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株価下落で、消費増税は延期される!?

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
12月25日に2万円を割った日経平均株価。株価急落で消費増税は3たび延期されるか(写真:森田直樹/アフロ)

日経平均株価は、12月25日に2万円を割った。27日の終値では2万円台を回復したが、株価は経済の先行きの不透明感を反映してか、乱高下する局面もある。

12月の株価下落は、リーマンショック期以来の下落率だったことから、「リーマンショック級の事態が起こらない限り、消費税率引き上げていきたい」との安倍晋三首相の発言を想起させた。つまり、「リーマンショック級の事態」が起きたから、2019年10月の消費増税は3たび延期されるということか、と。

他方、12月21日には、消費増税を織り込んだ2019年度予算政府案を、安倍内閣として閣議決定した。

今後株価が低迷すれば、年が明けて消費増税は3たび延期できるだろうか。

結論から言えば、消費増税を織り込んだ2019年度予算政府案を閣議決定した今、2019年10月の消費増税は立法的にほぼ覆せない。この期に及んでは、首相が宣言しただけでは延期できない。

2019年10月の消費税率引上げを止めたければ、2019年3月31日までに延期の立法手続きが完了しなければならない。それが、ほぼ不可能な段階に入ったといってよい。

なぜ、3月末までに完了しなければならないか。

それは、拙稿「消費増税撤回を問うて、衆参ダブル選挙!?」でも述べた通り、消費税制には経過措置があるからである。

2019年4月に入れば、消費税制の経過措置に基づき、10月1日以降に商品の授受が行われる契約は、新税率で契約を結ばなければならない。その上で、もし4月以降に10%への引上げを撤回しようと思っても、既に契約が新税率で結ばれているから、撤回されれば商取引が大混乱する。そんな大混乱を引き起こすような行政はできない。

だから、消費増税を延期するなら、3月末までに手続きを完了しなければならない。それができなければ、もはや2019年10月の消費増税は予定通り実施される。

2019年10月の消費増税が立法的にほぼ覆せない理由は、以下の通りである。

まず、現行の消費税法では、2019年10月に10%とすることになっている。3度目の延期をするには、法改正が必要だ。もちろん、与党の議席は数の上では衆参両院で過半数を持っているから、可決するのはたやすいかもしれない。しかし、法改正の手続きには時間がかかる。与党内の了承手続きと閣議決定と衆参両院での国会審議が必要である。与党内には、消費増税を予定通りにすべきとの意見を持つ議員もいる。そうした立法手続きをすべて3月末までに終えなければならない。しかも、消費増税を織り込んだ2019年度予算政府案と矛盾しないように手続きしなければならない。

2019年10月の消費増税を止める消費税法改正の立法手続きをするには、その前に、消費増税を織り込んだ2019年度予算政府案を撤回しなければ、その矛盾はなくせない。

では、安倍内閣は消費増税を織り込んだ2019年度予算政府案を撤回できるか。

内閣は、予算案を年明けの通常国会の審議にかける。これまで、国会審議途中で、内閣が予算案を撤回したことはない。東日本大震災が起きた2011年3月でさえ、審議途中だった2011年度予算案は撤回されなかった。内閣は、政権の威信をかけて予算案の年度内成立を図る。年度内に予算案が成立しないと、4月から始まる新年度の行政に支障をきたすからである。

他方、野党は、様々な理由をつけて、予算案の可決を引き延ばそうとする。そうして、通常、衆参両院で予算案が可決されて成立するのは、3月下旬となる。3月下旬までは消費増税を織り込んだ2019年度予算政府案の可決に費やす。その間、消費増税の延期を議論する機会はない。

おまけに、2兆円規模の消費増税対策が2019年度予算案に盛り込まれていて、(良し悪しは棚上げして)その対策で自らの選挙区に公共事業や補助金などを土産に持って帰れる与党議員が多くいる。いまさら、その予算が盛り込まれた2019年度予算案を撤回されては、その「土産」は水泡に帰す。しかも、その対策は、消費増税の実施が前提だ。今の予算案を撤回されては困る与党議員がたくさんいる。

<追記>追い討ちをかけて、12月28日に決定された3~5歳児の幼児教育無償化の制度具体化に向けた方針も、2019年10月の消費増税が前提だ。この無償化を待望する与党議員も多い。無償化に年1.5兆円=幼児・高等教育の方針決定―政府(時事通信) - Yahoo!ニュース

そうした状況だ。消費増税の3度目の延期は、首相が宣言しただけではできず、消費増税が盛り込まれた予算案を撤回するだけでもできず、消費税法の改正を3月末までに完了しなければ、実現しないのである。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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