東電会見、出入り禁止になりました

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東電会見、出入り禁止になりました

この記事は木野龍逸さんのブログ『キノリュウが行く』から転載させていただきました。

東電会見、出入り禁止になりました

表題のとおり、昨年3月17日から参加し続けていた東京電力本店の記者会見に、出入り禁止になりました。同時に、東京電力から送信されてきていた緊急時の連絡メールが停止になっています。

東電が出入り禁止にした理由は、株主総会の音声を外部に配信していたことでした。6月27日の株主総会は、東電によれば録音、録画や配信が禁止になっているため、そのルールに違反した者は記者会見に出席することはできないという説明を受けました。東電はさらに、「約束を破った」ことが出入り禁止の理由だとしています。約束というのは、東電が設定したプレスルームは配信が禁止されており、また株主総会でも配信をしないというルールがあったにもかかわらず、それを破ったということです。

そのため6月27日夕方の記者会見以降、私は出席することができていません。

東電の記者会見で私は、株主総会のネット中継はしないのかと質問したことがあります。東電の松本本部長代理は6月26日の会見で、「株主との議論の場なので公開する考えはない」と回答しています。同じような主旨では、実は株主総会でも動議として、NHKやニコ生などに生中継の許可を与えたらどうかという提案がありました。勝俣会長は採決をとらず、私は必要はないと考えるのでご了解たまわりたいと答えました。

これらの回答からわかるのは、会場内の音声や映像を外に出すことは法的に禁じられているのではなく、東電は「不要」と考えているためだということです。つまりメディアを含めて中継禁止、配信禁止にしているのは、東電の報道管制ではないかと考えられます。

しかしこの考え方には大きな疑問があります。今のような東電の状況、つまり公的資金という名称の税金を損害賠償のために1兆円近く交付され、7月中にはさらに1兆円の税金投入により株式の過半数を国が所有するという中で、株主総会は株主だけのものであるという理由により非公開にするということが理に適っているのだろうかということです。東電に関係する情報は、今や国全体に影響を及ぼします。このような公共性のある情報は開示すべきではないでしょうか。その一環で、東電の経営に大きな影響を与える株主総会は、記者会見と同様、生中継をすべきだと思えます。

6月26日の東電会見では、この疑問も質問しました。今の東電にとって、福島で被害を受けている人たち、除染が必要なエリアに居住する人たち、東日本全域で従来の法整備では処理できない放射性物質を含む廃棄物が生まれたことで影響を受けている人たちは、すべて利害関係者(ステークホルダー)であり、東電はそうした人たちに情報を提供する義務があるのではないかということです。株主総会は、そうしたステークホルダーにも影響する議案が上程されていました。

議案では、例えば、原発事故の被害者へ迅速かつ最大限の補償を行うこと、賠償は徹底した固定資産の売却と経営の合理化により自力で行うこと、原発から70km圏内での安全協定の締結、電気料金の算出について情報を開示することで透明性を確保することなどを、定款に盛り込むことが提案されていました。これらは被害者へも重大な影響がある内容です。

こうした株主提案の例示をしたうえで、総会を中継で公開する考えはないかと質問したことに対し、前述したように松本本部長代理は、「株主との議論の場なので公開する考えはない」としました。

さらにもうひとつの理由、ルールを破ったことについても考えてみます。株主総会での配信禁止というルールは、東電が不要だと考えることをやってはいけない、というルールです。東電はこのルールを定めている根拠について、株主の(プライバシーの)保護のためと説明しています。しかし株主総会での発言の際は、株主の出席番号(入場の時に番号の配布を受ける)をいうだけであり、個人名を明らかにする必要はありません。この出席番号は個人名とリンクしていないため、これだけでは個人を特定することはできません。

確かに記者会見は、東電が主催しているため、東電のルールに従う必要があるといえます。しかしそれには、社会的要請とのバランスが必要ではないでしょうか。例えば議事内容と関係のない質問を延々と続けるなどによって議事を妨害しないなどというのは基本的なルールですが、だからといって質問に対する回答をせずにはぐらかすことに対して、質問者(報道陣や株主)から回答を要求することまで制限されると、すべてが東電の望む方向に進むことになります。都合の悪いことに回答する必要がなくなります。平時であればともかく、非常事態の中で利潤追求を第一目的にする私企業に情報を統制されるのは非常に危険だと思えます。

さらに、前述したような財務状況にある東電には、福島第一の事故や、自社に関する情報を開示する社会的責務があるといえます。私の一方的な思いですが、株主総会もそうした開示すべき情報に含まれているのではないでしょうか。そうであるなら、株主保護という理由で東電が開示しない情報を伝えた私に対して、記者会見に出入り禁止措置をとるというのは、適切だといえるのでしょうか。これでは単に報道管制をしているだけではないかというのは、私の思い過ごしでしょうか。

もちろん一定のルールは必要です。株主総会についても、無制限に公開すべきかどうかは議論があるでしょう。しかし放射性物質を多量にまき散らしたままにし、賠償も完了せず、国から巨額の税金を投入することでかろうじて存続している東電を、一般的な会社と同レベルで論じることが適当とは思えません。

そうした諸々の事情を思うと、東電の作ったルールを守らないという理由で知る権利、報道の自由を制限されるというのは、納得がいきません。取材相手との信頼関係を作ることも大事ですが、それは個別取材の可否において重視されることで、会見への参加資格とは関係がないと思います。とくに福島の原発事故のような甚大な事故を起こした会社の場合、会見場はできる限り幅広いメディア、記者に開放し、情報を公開する場であるべきです。

この1週間、弁護士を通じて東電側に再検討をお願いしてきましたが、東電は、前述したように、ルールを破った、約束を破ったという説明をするだけで、そのルールが何に基づくものなのかを説明せず、再検討の余地はない、これは最終決定であるという回答をしてきました。私としては、問題はあるにせよ、まずは会見に戻ることが重要だと考えていたので、当面はこの事実を公表せず、静かに終わらせようと思っていました。けれども交渉の余地はありませんでした。今後は公開の場で、この問題を議論していきたいと思います。

今後も東電に対しては、会見出席を要求していきます。
ご理解とご支援をお願い申し上げます。

木野龍逸
2012年7月4日

執筆: この記事は木野龍逸さんのブログ『キノリュウが行く』からご寄稿いただきました。

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