通勤手当なんて廃止すべき

首都圏で働く多くの人が、片道でも 1時間、時には 1時間半や 2時間など、全員あわせれば膨大ともいえる時間を通勤に費やしてる。

往復だと 2時間から 4時間にもなるし、混み方も尋常じゃない。

座れないとか人とぶつかるってレベルじゃなくて、「なんで他人とここまで密着しなくちゃいけないわけ?」みたいな状況。

時にはヒールで踏まれたりコートに口紅を付けられたりもするし、顔に他人の汗や髪の毛がついたりもしてマジ気持ち悪い。

妊娠してる人や足が悪い人、閉所パニックなどの持病があれば、身の危険を感じることもあるはず。


このヒドい通勤事情をさらに悪化させてるのが、会社が通勤手当を払うという制度です。

たとえば、

A) 会社から 2駅の A駅近くに住むと家賃は 10万円だが、通勤定期代は月 3千円、通勤時間は 15分


B) その駅から 10駅(合計 12駅)離れた郊外の B駅近くに住むと、家賃は 8万円になるが、通勤定期代は 1万円、通勤時間は 1時間 5分になる

という場合、会社が通勤手当を支給すると、B駅在住の方が実質的な生活費が 2万円増えるんだよね。
(両方とも通勤定期代の負担はゼロ。ただし家賃負担が B駅選択の方が 2万円安いため)


もちろん A駅の方が通勤は圧倒的にラクなので、「 2万円より、人生の時間と気持ちよさの方が大事」な人は A駅を選ぶ。

でも世の中には、「 2万円も生活費が増えるなら、月に 44時間という拘束時間は喜んで差し出す!」という人もたくさんいる。( 44時間= 1日 1時間×往復×月 22日の出勤の場合)


ちなみに片道 1時間の通勤に 2万円の通勤定期代を負担してくれる会社って、社員に時給 454円で、毎日 2時間、通勤電車に乗るというアルバイトをさせてるようなもので、

「週休 2日、一日 8時間勤務、基本給 xx万円、ただし毎日 2時間は、時給 454円で満員電車に乗るというアルバイトをすることが条件」って会社なんです。

つまり今って、「本来の仕事」と「通勤電車に乗るという仕事」が、抱き合わせ販売されている。


★★★


当然、「そんなアルバイトしたくない」って人もいます。

だってこのアルバイト、めっちゃ拘束時間が長いんだもん。

月44時間 = 年間 528時間 = 年間 44日間分の活動時間(睡眠時間等を除き、1日の活動時間を 12時間と仮定した場合)にも相当するアルバイトだから、

「そんな時間があるなら、通勤という低価格バイトではなく、別のことに使いたい」と考える人もいます。


そしてそういう人は、

・狭くていいから会社のすぐ近くに住む
・フリーランスになる
・出勤時間が遅い業界や職種に就職、もしくは転職する(必要通勤時間は同じだが混まなくなる)

などの問題回避行動を、個人的に採用するわけ。


でも、全員がそんなことできるわけじゃない。だからやっぱり、「通勤ラッシュをなんとかする」っていう方向で考えるべきなんじゃないの? とも思う。

政府も企業も鉄道会社も。そしてもちろん、ひとりひとりの個人も。


★★★


具体的には、まずは通勤手当を止めたらいーんじゃないでしょうか。

会社が通勤手当の 2万円を給与として払えば、Bさんは間違いなく、もっと近くに住もうと考えます。

会社の負担額も Bさんの生活費も変わらないのに、Bさんの通勤時間は短くなる。

これは、社員を遠くに住ませるための通勤手当という制度を廃止すれば、全員が得するってことを意味します。


もしくは通勤手当の代わりに、会社の近くに住む人に「近隣居住者向け家賃補助」を出せばいい。

会社だって、社員が朝からラッシュで疲れて出勤してくることを、望んでるわけじゃないでしょ?

だったら「近くに住む」ことへのインセンティブ制度を作るべきです。「遠くに住むと得する通勤手当制度」の代わりに。


もちろん厳密に言えば税額が異なるなどの細かい話はあるけど、税制なんてしょっちゅう変わってるんだから、そっちを変更したらいいじゃん。

「税額が違うから、通勤手当を給与に振り替えるのは無理!」とかいう(屁)理屈をいう人って、

・問題を解決できない理由を考えて発表するのが、大好きである
・つらいことを我慢するのも嬉しい
・お上が決めたことは、絶対に変更すべきでないと思ってる

のどれかだと思う。


あとね、この話をするとすぐに「通勤時間は読書が出来て有意義」とか言い出す人がいるんだけど、そういう人って、

・自分の手の届かない場所にあるブドウは、すっぱいブドウだと考える性格である
・自宅が汚く、通勤電車よりも不快な環境である
・カフェなど、通勤電車の中より読書に向いた場所の存在を知らない

のどれかでしょう。


都心に安い住宅が少ないとかいうのも、ニワトリ卵な話です。

渋谷のベンチャー企業に勤める若い人たちが渋谷周辺に住もうと考えるから、その周辺に単身者用の賃貸住宅が増える。

都心なんて高層化すれば、いくらでも床面積は増やせるんだから、さっさと都心部における低層住宅の建設を規制して、マンハッタンと同じくらいの高層化率を実現すべき。


あと良く聞く反論は「単身の人にしか、近くに住むのは無理」って意見なんだけど、コレも全く理解できません。

なんで夫婦共働きだと、単身者にできることができないの? ふたりで家賃を負担すれば、ひとりあたりの家賃は確実に低くなるんだから、無理なわけ無いじゃん。

それに、子育て中の共働き夫婦こそ、時間がものすごく貴重なんじゃないの? 

家賃が割高でも会社の近くに住むのは、「お金より時間が貴重」って人にこそ合ってるスタイルなんだから、ほんとは単身者より子育て世代の方がメリットは大きいんだよ。


★★★


鉄道会社側で言えば、通勤定期の割引率も問題。割引率を下げれば、企業側も全額補助するのがつらくなり、「社員には、もっと近くに住んでほしい」という方向で、知恵を絞り始める。

通勤定期が高くなれば、ワークライフバランス大流行の昨今、会社だって残業代を 1時間減らすのと、通勤時間を1時間(片道 30分)減らすという両方の選択肢を使い始めるはず。


そもそも今は、どこの業界でも人手不足が半端ない。しかも、これから日本の生産人口はどんどん減っていく。政府は「女性や高齢者にもっと働いてもらおう」とよく言ってるけど、

今既に働いてる人の、無駄になってる時間を解消するだけでも、全体としてはものすごい有意義な時間が捻出できる。

たとえば通勤に往復 2時間かかってる男性が、それを 30分にできたら、残りの 1時間半は家事や育児の分担に回せる。

保育園に迎えに行き、夕食の買い物をして料理をする。 1時間半って、それだけのことが可能になるほどの大きな時間なのに、今はそれが「電車の中」で浪費されてるんだよ。


子育て中のお母さんだって、通勤時間が「チャリで 15分」だったら働ける、という人はたくさんいる。だけど片道 1時間といわれるから、職場復帰も断念せざるを得なくなる。

もちろん高齢の人にとっても、通勤不要なら働いてもいいけど、60代になってから、あの電車で通勤してまで働きたくないって人は多いでしょう。

女性と高齢者の力で労働力不足を解消しようと提言する人も多いけど、そういう人達がまったくこの問題(通勤時間の問題)に触れないのは、ちょっと想像力が乏しすぎる。



大事なことは、

・問題を問題と認識し、
・問題を解決するためにはなにをすればいいのか

という方向で思考することです。


問題を「仕方のないこと」「我慢しよう」と考えてしまい、「できない理由」ばかり声高に叫ぶ人が増えてしまうと、世の中は進歩しない。

先日の 通貨のエントリ でも書いたように、面倒なこと、理不尽なこと、大変すぎることに関しては、「これってちょっと変じゃね?」って声に出していいましょう。

そして可能なら、個人としてどんどんそれらを避けましょう。


ひとりひとりがそうすることで、問題解決への道が拓けるのです。



 そんじゃーね!



追記)後日談 ↓



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