スイートスポットに投入される「Radeon HD 7800」シリーズを試す


 AMDは3月5日、Radeon HD 7000シリーズのハイミドルGPU「Radeon HD 7800」シリーズと、同シリーズ初の製品となる「Radeon HD 7870 GHz Edition」と「Radeon HD 7850」を発表した。今回、AMDよりRadeon HD 7800シリーズ搭載ビデオカードを借用できたので、ベンチマークテストで性能を探ってみた。

●Southern IslandsのハイミドルGPU「Pitcairn」

 今回発表されたRadeon HD 7800シリーズは、新アーキテクチャ「Graphics Core Next」(GCN)を採用した、AMDの28nm世代GPUファミリ「Southern Islands」のハイミドル向けGPUコア「Pitcairn」を採用する。

 Pitcairnコアは、GCNアーキテクチャ採用GPUとして既に採用製品が発売されているハイエンド向けGPU「Tahiti」と、ミドルレンジ向けGPU「Cape Verde」の中間に位置するGPUである。GCNアーキテクチャ採用GPUで新たに採用した第9世代テッセレータや、64基のStream Processors(SP)と4基のテクスチャユニットなどから成るCompute Unit(CU)を最大で20基備え、64bitメモリコントローラ4基による256bit幅のメモリインターフェイスでグラフィックスメモリと接続する。

 Tahiti、Cape Verde同様、PCとの接続インターフェイスにPCI Express 3.0を採用したほか、省電力機能の「AMD ZeroCore Power Technology」や、4K解像度(4,096×2,160)対応の映像出力(HDMI 1.4a 3GHz、およびDisplayPort 1.2 HBR2)など、GCNアーキテクチャで採用された新機能をサポートする。

Southern Islandsの製品群。Pitcairnは、ハイエンドのTahitiとミドルレンジのCape Verdeの中間に位置する
Radeon HD 7800シリーズの位置づけ。ハイミドルとして199ドル~399ドルの価格帯を担う
Pitcairnコアの特徴
Radeon HD 7000シリーズの機能比較

●「Radeon HD 7870 GHz Edition」と「Radeon HD 7850」の2製品が発表

 Radeon HD 7800シリーズの発表に伴い、同シリーズ製品として「Radeon HD 7870 GHz Edition」と「Radeon HD 7850」の2モデルが発表された。

 Radeon HD 7800シリーズの上位モデルとなる「Radeon HD 7870 GHz Edition」(以下HD 7870)は、Pitcairnコアが備える20基のCU全てが有効化されたモデルで、1,280基のStream Processors(SP)と80基のテクスチャユニットを備えるGPUコアは、GHz Editionの名が示す通り1GHzで動作する。メモリには1,200MHz(4.8GHz相当)動作のGDDR5メモリを2GB搭載し、一般的な利用環境でのボード消費電力は175W以下とされている。

 下位モデルの「Radeon HD 7850」(以下HD 7850)では、Pitcairnコアが備える20基のCUのうち4基が無効化されており、SPは1,024基、テクスチャユニットも64基に削減されている。GPUコアの動作クロックは860MHzで、メモリはHD 7870同様4.8GHz動作のGDDR5メモリを2GB搭載する。GPUコアのスペックダウンに伴い、ボード消費電力は130W以下に低下している。

【表1】Radeon HD 7800シリーズの仕様

Radeon HD 7870
GHz Edition
Radeon HD 7850Radeon HD 6870Radeon HD 6850
アーキテクチャGraphics Core NextVLIW4
プロセスルール28nm40nm
コアクロック1,000MHz860MHz900MHz775MHz
SP1,280基1,024基1,120基960基
テクスチャユニット80基64基56基48基
メモリ容量2GB GDDR52GB GDDR51GB GDDR51GB GDDR5
メモリクロック(データレート)1,200MHz(4.8GHz相当)1,200MHz(4.8GHz相当)1,050MHz(4.2GHz相当)1,000MHz(4.0GHz相当)
メモリインタフェース256bit
ROPユニット32基32基32基32基

7870と7850の比較

 今回、AMDよりHD 7870とHD 7850搭載のビデオカードを借用した。いずれもGPUやメモリのスペックはリファレンスボードに準拠したものだが、HD 7850については搭載クーラーやボードサイズがリファレンスボードとは異なっている。

AMDより借用したビデオカード。左がHD 7870、右がHD 7850HD 7870のリファレンスボード
ディスプレイ出力は、DVIとHDMI各1系統と、mini DisplayPort2系統HD 7870の電源コネクタは6ピン2系統
HD 7850のリファレンスボードディスプレイ出力は、DVIとHDMI各1系統と、mini DisplayPort2系統で、HD 7870と同等HD 7850の電源コネクタは6ピン1系統

●ベンチマークテスト ~ HD 6800シリーズ、GTX 560Ti/570と比較

 それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。今回、HD 7800シリーズの比較製品として、AMDの「Radeon HD 6870」(以下HD 6870)と、NVIDIA「GeForce GTX 570」(以下GTX 570)を用意した。また、HD 7700シリーズ検証時のデータから、「Radeon HD 6850」(以下HD 6850)と「GeForce GTX 560 Ti」(以下GTX 560 Ti)の結果を流用して比較している。

 その他の検証機材については、下記の表に掲載した。なお、用意した比較製品のうち、GTX 560 TiとGTX 570搭載製品については、GPUクロックがリファレンス仕様より高いオーバークロックモデルだが、テストにあたって動作クロックをリファレンス仕様に変更している。

【表2】テスト機材
GPUHD 7870
HD 7850
HD 6870
HD 6850
GTX 560 TiGTX 570
CPUIntel Core i7-2600K
マザーボードASUS P8P67 Rev3.0 (BIOS:2103)
メモリDDR3-1333 4GB×2 
(9-9-9-24、1.5V)
ストレージWestern Digital WD5000AAKX
電源Silver Stone SST-ST75F-P
グラフィックスドライバ8.95.5-120224a-134185E-ATICatalyst 12.1GeForce 295.51 Driver BETAGeForce 295.73 Driver
OSWindows 7 Ultimate 64bit SP1

HD 6850のリファレンスボードHD 6870搭載の玄人志向製ビデオカード「RH6870-E1GHD/BF3」
GTX 560 Ti搭載のASUS製ビデオカード「ENGTX560 Ti DCII/2DI/1GD5」GTX 570搭載のASUS製ビデオカード「ENGTX570 DCII/2DIS/1280MD5」

●DirectX 11対応ベンチマークテスト

 まず、DirectX 11対応ベンチマークテストの結果から紹介する。実施したテストは「3DMark 11」(グラフ1、2、3)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ4)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ5、6)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ7)、「Alien vs. Predator DX11 Benchmark」(グラフ8、9)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ10)だ。

 テストの結果を見ていくと、上位モデルとなるHD 7870はテストによってGTX 570と優劣が分かれる結果となった。NVIDIAへの最適化が進んでいる「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」ではGTX 560 Ti相手にも苦戦しているが、全体的に見ればGTX 570と互角以上の結果と言って差し支えない。HD 7850はGTX 560 Tiに対して同様の結果となっている。

 また、HD 7800シリーズの両製品は、多くのテストでHD 6800シリーズを大きく引き離している。Unigine HeavenやStone Giantなど、テッセレーションを多用するベンチマークソフトにおいて、HD 6800シリーズがテッセレーションの使用レベルが上がるにつれて大きくスコアを落としているのに対し、HD 7800シリーズは比較対象のNVIDIA製品ほどではないもののスコアの低下率が抑制されている。HD 6900シリーズの第8世代テッセレータ比で4倍以上のパフォーマンスを持つとされる第9世代テッセレータの効果が表れた結果と言えるだろう。

【グラフ1】3DMark 11 Build 1.0.3
【グラフ2】3DMark 11 Build 1.0.3(Graphics Score)
【グラフ3】3DMark 11 Build 1.0.3(Combined Score)
【グラフ4】Unigine Heaven Benchmark 2.5
【グラフ5】Stone Giant DX11 Benchmark(1,280×720)
【グラフ6】Stone Giant DX11 Benchmark(1,920×1,080)
【グラフ7】Lost Planet 2 Benchmark(DX11・テストタイプB)
【グラフ8】Alien vs. Predator DX11 Benchmark(1,280×720)
【グラフ9】Alien vs. Predator DX11 Benchmark(1,920×1,080)
【グラフ10】Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark

●DirectX 9/10対応ベンチマークテスト

 続いて、DirectX 9世代とDirectX 10世代のベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ11、12)、「BIOHAZARD 5 Benchmark DX10」(グラフ13)、「3DMark06 Build 1.2.0」(グラフ14、15)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ16)、「MHFベンチマーク 【大討伐】」(グラフ17)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ18)だ。

 DirectX 11系のベンチマークテスト同様、HD 7870はGTX 570と、HD 7850はGTX 560 Tiと互角か若干優勢な印象を受けるスコアを記録した。また、HD 7800シリーズは、ほとんどのテストでHD 6800シリーズを上回ってるが、唯一ファイナルファンタジーXIVでHD 7850がHD 6870に逆転されている。また、同テストではHD 7800シリーズのみ描画がカクつくシーンも見られるなど、ドライバ側の最適化が不十分であることが伺える。このあたりは今後のドライバアップデートでの改善に期待したい。

【グラフ11】3DMark Vantage Build 1.1.0
【グラフ12】3DMark Vantage Build 1.1.0(Graphics Score)
【グラフ13】BIOHAZARD 5 Benchmark(DX10・パフォーマンステストB)
【グラフ14】3DMark06 Build 1.2.0
【グラフ15】3DMark06 Build 1.2.0 高負荷設定(1,920×1,080、4x AA、16x AF)
【グラフ16】ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク
【グラフ17】MHFベンチマーク 【大討伐】
【グラフ18】Lost Planet 2 Benchmark(DX9・テストタイプB)

●消費電力の比較

 最後に消費電力の測定結果を紹介する。このデータは、サンワサプライのワットチェッカー「TAP-TST5」を利用し、各テスト実行中の最大消費電力を比較したものだ。

 アイドル時の消費電力は、HD 7850が比較製品中最も低い61Wを記録し、HD 7870が1W高い62WでHD 7850に次ぐ結果となった。

 一方、各テスト実行時の消費電力については、3DMark 11やファイナルファンタジーXIVなど、一般的な3Dアプリケーション実行時の消費電力については、HD 7870がHD 6870と、HD 7850はHD 6850とそれぞれ同程度の消費電力となっている。GPUに高負荷を掛け続けるOCCT 3.1.0実行時の消費電力については、HD 7850が155Wと比較製品中最も低い数値を記録し、HD 7870も195Wと200Wを切る消費電力となり、HD 6800シリーズとの差が開いた。

【グラフ19】システム全体の消費電力

●従来のハイエンドGPUに匹敵する強力なハイミドルGPU

 以上のテスト結果から、HD 7800シリーズが消費電力と3Dパフォーマンスのバランスに優れた新世代GPUに相応しい製品に仕上がっていることが伺える。特に、HD 7870についてはHD 6870並みの消費電力でありながら、NVIDIAのハイエンドGPUであるGTX 570に匹敵するパフォーマンスを実現しており、そのワットパフォーマンスと実性能は大変優秀であると言えよう。

 199ドル~399ドルの価格帯を担うこととなるRadeon HD 7800シリーズは、ハイミドルGPUとしてその価格にも期待が掛かる製品だ。現時点でAMDから販売価格についてのアナウンスは無いが、価格次第では上位モデルのRadeon HD 7950などと比べても魅力的な存在となるだろう。次世代のハイミドルGPUに期待していたユーザーにとって、3月19日以降とされる販売解禁日が待ち遠しい日が続きそうだ。

(2012年 3月 5日)

[Reported by 三門 修太]