■【タレントの育て方】表現者であるということ | たかみゆきひさオフィシャルブログ「shadowcube」Powered by Ameba

■【タレントの育て方】表現者であるということ

さて

昨年は芸能生活25周年ということで、いろいろと書いてきましたが、忙しくて年内に書ききれませんでした(>_<)
実はブログの下書きにはたくさんの項目が途中のままストックされてるのだががががが…
年をまたいでしまいましたが、そのうちゆっくりと完成させて行きます~。


学生の頃、自分はあまりの忙しさで人の何倍も濃い人生を送っているなぁって思ってたけど、25年以上経った今でもそれはまるで変わってない。
いやはや…。
何足ものわらじを履いて、それぞれが実は同一人物でした~って公言したのはまだここ数年。
それをカミングアウトすることでいくらか楽にはなりましたが、以前は隠したまま(というか特に言わずに)それぞれの業界で平行して仕事してたので結構大変でしたあせる
この泳いでないと死んでしまうマグロやサメのような生活はたぶん一生変わらないんだろうなぁ。


さてさて、話を戻しますよ。

同じ業界でも例えば芸能界では表稼業も裏稼業(笑)も同時にこなし、メジャーシーンとマイナーインディーズシーンも同時に仕事して、さらに送り手にいながら実は受け手としてファンに混じっても楽しんでたり、ひとつの業界だけでもかなりの顔を持って仕事してました(ファンとして同人誌もたくさん書いた&描いたなぁ)。
あ、裏稼業と言っても悪いことはしてませんよ(^^;)
華やかな業界には表からは見えない、影で支えるべきことがたくさんあるのです。
縁の下って言った方が近いかも。

そんな誰よりも濃くてバラエティに富んだ経験はとても貴重なものであり、いまの自分の仕事にももちろん大きな影響を与えています。

そうやって培った25年の濃~いノウハウによってうちの子たちは育てられています。


ということで、前置き長かったけど、今回は自分なりの「タレントの育て方」の話。
これも昨日書いた「本質論 」に基づいてます。


以前「オーディション! 」という記事の中で

タレントは本質的には“表現者”である

ということを書いた。
これは実はタレントでなくても絵描きや彫刻家、小説家などにも言えること。
ということで
オーディション! 」の記事の中では長くなるのでということで書けなかったことの続きを書いてみたいと思います。


自分がいろいろやってきて、そしてたくさんのアーティスとと関わってわかった事としては、これらの職業は業務内容は違えど、実はやっていることは全て同じ作業なんだっていうこと。

先に答えを言っちゃうと

脳ミソでイメージしたことをアウトプットする

という作業です。
これは全ての業務に共通します。
そしてタレントとしてはそれが個性に直結するので、非常に重要かつ根本的なコアの部分になります。

そして、もうひとつ大事なこと。
このコアが形成されないと各職業をこなすためのスキルもきちんとは備わらない。

うーん、抽象的過ぎてちょっとわかりづらいですね。


例えば


歌手を目指すとします。
歌手は脳ミソに浮かんだイメージを「口から出る歌声」という手法(技法)を用いて表現する表現者です。
それを演技で表現するのは俳優、絵で表現するのは画家です。

一般的に考えると歌手を目指すためにまず何をするかというと、ボーカルレッスンですよね。
リズム感を養ったり、ステージで歌う時に必要と言うことでダンスレッスンもするかもしれません。
これらのレッスンは「口から出る歌声という手法の為の技術向上のレッスン」です。

でもね、実はこれは間違っているとは言いませんが、手始めにやるには実践的ではありません。

多くの人がなんでも最初は基礎をやらないといけないと教わっています。
そしてそれが一般常識だと言う意識が刷り込まれています。

しかし現実は違います。

脳ミソに浮かんだイメージがなければ口から出る歌声は抜け殻でしかありません。
そして技術ばかりを追うことでイメージすることに制限をかけてしまい、表現の幅を失います。

先に表現者としてのコアが形成されれば「技術向上の為のレッスン」は飛躍的に身につきます。
身につくことで表現の幅がどんどん広がっていきます。
だから僕は技術向上のレッスンよりも表現者としてのコアの形成を最優先します。
表現者としてのレッスンは「精神の向上」です。
精神的なベースなくして技術は備わりません。
備わったとしてもそれはうわべな付け焼き刃でしかないのです。
そしてコアがなければレッスンにくじけて夢をあきらめてしまうかも知れません。

スポーツで言えば「心技」または「心技体」。
「心」が無ければ「技」は備わらない。
その「心」が僕の言うコアです。

人間はなぜか技術にばかり目を奪われます。
技術だけを追求したものはただのロボットでしかありません。
人が生み出す表現は心の上に成り立つ技術によって形成されます。
その心がみんな違うから魅力的なのです。

人間は脳ミソに浮かんだことを100%アウトプットすることはできません。
いろいろな壁が立ちはだかってなかなか表現できない生き物なのです。
そして、人間はイメージができていないことはアウトプットできません。
イメージできないことは正しく表現できないし、実感できないことはイメージできません。
だからそれを100%に少しでも近づける訓練が必要です。
しかしそのためにはまず「イメージできるようになること」が大事です。


タレントを目指している子は目指している時点では素人同然なので、プロとしてやっていくということがどういうことなのかという実感やイメージは正しくはできていません。
むしろ大きな誤解をしていることが多いです、というか殆どが誤解。

自分は表現者のひとつであるタレントとしてどう思い描いたイメージをアウトプットするのがベストか、そのためには何が必要なのか、そしてそれは何故必要なのかなど最初から見えてる人はいません。
それをイメージさせるためには実戦投入して現場で覚えるのが近道ですが、その前に「コア」を備えていることがベスト。
ただし、そう簡単に「コア」は形成されないので、いろいろな事にトライしながら(そのひとつが実践投入でもあったりしますが)とにかく「コア」の形成を目指す。


僕は新人タレントを育てる時、「表現者としてのコアが形成されること」を別の言い方でこう言います。

タレントのスイッチが入ったら、その子はもの凄い勢いで伸びる
だからそのスイッチが入ることを目指しましょう


言われた子は殆ど最初ポカンです。
なので一応説明はします。
ある程度理解する子もいるし、わからない子もいます。
なるほどそっかぁって思う子は見込みがある。
でもね、アタマではわかっていてもなかなか簡単なことではないんです。
当たり前ですが、
そんなに簡単だったら誰でも簡単にタレントになれます

さっきも書いたけど、人間はイメージできないことはアウトプットできない。
スイッチが入った自分を正しく認識して正しくイメージできて、かつそれをアウトプットするスキルを備えないとスイッチは入らない。
殆どの場合何かの切っ掛けでポンとスイッチが入って、本人は入った後に初めてそのことを認識する。
入らないとわからないもんなんです。
そして入ってもわからないことがほとんどだったりもする。
だから我々はいち早くそれに気がついて対処する必要がある。

小倉唯も石原夏織もスイッチが入った時「スイッチ入ったでしょ?」って言ってあげて初めてそれを認識した。
本人には実はよくわからないけど、自分がスキルアップするスピードが異常に速くなっていることで初めてそれを自覚する。
スイッチが入ればとにかく後は早い。
だから我々大人がいかに早くスイッチが入るようにしてやるかということに注力する。
そしてタレント本人はスイッチが入ったあと、それに呼応できるように準備をしておくべき。


また、スイッチをいれてやることは大事だが、すぐに入るワケではない。
だから入るまでの間にやるべき事はやっておく必要がある。

それはスイッチが入るための修行でもあるし、入った時に迅速に次のモードに入れるように準備しておくことでもある。
具体的にどういうことかはここでは割愛します(え~~~~~)。
なんていうか、言葉でうまく表現できません。
そこは自分も表現者としてはまだまだなところです。
スタッフにも宮大工の棟梁と弟子みたいに背中見て学べとしか言えない。
実際にやっていることは普段やってることの様に見えるけど、実はそのさじ加減が結構あってそこには技術的なことも精神的なこともとにかく無意識のうちにタレントにいろいろな必要な要素を教え込む作業です。
これは無意識のうちに吸収されるのが良い。
こちらが意図的にやってると思われない方がきちんとその技術や精神は定着する。
だから本人達にはどうやってこうなったかはわからなかったりする。
要するに魔法みたいなもんです(おい!)。
でも本人の意識の中には「自分が頑張ったからできるようになった」という自信は確実に残る。
実はそれが最大のポイントかもしれない。
やったらきちんと成果が現れると実感させるのはとても大事なことです。


さて、
「表現者としてのコアの形成」を「タレントのスイッチ」という言葉に置き換えているわけですが、前述のようにタレントを目指している子はタレントの現実を知りません。
だから現実を知った時に別の道を目指すことも考え始めるかも知れません。
別の道というのはタレントを目指すのを辞めると言うことではなく、広いタレントというカテゴリの中でもどういうタレントかという方向性ですね。
歌手じゃなくて自分は俳優に向いてるんじゃないかとかね。
お子ちゃまだった時に思い描いた考え方は大人になって変わっていきます。
最初はちやほやされたいという理由で入って来た子でも歌が多くの人の気持ちを動かすことを実感して本格的に歌手を目指したり。
殆どの場合、最初に夢見ていたことが変わります。
そんな変革にも対応できるために「表現者としてのコアの形成」が大切です。

どういうことかというと
「表現者としてのコア」ができれば仮に方向を転換しても即対応できるようになるんです。
そしてそのコアが確立されればされるほど今度は「最初に夢見たことがやっぱりできるかも」と思えるようになってきます。
そうなればまた次の段階に進めます。


ゆいかおりの二人はスイッチが入ったらタレントとしてのスキルが著しく向上しましたが、同時に学校の成績も上がり、その他、色々な事が向上しました。
特に小倉唯の成長は著しく、なんでもこなしてしまうタレントになりつつあります。
なんでもこなせるというのはともすれば器用貧乏になってしまいますが、上手く導けばそれだけ表現の幅のあるタレントに成長できるということです。
「表現者としてのコアの形成」は一元的なものではなく、その子の様々な潜在的な可能性を引き出してくれるものなのです。


さてさて、
こうやって書くと「へぇ~」って思う人もいるかもしれないし、いないかもしれない。
なかなか理解してもらえないもんで、僕の手法は芸能界ではたぶん割と異端です。
芸能界で長い人たちには「それじゃダメだよ」とか普通に言われます。

昔からそうだし、アップフロントでもそうだった。
当時うちのスタッフでさえも「え?」って感じで賛同は得られなかったりしたこともあったけど、いずれにしてもアップフロントの中での新人教育としては異例の超スピードでタレントとして育ったことはみんな実感してくれたと思う。
(偉い方達にはたぶんわからないと思うけど^^;)


僕の所にオファーが来るのは大抵、新人開発か、売れなくて困った時か、殆ど終わってしまった人を再起させるとかそういう難題が多いのだけれど、どのプロダクションも表層の教育しかしていなくて「コア」が形成されてないことが多い。
だから「コア」を作ってやれば、そこからまたタレントとしての可能性が見えてきて新しい結果を出すことができる。




ということで、タレントとしてやっていくためには

表現者としてのコアを形成しましょう


と、同時に

コアが形成された時に即応できるように準備をしておくべし


補足
基礎訓練は大事なんですよー!!
でもそういう「コア」が備わらないまま基礎訓練をやってもある程度の技術はついても、着実には身にはつかないのではがれ落ちやすいものになってしまいます。