----------------------------------------------------------------------------     インク小分けの手順 ----------------------------------------------------------------------------                         Author: Orihika Ikuo                         Create: 2020.12.27                         Update: 2020.12.28                         Update: 2020.12.31                         Update: 2021.01.03                         Update: 2021.01.05                         Update: 2021.01.08 ■概要  この資料は、万年筆インクを交換する際に小分けにする際の手順の説明です。 ■背景  近年、非常に多種多様な万年筆インクが流通するようになり、愛好家が増大してい ます。  素晴らしい色彩のものが多数存在し、様々なものを試したり収集したりしたいとい う要望が高まっていますが、万年筆インクは比較的高価であること、筆記使用での消 費に限界があることなどから、小瓶に小分けして交換する「インク交換」が行われて います。 ■本資料の目的  インク小分けは、万年筆インクの瓶本体から、独自に用意した小瓶にインクを少量 分け入れる作業で、液体計量用シリンジ等を使用して行います。  それ自体は特に難しい作業ではないですが、使用済シリンジの洗浄に工夫が必要の ため詳細を説明します。 ---------------------------------------------------------------------------- インク小分け手順 概要編 ---------------------------------------------------------------------------- ■準備する資材 ・インク(本体) ・小分け用小瓶 ・シリンジ×2 ・空のペットボトル×2(以下、ペットボトルA、Bと呼びます) ・紙コップ×2(以下、紙コップC、Dと呼びます) ・吸水紙 ・無地ラベル ※詳細は「補足情報:準備する資材(詳細)」を参照。 ■作業手順 ▼インクの取り分け ・シリンジを使い、インクを小瓶に取り分けます。 ▼シリンジの洗浄 ・シリンジで水を吸って吐きだすを数回繰り返し、まずシリンジの注射管を洗浄しま  す。 ・注射管を外し、ピストンも抜いて、ピストンのゴム部分を洗浄します。 ・シリンジ本体内部に水をかけて仕上げ洗浄します。 ・乾かしてから組み立てます。 ※詳細は「インク小分け手順 詳細編」を参照。 ---------------------------------------------------------------------------- インク小分け手順 詳細編 ---------------------------------------------------------------------------- ■作業手順 ▼準備 1.ペットボトルA  洗浄用のきれいな水を汲み置きしておきます。  水が必要になった場合に、作業場所から水道まで都度移動しなくて済むようにすることが目的です。 2.ペットボトルBを  空の状態で蓋を開けておきます。  洗浄で汚れた水を一時的に貯めておくために使用します。 3.紙コップA  洗浄用水を注ぎ入れ、作業場所に配置します。 4.紙コップB  空の状態で作業場所に配置します。  洗浄で汚れた水を一時的に貯めておくために使用します。 5.吸水紙A  吸水紙1枚を四つ折りにして置いておきます。 6.吸水紙B  吸水紙をシリンジ本体内部に差し込める幅・長さの短冊状に切っておきます。 7.シリンジA  インクを取り分けるのに使用します。 8.シリンジB  シリンジAを洗浄する際に、途中で水を入れて使用します。 ▼インクの取り分け 1.シリンジAでインク瓶(本体)から小分け瓶にインクをとりわけます。 2.無地ラベルにインク情報を書き、小分け瓶に貼り付けます。 ▼シリンジAの注射管の洗浄 1.注射管の表面にインクが付着していたら、吸水紙Aでふき取ります。 2.シリンジで紙コップAから水を1/3ほど吸い、その後ピストンを一杯まで引いて空気  を入れます。 3.シリンジ本体内ををゆすぎ、汚れた水をペットボトルBに吐き出します。 4.上記2.3.を、内部をゆすいでも色がつかない状態になるまで繰り返します。おおむ  ね4~5回で完了します。  シリンジ本体が無色透明の場合は、本体を見て水が無色か確認します。  シリンジ本体が有色透明の場合は、ペットボトルBに吐き出す際にペットボトルの  内壁にかけるようにして水が無色か確認します。 5.注射管をペットボトルBの中に、ピストンを数回往復させて水分を飛ばします。 6.注射管を四つ折り吸水紙Aに向け、ピストンを往復させて水分が残っていないか確  認します。 7.注射管をシリンジから抜きます。 ▼シリンジA本体とピストンの洗浄 1.シリンジBで紙コップAから水を適量吸っておきます。 2.シリンジ本体からピストンを抜きます。 3.ピストンのゴム部を紙コップBの上にかざし、シリンジBで水をかけて流します。 4.水分を切った後、ゴムを吸水紙Aに乗せて残りの水分を取るとともに、インクが残  っていないか確認します。  吸水紙Aに色がつくようなら、再度水をかけて流します。 5.シリンジ本体を紙コップBの上にかざし、内側にシリンジBで水をかけて流します。 6.水分を切った後、シリンジ本体内部に吸水紙Bを差し入れて残りの水分を取るとと  もに、インクが残っていないか確認します。  吸水紙Bに色がつくようなら、再度水をかけて流します。 7.念のため、しばらく外気にあてて水分を乾燥させます。 ▼シリンジAの組み立て 1.シリンジ本体、ピストン、注射管を組み立てます。 2.注射管を四つ折り吸水紙Aに向け、ピストンを往復させて水分が残っていないか確  認します。 3.必要に応じて、次のインク取り分け作業を行います。 ---------------------------------------------------------------------------- 補足情報:準備する資材(詳細) ---------------------------------------------------------------------------- ■基本使用資材 ・インク瓶(本体)  小分けする元となる市販インクの瓶です。  一般的には50~70mlのものが多いですが、インクの多種多様化に伴うインク交換が  一般化したのをきっかけに20~30mlなど少量のものも増えています。  パイロットの350ml瓶もあります。 ・小分け用小瓶  密閉性がある小型容器であれば基本的になんでも良いです。  インク交換会で最もよく使われるのは、株式会社タミヤ製「スペアボトルミニ(角  ビン)」 、通称「タミヤ瓶」です。  スペアボトルミニ (角ビン)  https://www.tamiya.com/japan/products/81043/index.html  この瓶は本来、模型塗料用のスペア瓶で、10ml・99円(税込)です。  模型店等で入手可能な他、6本入りの通信販売もあります。  https://www.amazon.co.jp/dp/B01KPYJLAU  模型塗料用の瓶だけあって密閉性が高く、しっかり蓋をすると瓶を逆さにして放置  しても染み出てこない仕組みになっています。  表面のタミヤのロゴはシールになっていて簡単にはがすことができます。 ・シリンジ  コスメ用品として香水・化粧品小分け用に使用される注射器です。  100均ショップにて入手可能で、模型店・ホビーショップ等でも塗料・溶液作業用  として取り扱いがあります。  洗浄して何度も使用可能で、正確に分量を量り取るにも便利です。  なお、1つはインクを取り分けるため、1つはシリンジの洗浄のために使用します。 ・ペットボトル  シリンジを洗浄する際に水を使用しますが、水場のそばで作業するのでない場合に使用します。  1本は洗浄用の水を用意するため、もう1本は排水をためるために使用します。  なお、事前にラベルを取り外し、中が良く見える状態で使用します。 ・紙コップ  シリンジを洗浄する際の水を小分けにしたり、排水を受けたりするのに使用します。 ・吸水紙  洗浄したシリンジの水分を取る際に使用します。  ティッシュペーパーと比較して毛羽・紙粉が出にくい、ペーパータオル、キムワイプ等が適しています。  キムワイプ 12×21.5cm /1箱(200枚入) S-200 596円  https://www.amazon.co.jp/dp/B001EHI9XI  日本製紙クレシア株式会社製。  液体薬品を取り扱う研究室、工場、病院などで使用される紙製ワイパー。  ペーパータオル  台所用の紙製吸水シート。色々な製品があるが、カット状態で使用できる製品の例を挙げる。  スコッティ ペーパーふきんサッとサッと 200組 305円  https://www.amazon.co.jp/dp/B0012VQMUS  エリエール ラクらクック キッチンペーパー 100組 519円  https://www.amazon.co.jp/dp/B003EHXLQG ・無地ラベル  小分け用小瓶にインクの情報を記すために使用します。  小分けしたインクをインクの色だけでメーカー・色名を見分けるのは困難なので、  無地ラベルにメーカー/ブランド名と色名を記入するようするのがおすすめです。  また、ラベルの一部をインクで試し塗りしておくと、わかりやすくて便利です。  おすすめは、色名等の情報を書いたラベルを小分け瓶の側面に貼り、試し塗りした  ラベルを蓋の上部に貼る方法です。  側面用ラベルの例  ヒサゴ A4インデックス用シール角丸 60面(20シート入り) OP3015  https://www.amazon.co.jp/dp/B000T42YV0  ※横20mm×縦24mm角丸型  蓋上面用ラベルの例  ヒサゴ A4ミニ丸シール 150面(10シート入り) OP3018  https://www.amazon.co.jp/dp/B000T42YVU  ※直径10mm丸型  ラベルの代わりにマステを巻いてそこに記入する方法もあります。 ---------------------------------------------------------------------------- 補足情報:オプションの作業手順と資材 ---------------------------------------------------------------------------- ■オプション作業手順  以下の作業手順は、必ずしも実施しなくても大丈夫ですが、必要に応じて実施する 場合もあるオプション作業として紹介します。 ・共洗い  上記手順、特に「注射管の洗浄」において水分は除去され、その後の乾燥時間によ  り水分についてはほとんど気にする必要がない状態になります。  しかし、もうひと手間かけて水分を除去したい場合、「共洗い」を行う方法もあり  ます。  共洗いとは、液体薬品実験等で使われる手法で、各種容器を水などで洗浄した後に、  次に入れる主要薬液ですすいで水分を主要薬液で置き換える操作となります。  具体的には、「注射管の洗浄」の最後に次に取り分けるインクを若干(注射管を満  たし、少量が本体に入るくらい)吸い込んだ後、ピストンを数回往復させてインク  分を飛ばします。  もし水分が残存していても、この作業で水分がインクに置き換わり、正式にインク  を吸い込んだ際に水分の混入がより少なくなります。  貴重なインクを洗浄剤代わりにして捨ててしまうこともあり、あくまでオプション  として紹介するにとどめます。 ・アルコール洗浄  上記手順、特に「注射管の洗浄」において水分は除去され、その後の乾燥時間によ  り水分についてはほとんど気にする必要がない状態になります。  しかし、もうひと手間かけて乾燥させるために、無水エタノール等を使用したアル  コール洗浄を行う方法もあります。  具体的には、「注射管の洗浄」の最後にアルコールを若干(注射管を満たし、少量  が本体に入るくらい)吸い込んだ後、ピストンを数回往復させてアルコール分を飛  ばします。  もし水分が残存していても、この作業で水分がアルコールに置き換わり、アルコー  ルも水分より早く乾燥します。  本作業のために別途無視エタノールを調達する必要があるため、あくまでオプショ  ンとして紹介するにとどめます。 ・プラスチック資材の事前洗浄  一般にプラスチック製品は、金型(金属製の型)にプラスチック樹脂を注入したり、  樹脂を金型でプレスすることで生産されます。  その際、成形した製品が金型から分離しやすいように、あらかじめ「離型剤」を塗  布しておくことがあり、離型剤は製品出荷までに洗浄される場合と、残存する場合  があります。  インク小分け作業で使用するプラスチック資材(シリンジ等)を購入してパッケー  ジをあけた際に離型剤が残存していた場合は、事前に洗浄しておく必要があります。  離型剤にはいくつかの種類がありますが、良く使われるものとして「シリコーンオ  イル」があります。  シリンジの場合、吸水紙を細く丸めた紙棒を作り、本体内側をこすってみて、油状  のものが付着する場合は洗浄したほうが良いですが、100均ショップ等で入手可能  な代表的製品で確認したところ、特に残存は見られませんでした。  もし洗浄する場合は、中性洗剤を使用し、細く切ったスポンジで本体内部を洗浄す  ると良いでしょう。 ■オプション使用資材 ・スポイト  シリンジの代わりにインク小分けに使用します。  洗浄して繰り返し使用可能ですが、使い捨てタイプにして洗浄の手間を省くのが良  いでしょう。 ・水皿  シリンジを洗浄する際に水を入れられる皿状の容器を使用するのも便利です。  密閉型食品小分けパックなどを利用すると、各種資材の入れ物にもなります。 ・無水エタノール  シリンジ洗浄の際、水で洗浄した後の仕上げに無水エタノールを使用すると、カビの原因と  なる水分を除去しやすくなります。  無水エタノールP 500ml  https://www.amazon.co.jp/dp/B000TKDKA8 ---------------------------------------------------------------------------- 補足情報:その他 ---------------------------------------------------------------------------- ■運用ルールの確認  インク交換を円滑に行うため、以下の点について取り決めておくことをおすすめし ます。 ・小分け分量について  もし等量交換にこだわるなら、小分け分量もあらかじめ取り決めておく必要があり  ます。  最もよく使われるタミヤ瓶の仕様に合わせて、小分け量を10mlとする例をよく見か  けます。  ただし、最近は小容量の市販インク瓶が増えていること、ガラスペン・つけペンで  少量づつ使う場合は10mlでもなかなか使い切らないこともあり、交換単位を5mlと  するのも良いでしょう。  その場合、5ml×2本と10mlの交換はどうするかなども決めておくと良いでしょう。 ・小分け作業について  一番効率が良いのは、インクの持ち主があらかじめ小分けにした瓶を持ち寄りイン  ク交換を行うことですが、事前準備が面倒などの理由で相手に小分け作業をまかせ  る場合があります。  その際、小分け作業、正確には小分け後のシリンジ洗浄作業について、方法を合意  しておく方が良いです。  インクは劣化しやすい性質があるので、シリンジに残存したインクや水分の混入に  は気をつかう必要があります。個人によって考え方が分かれる部分なので、どうい  う手順でシリンジを洗浄するかを共有しておくのがおすすめです。 ■使用資材について ・タミヤ瓶について  タミヤ製スペアボトルには丸瓶(10ml、23ml、154ml)もあります。  スペアボトルミニ(丸ビン):10ml・99円(税込)  https://www.tamiya.com/japan/products/81044/index.html  スペアボトル(計量目盛つき):23ml・99円(税込)  https://www.tamiya.com/japan/products/81041/index.html  スペアボトル46(計量目盛つき):46ml・99円(税込)  https://www.tamiya.com/japan/products/81042/index.html ・小分け瓶について  タミヤ瓶のような模型用スペア瓶は、タミヤ以外の模型メーカーからも販売されて  います。  また薬品・小物入れ用の小型瓶もいろいろと販売されています。  安価な小分け瓶として、弁当用調味料小分け瓶(たれ瓶)を使用する方もいらっし  ゃいます。  ただし密閉性が良くないので、ジップ付き密閉袋に入れるなどの工夫が必要です。 ・シリンジについて  シリンジ(syringe)とは本来注射器の意味ですが、日本語で「注射器」というと医  療用のイメージが強いため、コスメ用品(香水・化粧品小分け用)では「シリンジ」  と呼ばれることが多いです。なお、針のない「浣腸器」もsyringeに含まれます。  syringeはbulge(バルジ、注射筒)とplunger(プランジャー、ピストン棒)から  なり、ここまでが本体で、医療用注射器は「注射針(尖ったもの)」を装着した状  態、コスメ用シリンジは「注射管(尖ってないもの)」を装着した状態、となりま  す。 ・コンバーターのインク容量について  パイロットのカクノで使用できるコンバーターとインク容量は以下の通りです。   CON-40  0.4ml   CON-70N  1.1ml ■追加情報について  本資料で説明した方法以外のおすすめ手順などがあれば、情報提供をお願いします。