による被災書店の問題にふれずに出版業界に関して語れないし、出版そのものが大震災前/大震災後を経て、新たに問われる状況に入っていると思われるからだ。
 まず被災書店状況であるが、日本出版取次協会によれば、東北を中心にして800店近くに及び、被災返品総額は16億円とされている。これに取次在庫と原発事故区域内商品の4億円を加えても、当初見積られていた50億円に比べれば、半分以下だったことになる。しかしこれらは被災商品だけであって、営業停止、廃業も100店ほどを数えるという事実からすれば、さらに店舗などの他にも、金額に算定できない多くのものが失われてしまったのである。
 それに東北の書店数はこの10年間で半減し、昨年の東北ブロック大会において、現在の取引制度に関する急速な改革声明を発したばかりで、この危機に重なるように東日本大震災に見舞われたのである。返品処理は終わったにしても、まだ困難な道が続くであろうが、平穏な日常の速やかな回復を願って止まない。
 しかし書店数の半減は東北特有の現象ではなく、全国各地で起きている共通のもので、それは日書連加盟書店数の減少に如実に表れている。1986年の1万2935店をピークにして今年は4946店となり、ついに5千店を割りこんでしまった。つまり80年代までは全国の商店街に書店があり、店売と外商を兼ねた販売を通じて、出版社や取次の生産と流通を支え、出版業界の戦後の繁栄を担ってきたといえる。だが80年代における郊外消費社会の出現によって、全国各地の商店街は壊滅状態に追いやられ、それは書店も例外ではなかった。
 そして90年代に入って、レンタルを兼ねた複合店の全盛、ブックオフに代表される新古本産業の誕生と成長、公共図書館の増加などを背景にして、商店街の中小書店は閉店や廃業に追いやられるプロセスをたどった。
 だがそれは今世紀に入っても続き、勝ち組のように見えた郊外店や複合店も、大手ナショナルチェーンの活発な出店と大型化、郊外ショッピングセンターの出現を受け、かつての商店街の書店と同様の道をたどりつつある。そして現在ではサバイバルしてきた地場書店と、大手ナショナルチェーンの大型店との最後の攻防の段階に入っている。このような80年代からの書店状況をダイレクトに反映し、日書連加盟書店数のつるべ落とし的な減少があったことになる。
 しかし問題なのはそのような書店状況とパラレルに起きた、これもまたドラスティックな出版物販売額の減少である。出版科学研究所によれば、その販売額は96年の2兆6564億円をピークとし、2010年には1兆8748億円と、この14年間に3分の1近い約8千億円が失われてしまったのである。今年はさらに1兆8000億円前後まで落ちると推定される。これは日書連加盟書店数の減少とほとんどパラレルだと見なし得るだろう。
 もちろんそこには出版業界特有の再販委託制の問題が横たわっているのだが、この事実は90年代以後の書店の複合化、大型化、ナショナルチェーン化が出版物売上高の上昇に結びつかず、多くの中小書店を失ったことで、むしろ減少を招いたことを意味している。これが出版業界の失われた10数年の内実だと断言していい。
 しかもこれは日本だけで起きている特異な出版危機で、欧米の出版業界はネット販売や電子書籍問題を同様に抱えていても、この10数年間ずっと成長し、日本のような危機に陥っていない。それゆえに日本の出版危機はその歴史と構造、流通システムの破綻がもたらしたものに他ならず、そのような視点からこの危機を直視し、早急な改革へと向かっていかない限り、さらに出版業界の危機は深まっていくであろう。


1.出版物販売金額に関しては出版科学研究所のデータを主として使ってきたが、日販とニッテンによる「販売ルート別推定出版物販売金額」も出されたので、それも示しておく。『出版ニュース』(12/上)、『新文化』(12/8)収録。

■販売ルート別推定出版物販売額 10年間推移(百万円)
書店CVSインターネット駅売店生協スタンド割販合計
20011,655,258490,079105,34550,49731,9877,0002,340,166
20021,628,944489,27696,36650,50030,1967,0002,302,282
20031,619,201463,83192,25450,00028,6565,9002,259,842
20041,624,879447,09181,18748,96927,7113,2002,233,037
20051,603,619439,17174,87347,50026,6852,9342,194,782
20061,596,433425,32667,63842,23125,0582,4422,162,636
20071,501,878382,21793,20067,64442,00023,2302,110,169
20081,467,849354,654101,20063,60541,60021,5572,050,465
20091,426,829312,413113,40059,52940,76820,3071,973,246
20101,401,681285,984128,50053,39739,77319,2911,928,626

[出版科学研究所が出荷、こちらは実売データに基づいているので、金額の差異は生じているが、そのスパイラル的マイナスはまったく同様である。

この推移から明らかなのは、CVS、駅売店、スタンドルートの落ちこみであり、これは雑誌の凋落を如実に告げている。

とりわけ顕著なのは駅売店=キヨスクの減少で、この10年間でほぼ半分になってしまっている。この売上はほとんど雑誌とみていいわけだから、近年に至って、雑誌が電車の中で急速に読まれなくなった事実を伝えている。

雑誌を電車の中で読むという習慣の全盛も、高度成長期から半世紀を経て、衰退しつつあること、携帯電話にとって代わられたことを事実として受け止めるしかない状況を、駅売店=キヨスクの販売額推移はあからさまに示している]

2.トーハン、日販の2011年の年間ベストセラーが発表された。10位までを示す。なお日販の−は正続を合わせてカウントしているためで、順位に変わりはない。

トーハン・日販 2011年 年間ベストセラー
(集計期間:2010年12月1日〜2011年11月30日)
トーハン日販書名著者名出版社名
1謎解きはディナーのあとで東川篤哉小学館
2体脂肪計タニタの社員食堂タニタ大和書房
3続・体脂肪計タニタの社員食堂タニタ大和書房
43心を整える。長谷部誠幻冬舎
54もし高校野球の女子マネージャがドラッカーの『マネジメント』を読んだら岩崎夏海ダイヤモンド社
68人生がときめく片づけの魔法近藤麻理恵サンマーク出版
75KAGEROU齋藤智裕ポプラ社
86くじけないで柴田トヨ飛鳥新社
97老いの才覚曽野綾子ベストセラーズ
10謎解きはディナーのあとで(2)東川篤哉小学館
119ニッポンの嵐 ポケット版 M.Co.発行/角川グループパブリッシング発売
1410新・人間革命(23)池田大作聖教新聞社
 1謎解きはディナーのあとで(1,2)東川篤哉小学館
 2体脂肪計タニタの社員食堂
続・体脂肪計タニタの社員食堂
タニタ大和書房

謎解きはディナーのあとで 体脂肪計タニタの社員食堂 続・体脂肪計タニタの社員食堂 心を整える。 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 人生がときめく片づけの魔法 KAGEROU
くじけないで 老いの才覚 謎解きはディナーのあとで(2) ニッポンの嵐 ポケット版 新・人間革命(23)

[少し不遜なことを言わせてもらえば、この表は貧しい日本の現在の本の実態をさらしてあまりある。ここに日本の出版業界がたどりついたひとつの帰結が露骨に示されている。

コミックやアニメの場合、クールジャパンの声とともに海外進出、展開が計られているが、これらのベストセラー本は翻訳して輸出することはできないだろうし、日本だけで閉じられている現象の反映に他ならないように思われる。例えば『謎解きはディナーのあとで』が翻訳されたとしても海外で読まれるとは考えられない。

この数年の欧米のミステリーのベストセラーは、スティーグ・ラーソン『ミレニアム』であり、今年はアメリカでも新たな翻訳が出され、ベストセラーになっている。実際に読んでみると、『ミレニアム』はミステリー、作品、小説として優れたもので、私も本ブログ「ゾラからハードボイルドへ」27で、オマージュめいた「スティーグ・ラーソン『ミレニアム』」を書いている。

しかし日本において、
『ミレニアム』はベストセラーになっていない。これもまた日本だけの現象であるのかもしれない。最近になって文庫化もされたので、未読であれば、それこそ正月の読書に選んでほしいと思う]

ミレニアム1上 ミレニアム1下

3.出版科学研究所のデータによれば、11月の出版物販売推定金額は前年比4.7%減の1409億円である。1月から11月の累計は同比3.8%減となり、通年では700億円マイナスのの1兆8050億円前後となる見通し。

11月までの内訳を記せば、書籍は前年比0.2%減、雑誌は同6.6%減、そのうち月刊誌は同6.0%減、週刊誌は同8.7%減。

[本クロニクルでも11年の出版物売上高は1兆8000億円前後と推定してきたが、その予測がほぼ当たってしまったことになる。

書籍はミリオンセラーの続出で前年並みの8200億円前後だが、雑誌は670億円減で、9850億円前後とついに1兆円を割りこんでしまった。

雑誌の1兆円割れは1984年の水準に戻っている。

返品率も書籍37.8%、雑誌36.3%で、雑誌の凋落がこのまま続けば、40%を超える返品率も生じてしまうかもしれない。

本当に後のない出版状況へと追いこまれていることを、これらの年末のデータは如実に知らしめている]

4.紀伊國屋書店と有隣堂の決算が発表された。

紀伊國屋は売上高1098億円、前年比2.8%減。当期純利益は3億2914万円、同64.5%増。

有隣堂は売上高506億円、前年比6.6%減。当期純利益は1億9400万円、同280.7%増。

[両社とも所謂減収増益決算ということになるが、08年と比べると、紀伊國屋は100億円、有隣堂は40億円の売上高マイナスになっている。

書店の場合、基本的には売買差益による硬直的な利益構造に支えられているので、売上が増えなければ利益も上がらない業態である。それゆえに減収増益決算を続けることには無理があり、様々なリストラによってかろうじて可能な決算ということになる。

そうした構造の改革がなければ、両社とも減収はまだ続くだろう。だがおそらくいつまでも増益を保つことはできなくなるはずだ]

5.トーハンと日販の中間決算も発表された。

トーハンは売上高2385億円、前年比4.1%減、純利益12億円、同3.5%減の減収減益。

日販は売上高2863億円、前年比3.1%減、純利益11億円、前年比67.1%増の減収増益。


と同じように08年と比べてみると、トーハンは352億円、日販は223億円のマイナスである。これは半年間の数字であるから、通年で考えれば、両社も書店と同様に、出版物売上高の凋落を反映し、10数年間にわたる減収を続けてきたことになる。

2000年には両社とも通年で8000億円を超える売上高があったわけだから、取次もまたドラスティックな試練にさらされてきたことは明白だ。
とりわけトーハンの場合、それらを象徴するかのように「良識ある東京出版販売株式会社株主一同」による「怪文書」が出回り、経営陣を名指しで非難する内部告発までが行われる事態になっている。

しかしその内容は「伝統ある社名を大金を出してカタカナに変え」、何の商売かわからなくさせ、日販に「総合売上げ第一位」と「雑誌の東販」の座も奪われ、「老舗書店をないがしろにし、数多くトーハンから離反させ」、「出版業界縮小の最大要因となった」という指摘も含まれ、リアルこの上ない。

危機に追いやられているのは出版社や書店だけでなく、取次も同様なのだ]

6.CCCによる大型プロジェクト代官山蔦屋書店が、旧山手通り3棟1200坪の売場面積に14万点を揃え、12月5日オープン。

[代官山蔦屋書店の開店に関して、店内に設けられた雑誌バックナンバー展示をめぐるiPad 閲覧サービスが問題となり、それが先行して、開店売上状況などについての報道がまったくなされていない。CCCの鳴り物入りプロジェクトであったはずなのに、どうしてなのだろうか。

取次のMPDは中間決算で、売上高1018億円、前年比1.7%増、純利益6億円、前年比43%増を発表しているが、日販やMPDにとっても代官山蔦屋書店は大型複合店プロジェクトとして試金石であり、これからのレンタルの行方を占うモニター店にも位置づけられるはずだ。

それゆえにCCCにとってもMPDにとっても、この開店は極めて重要であると考えられるのだが、かえって情報の少なさが気にかかる。どなたか詳細なウォッチングを試みてほしい]

7.ゲオの内紛を伝えてきたが、関連会社をめぐる不正支出の問題の発覚と調査により、創業メンバーの沢田喜代則会長などが退社。

[出版業界も来年が正念場のように思えるが、DVDレンタルも含んだ複合店の動向も同様ではないだろうか。

ゲオによって仕掛けられた100円レンタルは今年もずっと続いてしまったし、全店ではないにしても、50円レンタルも導入され、それに合わせるしかないTSUTAYA も100円レンタルが定着して久しい。もはや旧料金に戻すことは不可能な状況に陥っている。

それは雑誌とレンタルを主力としてきた複合店、特にフランチャイズ複合店の収益を悪化させ、このビジネスモデルの行き詰まりを告げていよう。

ゲオとトーハンの提携も旧経営陣のもとで行なわれたものであるし、このような社内問題とレンタル状況を背景に、両社の関係にも影響が出てくるだろう。

なおゲオの問題については『FACTA』を参照してほしい]

8.小学館の学習雑誌『小学三年生』『小学四年生』が来年3月号で休刊。

[他の学年誌と同じく、両誌はいずれも大正時代の創刊で、一世紀近い歴史を有し、かつては100万部近い発行部数を記録していたが、近年は3万から5万部になっていた。

『小学五年生』『小学六年生』は昨年休刊しており、残るは『小学一年生』『小学二年生』の二誌になり、こちらも休刊は時間の問題だろう。

このようにして、学年誌から始まった小学館は、啓蒙雑誌からエンターテインメントの雑誌、コミック出版社、不動産運営管理会社へと完全に転換していくのであろう]

小学一年生 小学二年生 小学三年生 小学四年生

9.こちらは休刊ではないが、徳間書店の『問題小説』が1月号より『読楽』と改題し、PR誌『本とも』、年3回刊行の『SF JAPAN』も吸収し、総合エンターテインメント誌へと転換。

『問題小説』の創刊は1967年で、『オール読物』『小説新潮』『小説現代』に続く中間小説として、44年にわたって刊行されてきた。
だがこの改題はそうした中間小説誌の一角が崩れ始め、中間小説の時代が終わりつつあることを告げているのだろう。
コミックとライトノベルの隆盛は、これらの小説雑誌とリンクしておらず、近年の売れ行き部数の凋落も伝えられて久しい。休刊にならないにしても、『問題小説』的リニューアルもこれから起きてくるだろう]

問題小説12月号 読楽1月号 オール読物1月号 小説新潮1月号 小説現代1月号

10.角川書店から夢枕獏の小説『秘帖・源氏物語 翁―OKINA』が単行本、文庫、電子書籍の3形態で発売された。価格は単行本が本体1500円、文庫が同590円、電子書籍は税込み希望小売価格609円。

[本クロニクルでも既述してきたが、昨年10月の村上龍の『歌うクジラ』から始まって、新作の電子書籍での刊行も増えてきている。

だが発売時には著者も、タイアップ宣伝も兼ね、電子書籍出版に関する会見を開いたり、見解を公表しているのに、その売れ行きや反響についての報告はほとんどなされていない。

書籍スキャン事業者に対する提訴は大きく報道されているが、正規の小説の電子書籍出版の結果について、何の言及もないのはどうしたことなのだろうか。そういえば、電子書籍出版で読んだ上での書評というのも目にしていない。大半が売れないという結果に終わってしまったゆえなのだろうか]

単行本 文庫 歌うクジラ

11.けやき出版から津野海太郎の『図書館の電子化と無料原則』というブックレットが出された。これは「特定非営利活動法人共同保存図書館・多摩」の第4回年次記念講演をまとめたもので、津野は講演時に理事、後に顧問に就任しているようだ。

[津野は同書において、次のような問題を提出している。

「図書館はなぜ無料なのか?

『売り買いの社会』にあって、なぜ図書館だけが公然と、商品としての本をタダで貸すことができるのか?」。

彼はこの問題を自分の問題として考え、戦後のアメリカ軍占領下の図書館法発布によって、アメリカ公共図書館の仕組みにならって無料原則が導入されたことをまず明らかにしている。

そして津野自身が派手な図書館利用者で、もし有料になったとしたら、自分の蔵書問題、読書、調査、研究などの「ささやかな知的営みのすべては一気に崩れてしまう」し、「すべての図書館利用者がいやおうなしに同じ状態に追い込まれてしまう」。

そうすると、社会の質の確実な低下、本の売れ行きの落ちこみ、産業としての出版基盤の崩壊につながるので、公共図書館と無料原則は必要で、そこから近代の公共図書館運動も始まっている。だから本が「商品」ではなく、無料の「公共資産」として、作家や出版社も例外として認めざるを得なくなり、そのことによって、出版産業と公共図書館が互いに支え合い、二十世紀という本の文化の黄金時代を創り出した。

これが津野の意見の簡略な要約だが、さらなる詳細は同書を読んでもらうしかない。この延長線上に、彼は電子図書館も無料であるべきだと主張している。

この図書館と電子書籍問題に関して、アメリカでは出版社と図書館の間にあらたな動きが生じていて、それは日本へも波及してくると思われるので、そのことも記しておきたい。

『ニューヨーク・タイムズ』(12/24)“Publishers vs. Libraries : An E-Book Tug of War” を発信している。これも簡略にレポートすれば、キンドルやヌークなどのブックリーダーと電子書籍の急速な普及に伴い、公共図書館の電子書籍部門の貸し出しが急激に増加している。これは利用者にとって紙の本を借りたり、買ったりすることよりもきわめて簡単で、図書館のほうがからすれば、電子書籍は一部を買うだけでそれを多数の利用者に一度に貸し出しできるために、出版社にとって最大の悩みの種になってきている。それは出版社や著者にとっても本が売れなくなることを意味しているから、現在の大半の大手出版社は図書館に対して、電子書籍貸し出しのルールを作ろうとしているが、カルテルになってしまうことから足並みが揃っておらず、また一方で売れ筋の電子書籍を図書館に販売することをためらう状況を招来している。

津野の論にしても、『ニューヨーク・タイムズ』の記事にしても、短文では意を尽くせないし、私見も差し控えているので、興味ある読者はぜひ両者を読んでほしいと思う。

なおこれらの問題は、これも出されたばかりの高須次郎
『グーグル日本上陸撃退記』(論創社)と密接にリンクしている。それゆえに電子書籍をめぐる三点セットとして読まれるべきだろう]

図書館の電子化と無料原則 グーグル日本上陸撃退記

12.10月に現代書林の元社長、元社員、現役編集社、ライターの4人が突然逮捕された。それは10年ほど前に出された「水溶性キトサン」に関する本が薬事法違反容疑に問われたことによっている。

[これは全国誌でも報道されたが、現代書林の坂本桂一社長のインタビュー「薬事法違反の逮捕は不当」(『新文化』12/8)、篠田博之によるレポート「薬事法違反容疑で『現代書林』逮捕事件の行方」(『創』1月号)を読むと、なぜ事実上絶版になっている10年前の本が罪に問われ、4人も逮捕される事件になったのか、釈然としない。

このような提携、買い取り出版は多くの出版社が手がけているものであり、その意味において、現代書林のような事態は多くの出版社にも起こり得るとも考えられる。そればかりでなく、言論、出版の自由とも関わってくるので、12月27日から始まるという裁判も続けてレポートしてほしい]
創 1月号

13.元現代思潮社の石井恭二が亡くなった。

[今年は戦後の出版史に語られるべき何人もの出版者が亡くなり、本クロニクルも追悼の意を述べてきたが、その列に石井も加わってしまった。

石井は小宮山量平が創業した理論社の編集者を経て、現代思潮社を創業している。当時の理論社は社会科学書の出版社で、その同僚はリブロの小川道明であり、戦後の特異な出版人脈を伝えている。

私たちの世代にとって、現代思潮社の「花には香り 本には毒を」というキャッチコピーは忘れ難い。だがそのような時代もはるかに過ぎ去ってしまったことを石井の死は想起させた]
花には香り 本には毒を

14.洋泉社の創業者である藤森建二が『洋泉社私記―27年の軌跡』を刊行した。

[藤森が2010年に洋泉社の代表を辞任したことを機にして編まれた「私記」であるが、巻末に同社の「刊行図書総目録1985−2010」も収録され、本文の詳細な記録とともに出版史の貴重な資料となっている。

本クロニクルでもすでに紹介した洋泉社の、やはり退職した編集者小川哲生の
『わたしはこんな本を作ってきた』と併読すれば、さらに興味深い。念のため発行所を記しておく。

大槌の風 〒205-0003 東京都羽村市緑ヶ丘4−12−24
E-mail : ukentoraアットマークt-net.ne.jp(アットマークは@に置き換え)
電話、FAX : 042−554−5464 ]

わたしはこんな本を作ってきた

14.「出版人に聞く」シリーズ〈11〉として、小田原の古書店、高野肇へのインタビュー『小田原の貸本屋と古本屋』(仮題)を終えた。
拙著『出版状況クロニクル3』は今月末に刊行予定。


《既刊の「出版人に聞く」シリーズ》

「今泉棚」とリブロの時代 盛岡さわや書店奮戦記 再販制/グーグル問題と流対協 リブロが本屋であったころ 本の世界に生きて50年 震災に負けない古書ふみくら 営業と経営から見た筑摩書房

以下次号に続く。


 


以下次号に続く。