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【政策会議日記1】独法改革が目指すもの(行政改革推進会議)

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

政策会議日記

本欄において、【政策会議日記】と冠に付した記事では、私が委員等として出席した、政府関係の政策形成に関わる会議について、そこでの議論や私が主張した見解などについてご紹介します。もちろん、本欄の中で意見にわたる部分は、私見であって、政府や当該会議の見解を代表するものではありません。

行政改革推進会議

12月20日夕方に、安倍晋三首相が議長の行政改革推進会議において、私も議員として出席し、独立行政法人改革の基本方針を取りまとめました。行政改革推進会議は、第2次安倍内閣において、行政改革に関する重要事項の調査審議等を行うべく、2013年2月に安倍首相を議長として設置され、私も議員の1人として議論に参加することとなりました(行政改革推進会議議員(PDF))。

12月20日に首相官邸で開催された行政改革推進会議第8回会合では、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針について(PDF)」が了承されました。その模様は、総理の1日:安倍総理は第8回となる行政改革推進会議を開催しました(首相官邸ホームページ)でもご覧頂けます。

「独立行政法人」(以下、独法)と聞くと、「官僚の天下り先」とか「官の肥大化の元凶」とか「『埋蔵金』と揶揄される溜まり金をたくさん抱えている」などと悪いイメージを抱く方もおられるかもしれません。かつてはそうした状況がありましたが、実は近年次第に改善されてきています。しかし、一度付いた悪いイメージは容易には払拭しきれません。今回取りまとめられた独法改革は、これを実行することで、根本的なところから独法の運営の仕組みを変えて、国民生活に貢献する組織となって、悪いイメージを一新することに資するという思いであります。

そのために何をどう変えるのか、今回の独立行政法人改革のポイントについて解説します。

独法の役員は、責任を取らない割には高給をもらっているという批判が一部にありました。他方、研究開発を行う独法では、世界でトップ級の研究者を雇うには、国家公務員並みの給料では雇えないため優秀な人材が確保できないという反発もありました。これに対して、役員の責任の所在を明確にするとともに、研究者には年俸制も念頭に成果主義の給与体系を導入して意欲を高める仕組みを導入することとしました。役員の責任の所在を明確にするというのは、例えば、役員に職務忠実義務及び任務懈怠に対する損害賠償責任を課し、業務運営上の義務と責任を明確化することです。また、独法の監事(民間企業では監査役)の機能も強化します。

私は、今般の改革論議の中で、民間の株式会社に適用されている「会社法」を意識して、それに近いガバナンスの構造を独法に埋め込むことを繰り返し提案しました。独法にも民間企業と同様に緊張感のあるガバナンスが構築できれば、前述のような独法の悪いイメージを払拭するのに資するでしょう。ただ、独法は行政機関であり行政法体系の世界にあって民間企業のようにあらゆることについて個人に責を負わせることは困難ですが、できる限り独法役員に責任を課すことで、その対価として報酬を与えるという関係を構築できれば、独法役員への高給批判も和らぐのではないかと考えました。

もう1つの強調したいポイントは、金融業務を営む独法には、金融庁検査を受けるなど金融機関としてのガバナンスが働くようにしたことです。独法が営む金融業務の中には、経済力のない企業や個人に対して低利融資をするものの、返済が滞ったら安易に救済し、その救済のためには税金が使われるというルーズな運営をした過去がありました。そして、この行為は「政策意図がある」ことを盾に是認されてきたのです。救済を一切してはいけないという訳ではありませんが、融資は返済不要の補助金ではないので、金融業務を営む限りルーズな運営をしないようにきちんと歯止めをかけることを、今回の改革で求めたのです。公共事業執行や研修施設運営などの業務にもそれらの特性に応じたガバナンスの高度化を求めることとしています。

独法改革「三度目の正直」

独立行政法人改革は、今回が初めてではありません。第1次安倍内閣で2007年12月に取りまとめられた独立行政法人整理合理化計画(PDF)(およびその概要(PDF))を受けて2008年4月に独立行政法人通則法の改正法案が提出されましたが、2009年7月の衆議院解散とともに廃案となりました。そして、民主党政権下でも、2010年1月に独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針(PDF)を受けて2010年5月に独立行政法人通則法の改正法案が提出されましたが、2012年11月の衆議院解散とともに廃案となりました。

そして、今般「三度目の正直」として、独立行政法人改革が取りまとめられました。これまで2度の廃案は、官僚の抵抗というより、衆参ねじれ状態によって決めきれなかったというべきです。というのも、2度とも、全省庁がその改革案を承認する閣議決定を経ているからです。今度こそ、前述のように独立行政法人通則法を改正して、独立行政法人のガバナンス強化を図り、国民生活に貢献する組織に生まれ変わって頂きたいものです。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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